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勇side
カフェからの帰り道、夕暮れ時の駅のホーム。
オレンジ色の光が、僕たちの少しぎこちない影を長く伸ばしていた。
バッグには、仁人が嬉しそうに抱えていたナマケーの限定ぬいぐるみがのぞいている。
だけど、僕たちの頭の中は、さっきのテーブルでの「生クリーム事件」のことでいっぱいだった。
勇(……まだ顔、熱いな……)
ちらりと隣を見ると、仁人はマフラーに顔を半分うずめて、泳ぐように視線を泳がせている。
いつもなら「勇斗、次の電車何分?」とか、どうでもいい会話を振ってくれるはずなのに、今は完全に沈黙。
気まずい、なんて思いたくない。
だって、あの時の仁人の真っ赤な顔も、戸惑ったような目も、全部僕にとっては宝物みたいに愛おしかったから。
勇「……仁人」
仁「ひゃいっ!? ……あ、なに、勇斗」
急に声をかけたからか、仁人が目に見えてビクッと肩を跳ね上げた。
裏返った声が可笑しくて、だけど愛おしくて、僕は小さく笑ってしまう。
仁「な、なに笑ってんのさ。人が真剣に……」
勇「いや、仁人が可愛すぎてさ」
仁「なっ……! だから、そういうこと無意識に言うの、やめろって……!」
またすぐに耳まで真っ赤にする仁人。
いつもの僕なら、「からかいすぎた」と思って一歩引いていたかもしれない。
でも、カフェでの「嫌だったわけじゃない」っていう仁人の言葉が、僕に少しだけ勇気をくれていた。
僕はポケットから手を出して、仁人のコートの袖をそっと引いた。
勇「無意識じゃないよ」
仁「え……」
勇「さっきのも、今のも。全部ちゃんと、意識してる」
ガタゴトと、遠くから電車が近づいてくる音が響き始める。
ホームに風が吹き抜けて、仁人の前髪を揺らした。
仁人は驚いたように目を見開いたまま、僕をじっと見つめている。
勇「付き合ってほしい、って……ちゃんと、言葉にできてなかったから」
電車のライトがホームを照らし、僕たちの距離を浮き彫りにする。
勇「俺、仁人のことが本当に好き。ただの友達じゃなくて、特別な一人になりたい。……僕の彼氏になってくれませんか?」
心臓が、耳のすぐ後ろで爆発したんじゃないかってくらい、うるさく鳴り響いている。
緊張で指先が震えそうになるのを、必死にこらえた。
仁人は、小さく息を吸い込んだ。
そして、マフラーからゆっくりと顔を出すと、泣きそうな、でも世界一綺麗な笑顔を僕に向けた。
仁「……バカ勇斗。そんなの、僕だって……ずっと思ってたよ」
差し出された仁人の手が、僕の手にそっと重なる。
冷たいはずの冬の風の中で、仁人の手のひらだけが、驚くほど熱かった。
電車がホームに滑り込んでくる。
その騒音にかき消されないように、仁人は僕の耳元に顔を近づけて、小さく呟いた。
仁「よろしくお願いします、勇斗」
ドアが開くのと同時に、僕たちはしっかりと手を繋いだ。
これから始まる、誰よりも近い、僕たちの新しい関係の始まりだった。
コメント
1件
ああ、もう……この10話、すごくよかったです……! 「無意識じゃないよ」って言い直す勇斗くんの勇気、胸に響きました。 仁人くんの「ずっと思ってたよ」も、泣きそうな笑顔も、最高に愛おしい。 電車の音や夕暮れのホームの描写が、ふたりの距離の変化を鮮やかに映し出していて、読んでるこっちまでどきどきしました。 これから始まる新しい関係、すごく楽しみです🌷