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処刑…ルクス早くリティアを助けてあげて🙏🏻🥹 アウレリア本当に人の心を持ってない最低な人なんだよね😣 次の話も楽しみ!
ルクスが発起した!! 大規模な内戦になってしまうのか?! せっかく手に入れたリティアを処刑するなんてアウレリアが不気味すぎる… 無事に助けだせますように!
大きな物音に、ルクスは体をこわばらせた。武器に手をかけたまま、宿屋の一室をそっと出、音のした階下を見やる。そこにうずくまるエリィの姿を見て、ルクスはすぐにその場へかけつけた。
「何があった?」
「えへへ……すみません、ルクスさま。しくじりました……」
エリィはリティアを狙ったフラウを捕縛したこと、その移送のさなか、襲撃を受けたことをルクスに報告した。
「そうか……とにかく、お前が無事で良かった」
「ありがとうございます……でも、ルクスさま。リティアのところへ急がないと……」
エリィの治療を後回しにし、リティアの元へルクスが急ごうとしたそのとき、不思議な現象が起こった。ふらっと白い影が、宿屋の壁から溶け出すように、そこへ現れた。老婆の姿をしたそれは二人に歩み寄ると、腰を落として視線を合わせ、こう告げる。
『リティアがさらわれた……王都へ連れていかれたわ。彼女を、どうか助けてあげて……お願い』
そうゆっくりと語り、老婆は風にさらわれるように、ふっと消えて、いなくなった。
「聞こえた……いや、見えていたか?」
「はい、私にも……。今のは、幽霊……ですか?」
「おそらくだが……リティアの能力によるものだろう。意図的か、無意識かは分からないが……俺たちにならできると、助けを求めに来たに違いない」
ルクスはエリィの話を聞いて、リティアの命が危ないと考えていたが、今の現象を考えると、しばらくその心配はないように思えた。
「連れ去られた……ということは、少なくとも王都に到着してアウレリアに会うまでは、リティアは安全だろう。今は先に、お前の治療をしよう」
そう言ってルクスがエリィを抱えようとすると、宿屋の外から思わぬ声がかかった。
「……おいおい、エリィまでやられちまったのかよ」
アドレーは皮肉っぽくそう言った。
アドレーの報告を聞いて、ルクスの表情は深刻さを増した。
「そうか……彼らのことも心配だが、おそらくその兵士たちも、アウレリアの一派ということだろう。一連の事件の証拠となる魔術師たちを、回収に来たと。……ん? いや、待てよ……」
アドレーはエリィを治療する手を止めることなく、静かに主の次の言葉を待った。
「……証拠を消すだけなら、わざわざ馬車を止める必要はない。魔術師もろとも、全員殺してしまえばいい。だが、そうはしなかった。ということは……」
「魔術師たちには、まだ利用価値があると……?」
エリィが主の言葉を継いで、そう推察する。それを聞いて、ルクスも大きく頷いた。
「アウレリアの計画が、今どの段階にあるのかは不明なままだが……もし実行に移せるだけの準備ができていたらマズい。リティアが王都に到着してしまえば、アウレリアは万全でないにしろ、その計画を実行に移すだろう……。もしそうなってしまったら」
「……戦争」
アドレーの短い言葉が、三人に重くのしかかった。
「ルクスさま、急ぎ王都へ行き、アウレリアを拘束しましょう」
痛む体を動かして、エリィがルクスにそう提言した。
「無理だ。我々には隠れた協力者がいるとはいえ、王都を守る王国軍を突破できるような人数はいない……」
「……ルクスさま、一か八かではありますが」
アドレーがこれまでにないほど真剣な表情で、ルクスに声をかけた。
「聞こう」
