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#僕のヒーローアカデミア
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「では、これより休戦条件についての
話し合いを行います」
ザハン国商業都市・スタット―――
その政権を象徴する議事堂の一室で、
モトリプカ側の代表と、ザハン国を始めとする
主要国の代表たち、
いわゆる、辺境大陸への交渉と、亜人・人外に
対しての寛容・非寛容で意見が割れていた
国同士が、
今回の『内戦』についての落としどころに
ついての議論を、スタートさせようとしていた。
「では、改めてこちら側の要求を……
今回、逃げ出した奴隷たちの即時返還、
及び現時点での実質支配地についての
現状を、まずは認めて頂きたい」
モトリプカ側の発言に対し、もう一方の
勢力は、
「そもそも我々は突然、宣戦布告も無しに
侵略された側である。
非は明らかにそちら側にある。
突然の攻撃により受けた損害について、
正式な謝罪と損害賠償について話し合いたい」
当然の抗議と反論をする寛容側の代表たちに、
「宣戦布告も何も、こちら側に発言権など
無かったではないか。
賢人会議とやらの場に、誰が我々の代表として
その場にいたのだ?
問答無用で事を進めておいて―――
やむを得ず実力行使に出たら今度は
非難されるのか?
では我々どうすれば良かったのだ?
黙って大人しく従えとでも?」
モトリプカはまだメナスミフ自由商圏同盟に
加入して、年月が浅いという事もあり、
各国上層部が集う賢人会議への参加を
認められていなかったのだが、
それを逆手に取り、寛容政策を強行した事に
対し、反発しただけだと言い返す。
これは筋が通っており、寛容側は言いよどむも、
「だが自由商圏同盟に加入した以上は、
従うのが筋であろう。
異論があれば書面でも出せばよし、
最悪、同盟から外れる選択肢もあったはずだ」
「む……」
寛容側の言い分に、非寛容は怯む。
元より、同盟に加わるという事はそういう
事であり―――
明確に反対の意を示すのであれば、同盟を
抜けてからにしろ、というのも道理であった。
しばらく彼らはにらみ合っていたものの、
「では、今回の戦……
内戦ではなく、正式に国同士の交戦という
事にしたい、という事か?」
「いや、それは」
モトリプカ側の言葉に、今度はザハン国側が
弱腰になる。
内戦という形であれば、まだ各国は存続したまま
交渉の場に臨めるが―――
もし国家同士の交戦だと、それは戦勝国と
敗戦国、2つに分けられてしまう。
当然、最悪の場合……
国家の消滅にも繋がる可能性があり、
「では同盟継続だとして、そちらは―――
メナスミフ自由商圏同盟に何を望むのだ?
少なくとも関係改善に務めねばなるまい?」
「最初から提示している通り……
こちらの奴隷たちの即時返還、
そして現時点での実質支配地を認める事。
また例の亜人・人外に対する寛容・非寛容
政策は―――
各自好きにするといい。
こちら側としては意見を通せれば、
領地については交渉の余地はあると、
前もって書面で伝えたはず」
そしてようやく、妥協の言葉が寛容側から
発せられ、
「その奴隷についてだが……
実は、クアートル大陸の四大国側から、
女子供は保護出来ないかと打診されておる。
あちらは今、亜人・人外は言うに及ばず、
奴隷についても扱いを緩和しておるからな」
「なぜ四大国が?
