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二人の後ろ姿を離れた物陰から見ていた晴臣は、踵を返した。
仲睦まじく歩く二人の姿が頭から離れず、眉間に皺が寄る。
袖から凪からもらった結菓子を取り出すと、苛立ちのまま道端へ放り投げた。だが、数歩歩いたところで、足が止まる。すぐに引き返し、結菓子を拾って再び袖へしまった。
「……た、食べ物は粗末にはできんからなっ」
誰もいない道端で、小さく言い訳を吐いた。
屋敷へ戻ると、玄関先で花を活けていた母が着崩れた晴臣の着物をみて眉を寄せた。
「晴臣ったら。身だしなみはきちんとしなさいって言ってるでしょう」
「はーい」
生返事で聞き流し、廊下を歩いていく。すると、曲がり角で父とすれ違った。
父は晴臣の格好を一瞥し、不快そうに眉をひそめただけで、何も言わずに通り過ぎた。
その背中を見送りながら、晴臣は立ち尽くした。
(どうせ俺なんて……叱る価値すらないんだ)
その顔は、激しい悲しみと暗い怒りに歪んでいた。
夕方、帰宅した将臣の部屋へ、晴臣はずかずかと入った。
「なあ、兄上。今日のこと、父上に言いつけるのか?」
将臣は怪訝そうに眉を寄せる。
「何のことだ」
「凪さんに暴言を吐いたことだよ! 兄上は、すっごい怒っていただろう⁈」
将臣は呆れたように、静かに息をついた。
「言いつけるわけがないだろう。凪は晴臣と買い物ができて楽しかったと言っていたぞ」
晴臣は言葉を詰まらせ、ぐっと唇を噛む。
「……じゃあ、兄上は何をしに買い物に来たんだよ!」
「……簪を買いに、な」
少し照れくさそうに将臣が目を細める。
晴臣は目を見開いた。
「……凪さんへ?」
「買えなかったがな。凪に似合うものを、また今度買いに行く」
その柔らかく温かな横顔から、晴臣は目が離すことができなかった。
(兄上は……俺には、あんな顔を見せたことなんてないのにっ!)
気がつけば、晴臣は唇の内側を強く噛み締めていた。
二人だけの世界から、一人だけ弾き出させたような嫉妬と寂しさが、晴臣の心を黒く塗り潰していた。