けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
それどころか、
褒められたような認められたような
抱擁が僕を包み込んだ。
それからしばらくして
僕達は学生寮に戻って来ていた。
夜静まる中、戻された僕は一人で月を眺めていた。
部屋から覗く月の光が、やけに美しく神々しかった。
明日には再び警察が僕を迎えに来ると聞いている。
事情聴取に応じなければならない。
いつの間にか来ていた警察に、僕もまた言わなければならない事があった。
本当の父はどちらか。
全てを話さなければならないならば、
おじさんを父と自分でも割り切らなければならない。
納得はしていない。
僕に全てを隠しては、共に死を選んだ。
オキザリスの花に嘘をついては、ブルーローズを枯らした。
本来なら、フラワーアレンジメントなのだからそんなすぐには枯れないというのに。
僕の母親は結局あれきり姿を見せていないし、
手紙の犯人もおそらく音楽家の仕業ではあろうが
証拠はないし。
その全ての真相と向き合わなければならない。
偉大なる音楽家だとしても、今回の騒動があれば批評を浴びるかもしれない。
警察の介入があったんだ。
おじさんは裏社会から手を引く羽目にもなるだろう。
そうなれば、今までのような生活は出来ない。
色んなことが山積みで、明日からどうなるか分からない。
けれど、父との面会の機会を設けてもらうことは既にデュエットに約束している。
次男である彼は、警察と言っていたから。
恩恵には代えられない。
僕はあの人がした事を許すつもりはない。
でも、僕を育ててくれた事実だけは
異父であろうが変わらない。
それだけは何があっても揺るぎはしない。
それを言葉にしていくだけだ。
僕は月に向かって、そう誓うのだった。
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