メナスミフ自由商圏同盟は、内政干渉を
認めると?」
モトリプカ側は反発を示すものの、
その裏側で目まぐるしく計算していた。
ここで四大国の名前を出したという事は、
すでにこの内戦はクアートル大陸に
知られており、
またモトリプカを始めとする非寛容サイドは、
彼らに快く思われていないのは自明の理。
なので、まずは自由商圏同盟の自治を盾に
問い質すが、
「とは言われてものう。
自由意志を持つ彼らに、まさか首に縄でも
つけて縛るわけにもいくまい。
そしてクアートル大陸に亡命申請し、
あちらが受け入れると言われれば、
それに口出しする権利は無い―――」
「むむ」
寛容側の理屈はもっともであり、
非寛容側は段々と反論材料を失っていくが、
「それならば契約上の事もあるし、一度本国にて
彼らの意思確認を取りたい。
その上で亡命を希望するのであれば、
こちらとしても反対はしない。
もし強制を心配するのであれば、
見届け人、仲介役をつけても構わん」
一見して妥協案のように見えるが、
新魔導塔による隷属化を扱うモトリプカに
取って、
一度本国に連れ戻すという事は即ち、
再隷属化をするも同然であったのだが、
「うーむ……
しかし意思確認と言われてもな。
幼い児童は親に従うしか無いであろうし、
立場の弱い者は明確に反対は難しいと
思われる。
人道上の観点から―――
せめて女子供は亡命を認めてやったら
どうか?」
それを聞いた代表は両目を閉じて、
「その条件であれば、他の奴隷たちの返還に
同意してもらえるので?」
「奴隷制はメナスミフ自由商圏同盟内で
認めている事でもあるし……
それに財産でもある。
権利者にしてみれば、少しは損害を
取り返したいと思うのは理解出来るしな」
そのやり取りを聞いた同室の代表者たちは
苦笑する。
「確かに、児童を隷属化するのは外聞も
悪いと思われる。
では、大人に関しては一度本国へ戻すのを
認めてもらえるか?」
女子供という条件からさらに、大人の男女で
あればとハードルを上げて来るが、
「……ならば、同時に領土返還についても
話し合いたい。
奴隷をそもそもの所有者に戻せというので
あれば―――
領地も返さねばなるまい?」
その回答にモトリプカ側の代表は一瞬顔を
曇らせるが、
奪取したいくつかの領地の内、重要拠点を
のぞいた部分は返還しても構わない、との
命も受けていたので、
「土地と人を同列に見るとは、寛容策も
知れたものだ……」
と、一応はチクリと皮肉を入れ、
「だが、人ならばともかく土地はおいそれと
持ち帰る事も出来まい。
それに、土地は戻したが奴隷はやはり
返却しないと言われる恐れもある。
こういった問題は同時に並行して、
解決していくべきかと思うが」
と、暗に奴隷も土地も同時に交渉し、
それぞれの結果に応じて戻すべきだと
告げる。
つまり、奴隷を返却する人数に応じて、
土地の返還も考えると代表は通達して
いるのだ。
その意を受けて、寛容側の代表者たちも
顔を見合わせ、
「実は帰国を希望している奴隷もおる」
「まずは彼らから帰還させ、同時に
領土返還交渉も進めたいと思うが」
「それでいかかが?」
その回答を受けて非寛容側も、
「……そうだな」
「そのあたりから始めよう」
「ではその日程を話し合おうか」
と、休戦条件のすり合わせがひとまず
終わった事で、事態は動き始めた。
「奴隷の返却と同時に土地返還の交渉も
行え、か。
ま、今のところはこれでいいだろう」
休戦条件の交渉結果は―――
すぐにモトリプカ本国にも伝えられ、
青みがかった短髪に白髪の混じる、
アラフォーの男は独り言のようにつぶやく。
「しかしドルミン様、これでよろしいの
ですか?
事実上、領地の返還に応じたような
ものですが」
彼の従者である赤い短髪の青年が、
その内容に疑問を呈するも、
「事実上の勝利者であるこちらが、
領土返還に応じる姿勢を見せているのだ。
逆に言えば、これ以上条件を上げようと
すれば、こちらの不興を買い元も子も
なくなる。
さすがに向こうも、それほどの馬鹿揃いでは
なかろう」
主従の主である男はそこで一息ついて、
「それにな、プラクス。
確かに子供の奴隷の亡命は認めたが、
親さえ押さえればどうにでもなる。
再び隷属化させた母親や父親に、
『子供を返してくれ』とでも言わせれば、
四大国も戻さないわけにはいくまい?
