前書き
今回の話には、
『155.狩野猟師 ①』
『322.金太郎の腹掛け』
『323.碓井貞光の迷宮』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
人間不信に陥っていた善悪の耳にオールスターズのリーダー、四桐鯛男(しきりたいお)の声が響いて届く。
「和尚様ぁ! お客さんがいらっしゃっていますよぉ! 参拝の方じゃなくてお知り合いですってぇ!」
参拝客が集まり始めた門からではなく、その脇の御用口から入って来た鯛男の後ろには、どこかで見た覚えのある初老の男性がついて来るのが見えた。
善悪が首を傾げて考えていると男性の方から声を掛けて来た。
「久しぶりだなー、魔王退治っててっきり弾喰らいの事だと思って居ったが、まさか本当に悪魔や魔神と戦っていたとは驚いたよ」
「あ、鹿のジビエの! 確か狩野猟師(かりのりょうじ)さんだったでござるな! お久しぶり、ってか何故悪魔の事を? むー、鯛男ー」
「言ってませんよ和尚様」
「はははっ! こいつに聞いたんだよ、猟の最中に突然話し掛けられてな、度肝を抜かれたよ、撃っちまわないで良かったぞ!」
「こいつ、でござるか?」
狩野が指さした先は自身の足元であった。
そこには放し飼いだろうか? 割と大きな生き物がチョコンとお行儀よくお座りをしていた。
中型犬くらいのその生き物は、薄い黄土色の毛に包まれて背中に一本の黒い毛が直線を描いて居り、円(つぶ)らな黒い瞳に特徴的なフサフサの長めの尻尾を持っていた。
善悪は驚いて言う。
「や、ヤマネ? にしては馬鹿でかいのでござる…… そ、それに喋った? これがぁ?」
「初めまして横綱の相方さんですね、私は以前横綱に子分にして頂いた足柄山のヤマネでございます、横綱にご相談が有ってやって参りました」
「横綱?」
横綱という単語に反応し目を開けたコユキが巨大ヤマネ(話す)に言う。
「ああ、タマちゃんの応援してた中に居たわね、何匹かのヤマネが…… んでどうしたの? 前は話せなかったじゃないの、そんなにデカくも無かったし、あの時は精々ヌートリア位だったわよね?」
「はあ、そうなんですけど、ここ最近になって仲間達が次々人間の言葉で話し出すようになりまして、それに合わせて体も大きくなってしまったのです。 キツネなどは尻尾が何本にも枝分かれしてしまったり、中には火を噴く者や紫電(しでん)を迸(ほとばし)る者なども現れる始末でほとほと困っておりまして…… 横綱にお会いした時に御一緒に居られた金色の方、あの方って悪魔でしょう? 物知りなんじゃ無いかと思って聞きに来たのです、辛うじて化け物に見えない私が代表して、お分かりでしょうか」
最近になって話せるようになったにしては中々饒舌なヤマネである。
しかし彼の目的であるカイムは未だ行方知れずである。
折角来たのに追い返すのもあれだな、と思える位に円(つぶ)らで純粋そうなヤマネの瞳を見つめながら答えに窮するコユキであった。
その時、境内の日当たりのいい場所に寝転んでいたクロシロチロが眩い光に包まれたのである。
青く輝く光が収まるとそこから現れたのは人狼バージョンの灰色狼、真っ青な鬣(たてがみ)を揺らめかせたラー、大口の真神(おおぐちのまかみ)、口白(クチシロ)は驚いて見つめるヤマネに語り掛ける。
「カイムは行方不明だが心配は要らん、お前達の不安はこの魔獣神、口白が溶かしてやろう、お前たちに起った変化、それはズバリ『魔獣化』だ、自然現象、まあ、言うなれば進化だな」
本堂からゆったりとした声を響かせながら姿を現したのは炎を体に纏う火の鳥に美しい女性の顔を持ったカルラであった。
「魔獣化したばかりではさぞ不安に思っている事でしょうね、ご安心を、これからどのように生きて行けば宜しいのか、それらはすべて私が教えて差し上げましょう、この唯一無二の魔獣神、カルラが導いて差し上げます」
旦那と並んでこの突然の成り行きを固唾を飲んで見守っていたリョウコのポケットの中からカサカサと激しい音が聞こえた。
リョウコが旦那の強の肩を見ると、そこに座った薄らとしたフンババがいつもの様に顎をしゃくる姿が見えた。
こうなると見るまで顎をしゃくり続ける事が分かっていたリョウコは、例の如く柿の種の賞味期限欄を確認したのである。
リョウコは口に出して読んだ。
「あのねぇ、『魔獣神は俺だ! 騙されるなよ、そいつらは名を騙(かた)る偽物だ!』だってぇ」
そうか、この三柱、揃って桃太郎さんのお供だったくせに割と仲が悪そうだったが、それぞれ魔獣の神を自称していたからだったんだな、納得である。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!