テラーノベル
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リリアンナは、カイルの首筋と脇下の氷嚢を取り換えると、額の上の布も雪入りの冷水で冷やし直してから、ギュッと絞って彼の額へ乗せ直す。
布を絞った時にピリリとした痛みが関節に走った。
リリアンナは自室から持ってきた軟膏を手の甲や指先に塗り込んでいく。塗っている最中からひりひりとした痛みがあって、見れば、あちこちがひび割れて血を滲ませていた。
雪を掻いた冷えや、水仕事のせいだけじゃない。
心配と緊張で休むことも忘れ、ずっと気を張り続けているせいで、身体の芯まで疲れ切っているのをリリアンナ自身も分かっていた。
きっと、高級な軟膏を塗っても、消耗を重ねた身体では効き目が薄いのだ。
(でも……私が頑張らなくちゃ)
頼りのナディエルも寝込んでしまっている。もちろん、医務室にはセイレンたちもいてくれるけれど、他にも患者が数名いる。カイル一人に掛かり切り……というわけにはいかないのだ。
カイルがこんな風になってしまったのはリリアンナを守ってくれたからに他ならない。リリアンナは、大切な恩人に少しでも報いたいのだ。
小さな拳をぎゅっと握り締めると、リリアンナは辛そうに眉間へ皺を寄せているカイルの顔をじっと見つめた。
カイルに付き添って今日で丸二日。ナディエルを見舞い、特別仕様のローズオイル入り軟膏を自室から手に戻ってきたリリアンナは、そのあともずっと前日と変わらずカイルの横へ寄り添い続けた。
だが、さすがにベッドで眠っていない身体は限界を迎えようとしているらしい。
気が付けば椅子に腰かけたまま居眠りしてしまっている。
少しうとうとしては目覚め、ハッとして目覚める度にカイルの様子を確認して革袋の雪を詰め替えに行き、濡れ布を取り替え、額に落ちる汗を拭う。
そんなことを繰り返すうち、当然のように赤く腫れた手は痛みを増し、足取りもだんだん重くなっていった。
それでもリリアンナは、必死に背筋を伸ばし、眠るカイルの手を握りしめて囁き続ける。
「大丈夫……必ず良くなるから……」
声はかすれ、まぶたも重い。
本来ならばセイレンの言葉に従って、リリアンナも自室で休むべきだ。だが、リリアンナは横になって眠ろうとはせず、せいぜいセイレンが持って来てくれたふかふかの椅子で微睡む程度。カイルのそばを決して離れまいとする意地が、幼い少女の細い体を支えていた――。
***
カイルがここへ運ばれてきて二日目の深夜。
カイルの傍でうつらうつらと眠ってしまっているリリアンナを見て、空きのベッドへ運んで横にならせようと、老医師セイレン・トウカが吐息を落として歩き出した時、医務室の出入口の重い扉が音を立てて開いた。
真夜中の訪問者とは珍しい。
そう思って戸口を窺い見れば、入ってきたのはここの城主・ランディリック・グラハム・ライオールだった。
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ランディリックきた!