なにせあちらは、人道という言葉が
大好きなようだからな」
その言葉に青年は苦笑で返す。
「それよりプラクス。
本国の新魔導塔に不具合は起きて
いないな?」
「はい。
今のところ、故障などの報告は全く。
また周辺警戒も、通常の3倍の人員を
使って、巡回させておりますれば」
従者の回答に主人はうなずいて、
「各地の新魔導塔に起きた不具合については?」
「それも原因究明中との事です。
ただ、現在のところ……
休戦状態に入ってから、不具合は一度も
起きていないとの事」
ドルミンはその報告に首を傾げるも、
「まあいい。
事は成ったも同然、時間はある。
まずは奴隷を失った同調者や支持者の、
補填を考えてやらねばな」
すぐに考えを切り替え、次の方針に向かう
主人に、
「ですが―――
いえ、これは私が気になっているだけかも
知れませんが」
「ん? 何だ、言ってみろ」
彼に促され、青年は口を開く。
「例の、フェンリルのような魔獣の目撃情報に
ついてです。
あのザハン国の大船団に対し……
一瞬にして魔法や魔導具が使えなくなった、
との噂。
それがどうにも引っ掛かっております」
(■293話 はじめての かんちがい参照)
ドルミンはそれを聞いて天井をいったん
見上げるようにして、
「それで今回の戦―――
誰か魔法を封じられた者がいたか?」
「いえ、そのような報告はありません」
「ならば気にするな。
事実を無視しろとは言わん。
だが、魔法を封じられた者がいない、
というのもまた事実。
即ち、その神獣とやらがいたところで、
今回は関与していないという事だ」
実際はシンの計画で、適度に姿を見せるだけで
いいと、ルクレセントは言われていたのだが、
もちろんそんな事を知るよしも無い彼は、
分析してそう語る。
「では……
奴隷たちの帰国及び返還、またこれについて
ザハン国側より―――
同行者が派遣されるようですが。
お認めになりますので?」
「本国に到着すれば隷属化は出来る。
意思確認を取って元の所有者に返却すれば
いいだけだ。
その同行者とやらのお墨付きでな」
主人はニヤリと笑いながら、従者にその笑みを
向ける。
「わかりました。
即時、奴隷と同行者の受け入れ準備を」
彼もまた、主人に対し口角を上げ……
『休戦』そして『和平』に向け動き始めた。
「では、まず今回の帰国希望者を引き渡します」
数日後……
モトリプカの首都・エムビーアにおいて、
第一陣の奴隷引き渡しが行われる運びとなり、
私と和洋の風貌の妻2人、そして銀の長髪に
切れ長の目をした長身の女性、彼女に伴う
犬耳に巻き毛のシッポを持つ獣人族の少年が、
同行者として参席していた。
「今回、とは―――
一度に返すのではなく?」
あちらの担当者が書類を見ながら聞き返し、
「人数が多い、というのもありますが……
奴隷を返却した途端、領土返還が行われなく
なるのでは、という上層部も多いので」
その答えに、モトリプカ側の担当者は露骨に
眉間にシワを寄せるが、
「まーまー、そんな顔しないで」
「我らとて、やりたくてやっておる
わけではない。
こういうものは、たいてい下っ端に
押し付けられるものと相場が決まって
おろう?」
メルとアルテリーゼがそう言うと、その担当者は
苦笑し、
「ちゅーわけで、よろしゅう頼むわ」
「ええと、き、希望を見届けさせて
頂きますのでっ」
ルクレさんとティーダ君も頭を下げると、
「ん、まあ……
奴隷の引き渡しにはこちら側からも
立会人を出します。
間もなくその人員も来ると思いますので」
やれやれという感じで、担当者は手を振り
去っていった。
そして私たちは、彼が去るのを見計らって、
「んじゃシン、どーする?」
「どちらにしろ夜になってからだな。
奴隷の人たちにもそう伝えてあるし」
「『見えない部隊』の者たちも、すでに
潜入しているであろう」
と、妻たちと顔を見合わせながら話し、
「ウチはまあ―――
正体を現すのは夜になってからで?」
「そうですね。
それに夜の方が、監視の目も緩くなるで
しょうし」
と、それぞれ確認を行い……
『その時』を待つ事となった。
「では、この方も元の主人のところへ戻ると
いう事で。
今回の意思確認は―――
これで終わりでしょうか」
その後、やって来たモトリプカ側の立会人と
一緒に奴隷たちの希望を確認し、
最後の一人が、元の主人の所有に戻る、という
発言を受けて……
今回の仕事は『一段落』した。
「やっと終わったかー」
「しかし、意外と元に戻る事をあっさり
承認したのう。
まあ、他国、それも海の向こうで一から
やり直すよりはと考えるのかも知れんが」
新魔導塔の隷属化効果を、あくまでも
知らないかのように、妻2人が話し、
「奴隷といえど、大事に扱われていれば
そうした選択をするのも自然かと」
モトリプカ側の立会人は、隷属化を知って
いながら、さも当然の事のように語る。
「後は領土返還でしょうか」
「でもそれは、ウチらが知ったこっちゃ
ないしなあ。
こっちの仕事は終わったでー!
