テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第2話 〚見えない未来、残る違和感〛(澪)
放課後の教室は、
昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
机の上に差し込む夕方の光が、
ノートの白を少しだけオレンジ色に染めている。
澪は、ペンを持ったまま、
その光をぼんやりと見つめていた。
(……やっぱり、来ない)
今日は一日中、
“あの感覚”がなかった。
頭が割れるような痛みも、
勝手に流れ込んでくる未来の映像も。
以前なら、
何も起きない日の方が少なかったのに。
「澪、帰る?」
えまの声に、はっとする。
「うん……今行く」
荷物をまとめながら、
澪は胸の奥を意識した。
――ドクン。
まただ。
さっきより、少しだけ強い鼓動。
(これ……予知じゃない)
頭じゃなく、
心臓が反応している。
未来を“見ている”というより、
何かを“拒んでいる”ような感覚。
帰り道、
えま・しおり・みさとと並んで歩きながらも、
澪の意識はずっと内側にあった。
「ねえ澪、夏休みどうだった?」
「海行ったよね、楽しかった?」
「宿題終わった?」
質問が飛ぶたびに、
澪は笑って、ちゃんと答える。
でも。
(もし、今、何か起きたら――)
そう考えた瞬間、
心臓が、きゅっと締めつけられた。
(……見えない)
予知は来ない。
代わりにあるのは、
理由の分からない“嫌な予感”だけ。
夜。
自分の部屋で、ベッドに座り込む。
スマホを手に取ると、
海翔からのメッセージが届いていた。
《今日は大丈夫だった?》
たった一行なのに、
胸の奥が、すっと落ち着く。
《うん。ありがとう》
送信した瞬間、
また、鼓動。
――ドクン。
今度は、痛みじゃない。
温度。
(……守られてる、気がする)
でも同時に、
はっきりと分かってしまった。
予知があった頃は、
未来を“知って”逃げられた。
今は、
未来を“知らないまま”進むしかない。
それは、
選ばされるということ。
(もし……)
もし、
この先で誰かが傷つく未来があっても。
(私は、見えないまま、選ぶことになる)
布団に横になり、
目を閉じる。
静かな暗闇の中で、
澪は小さく息を吐いた。
「……大丈夫」
誰に言うでもなく、
自分自身に言い聞かせる。
見えなくても。
怖くても。
――今度は、
逃げない。
同じ夜。
校舎から少し離れた場所で。
「……やっぱりだ」
低い声が、闇に溶ける。
恒一は、
澪の“異変”を、誰よりも早く確信していた。
予知が消えたわけじゃない。
形が変わっただけ。
「見えない未来ほど、
人は縋りたくなる」
その視線は、
静かに、しかし確実に――
次の一手を描いていた。