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第5話.先輩のアプローチ
部室での出来事から数日後。
春竜はなんとなく落ち着かない気持ちを抱えたまま、授業を受けていた。
休み時間になると、教室のドアから明るい声が響く。
「春竜ちゃ~ん!」
顔を出したのはもちろん及川先輩。
クラス中が一斉にざわめく。
「また来たよ」「羨ましい……」と囁く声が耳に届き、春竜は赤面した。
「このあと時間ある? ちょっと一緒に体育館まで行こうよ」
「えっ……あ、はい……」
断れずに頷いてしまう自分に、心のどこかで焦りを感じる。
廊下を並んで歩くと、及川先輩はにこにこと話しかけてきた。
「やっぱり春竜ちゃんがいると、部の雰囲気が明るくなるんだよねぇ。俺、マネージャーが春竜ちゃんでほんと助かってる」
「そ、そんなこと……」
言葉に詰まる春竜の横顔を、及川先輩はじっと見つめた。
「ねぇ、春竜ちゃん。俺が一番頑張れるのって、君が見てくれてるときなんだよ」
――ドキン。
胸が強く鳴った瞬間、春竜はどうしても国見ちゃんの顔を思い浮かべてしまった。
そのとき、ちょうど体育館の入口に差しかかると、扉を開けて出てきたのは国見ちゃんだった。
三人の視線がぶつかる。
「……何してんの」
国見ちゃんの声は低く、少しだけ冷たかった。
「おっと、いいところで遭遇しちゃったね、国見ちゃん」
及川先輩は余裕の笑みを浮かべたまま、春竜の肩に軽く手を置く。
「俺、春竜ちゃんと話してただけ。ね?」
「……」
国見ちゃんは言葉を返さず、その視線をまっすぐ春竜に向けてきた。
春竜の胸は、二人の間で引き裂かれるように揺れ動いていた。