って、もうすっかり日も暮れとるなあ」
ティーダ君の後にルクレさんが、窓の外を
見ながら話す。
1人1人、奴隷の意思確認をしていたので、
終わる頃には夕方過ぎとなってしまっていた。
「そちらは今後、どうするおつもりで?」
立会人が書類を整理しながら聞いてくると、
「さすがに今日は泊まりでしょうかね。
あ、そうだ!
この近くで美味しい料理店とかありますか?
自分、各国でそういう食べ歩きを趣味として
いるものですから」
すると彼は視線を上げて、
「ああ、そういう事であれば―――
誰か案内人をつけますよ」
「本当ですか!?
助かります!」
すると今度は立会人が、ルクレさん&
ティーダ君の方を向くと、
「あ~……
ウチらはちょっと疲れたんで、
休ませてもらっていい?
出来れば食事も、出前とかで済ませたいと
思っているが」
「そういうサービスを受けられる、宿屋か
施設があればいいんですけど」
それを聞いた彼はふむふむとうなずき、
「わかりました。
では、すぐに案内人と宿泊施設の手続きを」
実は立会人は監視役も務めており、
向こうから案内役や宿泊所を求めて来た事で、
それに乗っかり、
彼らの行動を見張る事にしたのだが……
実はそれはシンの計画通りでもあった。
「ごちそうさまでした」
私とメルとアルテリーゼは夕食を堪能し、
「そういえば、ミソと醤油もすでにあるんだね」
「交易しているから当然かも知れぬが」
妻たちの言葉に案内人の青年は、
「幸い、作り方も一緒に入ってきたと聞いて
おりますので。
まあ、ここで出たのは輸入品と思われますが」
と、通り一遍の答えを返す。
そこで私はふと、店内から窓の外へ目をやって、
「しかし―――
モトリプカには、ずいぶんと高い建造物が
あるんですねえ。
それだけ技術力も高いのでしょうが」
新魔導塔を目にして案内人にたずねると、
さすがに警戒対象だからか……
一瞬表情を強張らせるも、
「まあ、どこから見ても目立ちますからね、
あれは。
中に入る事も可能ですけれど」
と、どこまで興味を持っているのか探るためか、
そう聞いてくる。
そこで私たちは顔を見合わせて、
「いや~、あんな高いところはちょっと」
「倒れるなんて事は無いだろうけど、ね」
「話の種にはなるであろうが―――
中までは遠慮したいのう」
と、いかにも高所恐怖症みたいな感じで
やんわりと拒絶する。
すると興味はそこまで無いと案内人も
悟ったのか……
表情がいくぶんか柔らかくなり、
「ははは、そうですね。
近くまで行ってみて、やっぱり中に
入るのは、って止める人もいますよ。
何なら、近くまで行ってみます?」
そう提案してきてくれたので、
「いやあ、それで『やっぱり入ってみます?』
となるのはゴメンですよ?」
「いやまー、そこまで意地悪とは思えないけど」
「まあ、近場で見上げるくらいならいいのでは
ないか?」
と、夫婦でやり取りし、それを聞いた案内人は、
「夜間は各部分が照明で照らされますから、
見るだけでも話の種になるのでは」
そう言われて窓の外に再び目をやると、
確かに新魔導塔のあちこちは照明を点けられ、
ライトアップのように照らされており、
「ふむう。
近くで見たら、さぞかし迫力あるんで
しょうね」
「それはもう!」
案内人の声からは、どちらからと言うと
祖国の誇りを見てもらうような印象があり、
「まーそういう事なら?」
「行ってみるのも一興かのう?」
そう、メルとアルテリーゼも同意し―――
新魔導塔近くまで行く事となった。
一方その頃……
モトリプカの首都・エムビーア各地では、
日中に『意思確認』を行った元奴隷たちが、
その主人と対面していた。
「はっはっは!
