ラト 探索準備をする
ロボはトリコの除染薬を作るために除菌スプレーを探しに行った。
除菌スプレーは前にも取りに行ったことがあったので、スムーズに探索を進め、無事に手に入れることができた。
ファクトリーAIに除染薬をクラフトしてもらい、ついでに集まった資源で転送装置用のオイルも補充してもらった。
[ロボットさん、早くトリコちゃんを治療してあげてください!]
〈頷く〉
ロボは除染薬を手に、屋敷に向かった。
主の部屋ではミヤジとラトが眠っているトリコを見守っていた。
トリコは体中からキノコが生えてきていたが、前に発症したときよりもキノコの量は少ないようだ。
ロボは2人が見守る中、除染薬をトリコの太もも辺りにぶっ刺した。
「「!!!!」」
声も出ないほど驚いた2人。
ミヤジはロボとファクトリーAIに説明を求め、ラトはトリコの様子をまじまじと観察し始めた。
「AI君、ロボット君、ちょ、ちょっと、いいかな?今までもこうやって注射をしていたのかい!?」
[え、はい・・・
体の何処かに「えいや、どすっ」って刺して使うお薬ですよね?]
「なんて乱暴な・・・
・・・いや、でもこの形状だったらそうするしか無いのか・・・?
しかし、これはどう見ても人間用に見えないような・・・」
ミヤジはファクトリーAIが作った除染薬の注射器をじっくりと見て、普通の注射器よりかなり大きく太いことに首を傾げる。
薬が全てトリコの体内に入ったのを確認し、注射器を取り外してみる。
「・・・なるほど、針も太いね。
そうか、ロボット君は細かい作業には向いていないからこの方法になったのかな?」
[え〜っと、あんまりその辺は考えていませんでした・・・
ちょっと待ってくださいね、私が参照した情報は・・・あ、これですね。
・・・「動物実験による除染薬の効能」「除染薬の人体実験の記録」「除染薬の大量生産に向けての計画書」・・・
えっと、一応人体実験に使われていた注射器を参考にしたのですが、もっと小さいサイズでも大丈夫そうですね・・・]
「・・・なんだか悍ましい単語が聞こえた気がしたのだけど・・・」
[針の強度を上げて、ロボットさんが「えいや、どすっ」としても折れない、小さめの注射器を作りますね!]
「いや、薬だけ瓶に入れて持ってきてくれたら、私かルカスが普通の注射器で注射するよ」
[そ、そうですか・・・わかりました]
ミヤジは「えいや、どすっ」と注射するのを丁重にお断りし、初めて人工知能と人間の感覚の違いを実感したのだった。
ラトは薬が効いてきたらしく、少しだけ顔色が良くなったトリコの頭を撫でていた。
そして、ミヤジと話し終わったファクトリーAIに尋ねる。
「これでもうキノコが生えなくなるのですか?」
[いえ、この薬では増えた分のキノコは取り除くことができますが、トリコちゃんに元々生えているキノコはそのままです。
なので、またトリコちゃんの免疫が弱くなれば再発する可能性が高いです・・・]
「では、多めに薬の材料を集めておいたほうが良いのではないでしょうか?」
[それはそうなんですけど・・・
探索に行けるのはロボットさんだけなので、どうしても今すぐに必要でないものの収集は後回しになってしまうんです・・・]
「ふむ・・・そうですか・・・」
ラトは少し考えて、再度問いかける。
「ねぇ、あの転送装置は私も使えるんですか?」
[?えぇ、もちろんです]
「それなら、私が薬の材料を集めてきます。そうすれば安心です」
[ダメですよ!普通の人間がテラリウムの外に出たら、一瞬で汚染胞子の苗床にされてしまいますっ]
「大丈夫ですよ、私達の世界のモノやヒトは汚染されないようなので」
[そんなこと・・・
・・・!なるほど、そういうことだったんですね!
だから、お屋敷は汚染されていないままなのですね!]
ファクトリーAIはラトの言わんとすることをすぐに理解した。
しかし、探索に行くとなれば別の問題も発生する。
[でも、廃墟には危険な徘徊ロボットや汚染に適応した生物がうようよしていています・・・
とても生身の人間が行って無事に帰ってこられる場所ではありません。
せめて、毒や酸から身を守る防護服が無くては・・・
・・・それに、もし廃墟内で死亡した場合、死体は危険生物の餌になるか、有機資源として回収されます。
死体も遺品もこちらに持ってこられなくなってしまうかもしれないのですよ!]
ファクトリーAIは必死に探索に行きたいというラトを説得する。
しかし、ラトは全く気にする様子もなくニコニコと笑っている。
[あ、あの・・・
本当に危険なんですよ?
わかってますか?]
ファクトリーAIは不安そうに声を掛ける。
「ええ、分かっています」
ラトはファクトリーAIが何を言っても、探索に行く気満々らしい。
ファクトリーAIはミヤジに助けを求める。
[執事さん!大きい執事さん!
三つ編みの執事さんが探索に行くって聞かないんです!
どんなに危険だって説得しても、分かっています、って言って、探索に行こうとするんです!]