「急ぎウェスペルへ戻り、そこへいる王国軍兵士に、協力を求めるのはどうでしょうか? 幸い、ここには王家の証たる、ルシウスさまの聖剣――『デュランダル』があります。これを掲げれば、王国への忠義に厚い兵士は、味方してくれるのではないでしょうか……?」
アドレーの提案は、人々の心を信じた上で成立するようなものだ。上手くいくかどうかは、もはや神のみぞ知る策である。この危機的な状況を、そのようなものに任せてよいのか――
だが今のルクスたちには、そんなふうに迷っている時間すらなかった。ルクスはこれまで出会った国民、一人一人のことを想う。その人々が暮らす、国土のことを想う。そして――ルシウスは決断した。
「――ウェスペルへ急ぐぞ」
◇ ◇ ◇
私を乗せた馬車はすぐにフィーネスを発ち、もうウェスペルを越えた。ここで過ごした日々のことを考えると、楽しい思い出ばかりが頭に浮かぶ。そう、最初はどこかも分からず、食べるものもなく、絶望と他人への不信感しかなった私を、リタが、家族が、町が、受け入れてくれて……。今になって思えば、リタやフィーネスの人たちは、最初からずっと、私のことを信じてくれていた。もっと早く、そのことに気付きたかった……。
もう戻れないことを悟って、自然と瞳が潤む。そのときだった。私の隣に、ふっと老婆の例が現れる。……あれ? この人、どこかで――
パン屋で何度も見た、写真のことを思い出した。
(……リタのおばあちゃん)
病気で数年前になくなったというその人が、私の隣に現れた。おばあちゃんは私が声を出さないように、しーっと指を立てる。お茶目な感じが、リタそっくりだ。
『あなたのことを、ルクスに伝えたわ。助けに来てくれるはずよ。それと――』
おばあちゃんはルクスさんたちが話していたことをすべて、私に教えてくれた。
それを聞いて、私はなんとか声が出ないよう、必死に我慢した。
ルクスさんたちは、アウレリアさまのお父さま、セルウスさまの政策について、調べていたこと。
その政策は、たぶんアウレリアさまが考えたものであること。
アウレリアさまには、何か特殊な能力があるかもしれないこと。
その政策によって、アウレリアさまが戦争を画策しているかもしれないこと。
アウレリアさまがその計画のために、私を利用するかもしれないこと――
驚いて、本当に色々な考えが、頭の中をぐるぐると巡った。そんなふうにとても長い間、色々なことを考えて、私は一つの答えを出した。
(もう一度、アウレリアさまと話したい。そしてアウレリアさまの口から、本当のことが聞きたい……)
私の顔を見て、おばあちゃんは何か納得したように頷いた。そしてふっと、消えていく。
私はおばあちゃんに感謝しながら、再会したアウレリアさまになんと言うべきか、必死に考え続けた。
◇ ◇ ◇
ウェスペルの酒場にて、ウェスペル駐留軍の指揮官――フィデリー・デウォートは自らの進退について悩んでいた。酔いが回り、いつものようにそんな思考に陥っていた。
彼はかつて、ドミナティオ王国の第二王妃、エティナリア・ハンス・バーディナルム・ドミナティオの近衛兵として、王妃に忠義を捧げていた。彼自身、その仕事に誇りを持ち、生涯、その役職を勤め上げるつもりだった。しかし王妃が病で亡くなると、その息子、ルシウスを王位継承争いから遠ざけたい、おそらくは別の王妃の差し金により、近衛部隊が解体となってしまう。その口止め料とばかりに、フィデリーは昇進し、今はこうして、駐留軍の指揮官を任されている。でも、そのような経緯で与えられた職に、フィデリーはまったく納得していなかった。信頼してくれる部下のためと自分に言い聞かせ、彼はこれまでその職に収まっていた。
だが、それもそろそろ、終わりにするときが来たのかもしれない、とフィデリーは思う。つい先日、また昇進の話が来た。フィデリーの仕事ぶりは確かなものだったが、それが昇進に直結していると、彼はまったく考えていなかった。おそらくはまた、誰かの差し金なのだろう。そう考えてしまうのも無理はなかった。