よもや、奴隷の本国帰還を認めるとはな。
意思確認だと?
あの魔導塔―――
特に新魔導塔の前ではそんなもの、
何の意味も無い!
よっぽど、領地奪還を優先したかったので
あろうなあ」
やや小太りのアラフィフの男が、貴族風の
衣装に身を包み、
妙齢の女性を前に自慢するように話していた。
「お前も、よく本国帰還を希望したものよ。
魔導塔がある限り、隷属から逃れる事は
出来ん。絶対にな。
子供を連れて来なかったのは残念だったが、
何、お前に命じればいいだけよ。
『子供を私の元に戻してください』とな」
彼はニヤニヤしながら、彼女の体を舐めるように
見回し、
「そうすればまた―――
子供と一緒に可愛がってやる事が出来る。
まあ今は、お前だけでガマンするとしよう」
そして男は彼女の肩に手を回す。
「お前は戦闘用の魔法もあったからな。
それに子供連れ……
相手も攻撃しにくかっただろう。
今後はずっと俺の手元に置いておいてやろう。
子供が戻ってきたら母子ともども、な。
いや本当に戻ってきてくれて良かった!」
すると彼女も男の胸に手を置いて、
「あたいも、ずっと戻りたかった―――
どうしてもあなたに一目会いたくて
会いたくて……
ずっとあなたの事ばかり考えていたのよ?」
甘えるように男の胸に彼女は身を任せる。
「お、おお?
そうか、お前もそう思っていたのか。
いやもしそうなら隷属化もしなくて
良かっただろうに」
鼻の下を伸ばしながら、男はさらに彼女に
体を密着させるが、
「本当に会いたかったわ、ずっと―――
ええ、本当に……ねっ!!」
と、最後は掛け声のようにして、彼女は
男の顔面に拳で突きを叩きこんだ。
「あ~、なかなか居心地のいい宿やなぁ。
メシも酒もうまいしいう事なしや」
その頃、別の宿泊施設にいたルクレセントは、
ティーダと共にくつろいでいたが、
窓がコンコン、と軽くたたかれ、
「ルクレセント様」
「ん、わかっとる。
『見えない部隊』か。
どんな感じや、今?」
人間Verのフェンリルが小声で問うと、
「シン殿が案内人と共に、新魔導塔へ
向かいました。
間もなく騒がしくなるでしょうから、
その混乱に乗じて」
「おーし。
ティーダ、準備は出来とるか?」
「はっ、はい。
僕はいつでも―――」
そして2人は、その『騒がしくなる』時に
備えた。
「おおー、近くで見るとこれまた」
「どのくらいの高さがあるの? これ」
「この中に人がおるのか……
さすがモトリプカの技術といったところ
かのう」
私は、妻2人と共に新魔導塔の根本あたりまで
案内され、
その頂点を見上げていた。
「いやすごいですね。
これだけで観光の目玉になるでしょう。
しかも中に人が入れるって―――
上はどのあたりまで行けるんですか?」
案内人は満足気に、
「そうですね。
さすがにてっぺんまでは無理ですが。
ですがかなり上の方まで行けると
聞いております」
細く高い新魔導塔を見上げながら、
私はメルとアルテリーゼに目配せする。
「あ、そういえば案内人さん。
あなたは中に入った事あるの?」
「え? ええまあ、少しばかり」
「ど、どこまで上がったのだ!?」
「ええと、技術者しか行けない階や制限も
ありますので……
多分、2/3あたりまでかと」
すると2人は改めて新魔導塔を見上げて、
「あれの2/3かあ~」
「すごい度胸じゃのう」
と、妻たちが案内人とやり取りしている
スキに、私は小声で、
「魔力や魔法を制御出来る塔など―――
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、新魔導塔の各所についていた
照明が消えて、
「ん? 何かの演出かな?」
「へー、こんな事も出来るんだ」
「これはこれで面白いものよのう」
そう妻2人と一緒に見上げながら話すと、
案内人の方は想定外だったようで、
「えっ? えっ!?」
そう彼は右往左往し、その内に周囲も
ざわつき始め……
やがてサイレンやら警告音やらが鳴り始めた。