「そ、そうか、分かったよ」
ミヤジは恐らく自分でも止められない気がするが、一応引き留めてみる。
「ラト君、汚染されないからといって探索に行くのは危なすぎるよ。
どんなモノに襲われるか分からない。
それに、もし怪我をして動けなくなっても私は助けに行けないんだよ?」
「えぇ、分かっています」
やはり駄目か、とミヤジがため息を吐くとファクトリーAIに依頼をした。
「AI君、申し訳ないんだが、廃墟内の地形や襲ってくるモノの特徴を纏めてもらえないだろうか?」
[え!?まさか、探索に行かせるつもりなんですか!?]
「・・・ラト君が安全に探索できる範囲だけで行動すると約束してくれるなら、行かせても良いのではないかと思っている」
[・・・確かに、浅い層だけを探索するならそんなに危険な敵はいませんし・・・
うぅ、わかりました!
でも、少しでも危ないと感じたらすぐに帰還してくださいね!
私達みたいに壊れたパーツを付け替えれば元通り、という訳ではないのですから!]
ファクトリーAIはすぐにデータ収集を行い、膨大な量の情報を丁寧に整理し、分厚い資料を作成した。
ロボがミヤジのもとにドサドサと紙の束を積み上げて、ファクトリーAIが解説を始める。
[こちらが廃墟が元々どんな施設だったか、どんな資源が手に入りやすいかなどを纏めたものです。
探索に行く前は私が資源の場所を検索して、そこに行ってもらう感じになると思うので、参考資料程度に思ってください]
「そうか・・・
ふむ、地下シェルター内に全ての施設があって、その構造は常に変わり続けている・・・。
その空間を作っているのは、自動で働くロボット・・・。
帰還するには・・・異物排除システムでスクラップ場に・・・?」
ミヤジは資料をざっと読みながら、探索することになる廃墟の構造などに驚いていた。
「まさか、こんな不思議な場所に行くことができるなんてね・・・」
「異物排除システムで帰還できる、ってどういうことでしょうか?」
ラトも読める箇所を見つけて、不思議そうに呟いている。
[異物排除システムは、作りかけのシェルター内に不必要なものがあったら強制的にゴミとしてスクラップ場に送るシステムです。スクラップ場が拠点の私達には好都合ですね]
「私達もゴミと見なされるのですか?」
[そうなりますね・・・。
でも、防護服に選別用タグを付けておきますので、必ず拠点に戻ってこられるというメリットはありますよ!]
自分たちがゴミ扱いされることに苦笑いしつつ、本題の敵について尋ねる。
「それで、廃墟に居る虫さんやロボットさんはどんなものなのですか?」
[はい、ではこちらの資料をご覧ください。
浅い層の敵は大体このあたりのロボットと生物が居ることが多いです。
廃墟によって生息している生物や製造されているロボットは異なるので、探索前に確認をお願いしますね!]
「ふむ・・・浮いているものもあるのですね」
「毒を持っている虫も多いね・・・」
画像付きの敵の情報を2人で覗き込み、危険度を振り分けたほうが良いかも知れない、武器はどれが良いか、などといろいろなことを話した。
「・・・では、後で会議を開いて皆に情報共有をしよう。
ラト君、主様の薬の材料の件を話してくれるかな」
「はい」
ある程度まとまったところで、探索についての最終決定は会議で決定することにし、主の様子を見に行く。
トリコから生えていたキノコは殆ど枯れて、元の状態に近くなっている。
顔色もかなり良くなり、呼吸も安定している。
無くなりそうだった点滴を新しいものに替えて様子を見ることにする。
ラトはトリコの頭を撫で、声を掛ける。
「トリコ・・・早く元気になってね。
目が覚めたら、摘みたてのパセリをあげるからね・・・」
トリコが目覚めるまでに、ロボとファクトリーAIは執事達の防護服を作り、執事たちは廃墟の探索についての話し合いを行うことになった。
「・・・それでは、ラト君。廃墟の探索に行きたい思った理由を皆さんに説明してくれますか」
司会のベリアンに促され、ラトが話し始める。
「はい、主様の病気を治すためには、廃墟にある材料が必要です。
しかし、探索に行けるのはロボットさんだけなので、材料をあらかじめ集めておく余裕がないそうです。
なので、私達が薬の材料を取りに行けば、すぐにトリコの治療をしてあげられますし、急に病気になっても安心です」
その説明に執事たちは頷く。
「しかし、探索する廃墟は危険なのですよね?」
資料を読み漁っていたフェネスが心配そうに声を上げる。
「色々なロボットや虫なんかが襲ってくるようですし、毒や酸などを使われたら最悪・・・」
その言葉に殆どの執事がため息を吐いたり、賛同の声を上げたりする。
「はい、その件は私から説明させてくれるかな」
ミヤジが挙手し、話し始める。
「毒や酸に対しては、ファクトリーAI君が防護服を用意してくれるそうなので心配しなくても大丈夫だ。
それと、防護服に選別用タグを付けてくれるそうだから、確実にテラリウムに帰還できるそうだ」
執事たちはその後も質疑応答を重ね、探索に行くときのルールを作ることにした。
・必ず複数人で探索に行くこと
・探索に行くメンバーは必ず室長達とファクトリーAIに報告すること
・危険を感じたらすぐに帰還すること
「とりあえずは、こんな感じでやってみましょう」
「「「「「「はいっ」」」」」」
「では、初回の探索は地下の3人で行きたいと思う」
「はい、くれぐれも無理はなさらないでくださいね」
探索を楽しみにしているラト、不安なフルーレ、何事もないことを祈るミヤジの3人は防護服が届くまでの数日間、よく眠れない夜を過ごしたらしい。
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