そんなふうに、フィデリーが辞め時について考えをめぐらせていると、周囲の兵士が一人、また一人と、店を出ていく。みな、酒を飲み終えて店を出ていく、ような表情ではなかった。
「……隊長、ちょっと」
外から店の中に戻ってきた部下の一人が、フィデリーにそう声をかけてくる。
「どうした……? まさか、例の盗賊団か?」
「いえ、違います。なんと言いますか……とにかく、直接見ていただくのが早いかと」
部下の言いたいことも分からないまま、フィデリーは酒代を残し、店を後にする。
部下へ連れられ、部隊の指揮所まで戻ると、そこには人だかりができていた。その中心には、馬へまたがった、一人の若者がいた。フィデリーはどこかでその若者に、会ったことがあるような気がしていた。フィデリーは人だかりの中を進み、その最前列まで移動する。丁度、その若者が演説を始めるところだった。
「ウェスペルを守る王国軍諸君!! 王家の者として、そなたたちに今、王国の平和のため、働いてもらいたい! 我が名は――ルシウス・グラッド・バーディナルム・エスティ・ドミナティオ! ドミナティオ王国、第三王子である!」
フィデリーの記憶にある、幼き日のルシウスと、今目の前にいるルシウスが、重なった。
ルシウスは腰に下げた剣を抜き去り、高く掲げる。夜の闇の中から、一つ一つ光を集めるように、長い剣身が青白い光に包まれる。それはフィデリーですら、数度しか見たことのない光景だった。
「今王国は、建国以来の危機に見舞われている! 私は自らのこの足で、王国の現状を調べ上げた! そして気付いた!! ドミナティオ王国は今、ある男によって再び戦火を巻き起こそうとしている! 国民の意思とは無関係に! その男の名は――アウレリア!!」
周囲の兵士たちに動揺が走る。しかしフィデリーは冷静だった。己がその命を賭して仕えるべき相手は誰なのか、もう何年も前から、分かっていた。
「私は戦争を止めるべく、アウレリアを拘束しなければならない! だが、私には力が足りぬ! 私一人では、その状況を止めることができぬ! だからどうか!! そなたたちの力を貸してほしい! 王国を信じ、王国を守る者たちの力によって、この王国を、今一度正しい方向へと、導いてほしい!」
兵士たちの動揺は収まらない。そんな中、フィデリーは一歩また一歩、ルシウスへと近づき、そしてその足下に、ひざまずいた。
「……ルシウスさま、この顔を覚えておいででしょうか? あなたさまの母上、エティナリアさまへ仕えておりました、フィデリー・デウォートです。あなたさまのお心、しかと受け止めました。今ここに、私の忠義を……生涯、あなたに捧げましょう」
◇ ◇ ◇
馬車へ乗り、数日が経った。随分長いこと揺れていた馬車が、ようやく止まる。そこで馬車を下ろされた。周囲を確認すると、そこはまだ全然見慣れない、王城の城壁の中だった。周囲にはぽつぽつと衛兵がいて、彼らは私を見るたび、「禁忌の魔女だ」と漏らす。
私は黒髪の女性――オーディアとフラウに連れられ、あのときと同じ、アウレリアさまの執務室へ連れていかれた。彼はこちらに、背を向けていた。二人と一緒に執務室へ入ったけど、オーディアはそれ以上何も言わないし、何もしてこない。自分でアウレリアさまの元まで行け、ということなのだろう。
ゆっくりと歩いて、アウレリアさまに近づく。近くまで行き、彼がこちらを振り返る。見慣れた穏やかな笑みを、彼は浮かべていた。そこへ、フラウが割って入る。
「アウレリアさま!! リティアを連れてきました! ……でもこの女! 逃げ延びた先で、二人も男を作っていました! やっぱりこんな女、アウレリアさまにはふさわしくありません! やはり長年お仕えして、アウレリアさまのことをよく分かっている……私を、アウレリアさまの妻にっ――」
パンッと、鋭く音が鳴った。アウレリアさまがフラウのことを見ることもなく、引っぱたいていた。フラウは頬を押さえ、呆然としている。そんな彼女を脇へ押しやって、アウレリアさまは私に一歩近づいた。
「……リティア。あの日は本当に、すまなかった」
謝られるとは思っていなくて、私は少し動揺してしまった。アウレリアさまはそのまま、つーっと涙を流したかと思うと、そっと私の手を取る。
「私に、もう一度……やり直す機会をくれないだろうか?」
アウレリアさまの真剣なまなざしを私は正面から見るけれど、今の私はもうそのすべてを信用できなくなっていた。私はこの機会に、アウレリアさまの真意を確かめるべく、言葉を紡いでいく。
「……アウレリアさま。私はあのあと地方へ逃げ伸び、そして色々なものを、これまで見ることのなかったものを、聞くことのできなかったことを、見聞きしてきました。それで……アウレリアさまのやられていることは、立派なことばかりです。でも……その結果、王国が戦争を起こそうとしているというのは、本当なのですか?」
アウレリアさまは次に言うべき言葉を考えるように、表情を変化させた。そしてゆっくりと言葉を続ける。
「今、君にすべてを伝えることは難しいんだが……色々な事情があって、私はそうしてきた。だから……あの日のことは、本当に申し訳なかった。でも……今は私のことを、信じてはくれないだろうか?」
また瞳から、雫が流れ落ちた。
私はアウレリアさまとの日々を思い起こす。あの日以外は、本当に素敵な思い出ばかりで……私の能力を、私の言葉を最初に信じてくれたのも、アウレリアさまだった。
でもあのあとの日々で、私は本当に色々なことを経験して、私の知らないアウレリアさまのことも、たくさん知った。
そんな二つの思いを前にして、私が出した答えは――これだった。
「……アウレリアさま。あの日のことは本当に悲しかったけれど、あなたには本当に感謝しています。……でもやっぱり、何も知らないまま、あなたをこれ以上信じ続けるのは、私には難しいです。ごめんなさい……。ずっとずっと……あなたを愛していました」
気付けば一筋、私の頬を涙が伝っていた。
アウレリアさまは私の言葉を聞いて、ショックを受けているようにも見えた。
「アウレリアさま。これまでのことは、今後一切、口外しません。……だからお願いです。あなたの計画について、今一度考え直してはいただけませんか?」
俯きながら、言う。心からの願いだった。国のことを真に憂いているなら、アウレリアさまは、きっと私の言葉を――
そう思い、視線を上げて見えたアウレリアさまの表情は、その場の空気さえも凍るような、冷酷な冷たさを孕んでいた。
「――オーディア、こいつを拘束しろ。三日後、処刑を執行する」
「アウレリアさまっ!!」
私はそう叫びながら、そのまま部屋の外へと引きずられていった。
◇ ◇ ◇
長大な軍隊の列が、まっすぐに王都へと向かっていく。その先頭で馬を駆るルシウスは、街道の人の多さを疑問に思う。それをすぐにフィデリーが察した。しばしお待ちをと言って、フィデリーは列を離れていく。
すぐに戻ってきたフィデリーは、いぶかしむような表情で主君に告げた。
「王都にて、『禁忌の魔女』が捕まったとのことで……三日後、処刑が行われるとのことです。それを一目見ようと、みな王都へ向かっているようで……」
「そういうことか……」
「ルシウスさまのお話では、リティアは魔女ではなく、むしろアウレリアに利用されているとのことでしたが……」
「そうだ。王都に国民が流入すれば、それに応じて衛兵も増強されるだろう。もしかしたら、それすらアウレリアは織り込み済みかもしれない……。だがそれは我々にとって、得策ではない。……フィデリー、部下へ指示を出せ。街道上の都市で、賛同者を募るんだ。こちらも味方を増やすぞ」