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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。情けない話ですが、お父様の一件で一日休ませていただきました。
ルイはずっと傍に居てくれましたし、皆もそっとしてくれました。皆の優しさに感謝です。
お父様の件は『黄昏』に戻ってじっくりと考えてみるつもりです。遺品が無いかお兄様に問い合わせてみないと。
それと、ベルがふらっと帰ってきました。取り逃がしたとか言ってましたけど、なんだろう?
それよりも、まずはお仕事です。お兄様達が仕切っているとはいえ、『ダイダロス商会』は『ターラン商会』を上回る巨大な商会。是が非でも商談を成功させて今後の継続的な取引相手にしなければ。
いくらお兄様でも、いやお兄様だからこそ私達が利益を提供できる相手であると証明しなければいけません。
「今日は積み荷を全部『ダイダロス商会』へ持ち込みます。船の守りを残して全員で向かうので、そのつもりで」
「でもシャーリィちゃん、こいつらにお行儀の良い振る舞いなんて出来ないよ?」
確かに船乗りの皆さんは如何にも海賊といった感じで、服装や態度もワイルドです。勇敢で陽気な人達なんですが、他人から見れば威圧感の塊ですからね。
「構いません。そもそも彼等は海賊ですからね。今さら上品な格好をさせようとは思いませんよ。このまま行きます」
「シャーリィ、服はどうする?またドレスを着ていくのか?」
ルイの質問に私は首を横に振ります。どうにも私にドレスは似合わないと思いましたから。
「いや、似合ってたからな?」
ありがとう、ルイ。
「今度は大所帯だ。目立つが構わないんだな?」
ベルが確認してきました。
「注目されるかもしれませんね。悪い意味でも。けれど、これで他に興味を持ってくれる組織が現れたら良いなと考えています」
「悪い意味で興味を持つ奴も出てくるぞ?」
「それは覚悟の上です。そして、可能なら今日中にシェルドハーフェンへ戻りますよ」
やりたいこと、やらなきゃいけないことが沢山ありますからね。
「そうだね、あんまりシャーリィちゃんを居させたくないし」
私達は大きな荷馬車を用意して積み荷を全部積み込んで、海賊衆を率いてバザー中心部へと向かいました。
荷馬車三台に、周りを取り囲む海賊が三十人。確かに目立ちますね。出来るだけ邪魔にならないように広い道を選んでいますが、それでも通行人を退けてしまうくらいには幅を取りますからね。
「目立ってるねぇ」
「悪いな、邪魔するぜ。おーい!道を開けてくれーっ!」
「ちょいと通らせてくれーっ!悪いなーっ!」
海賊衆の皆さんが先導してくれているので、移動に支障はありません。ちなみに私の服装はお母様の礼服にルミのケープ。
ベルはいつも通り真っ黒。ルイには私と似たような白い礼服を着せました。エレノアさんはいつも通りですが、船長らしくきれいなコートを着ています。
海賊衆の皆さんも少しだけお洒落して貰いました。ワイルドですが。
途中トラブルもなくバザーの中心にある屋敷へとたどり着きました。時間は正午を回っていますが、相変わらずバザーは沢山の人で賑わっています。『黄昏』もこんな賑わいが出来るように頑張らないと。
「『暁』の者だ!取引にやってきたぜぇ!」
「ちゃんとブツも持ってきたんだ!さっさと頭を呼べよ!」
門番さんへの対応は……うん、ワイルド。
「騒ぐんじゃないよ!悪いね、柄の悪い連中で。取り次ぎをお願いできるかい?」
エレノアさんが代わって対応してくれました。
「ちょっと待ってろ」
門番さんが屋敷の中に入って確認してくれています。
「我が主がお会いになる!代表者だけ入ってくれ」
「ありがとうございます。エレノアさん、アスカ。留守を任せますよ」
「お行儀良く待ってるよ」
「……ん、頑張って」
「はい」
私はアスカの頭を撫でて、そしてベル、ルイを連れてお屋敷へと招かれました。そのまま私達は応接室へと通されます。
そこでガウェイン辺境伯が迎えてくれました。もちろん二人には秘密です。
「昨日以来ですな、お嬢様」
「昨日はありがとうございました、ラウゼンさん」
私は笑みを浮かべて挨拶します。最近は意識して笑顔を浮かべるようにしています。
「……大丈夫そうですな」
「昨日はご迷惑をお掛けしました。その、お父様の遺品はありませんか?」
「残念ながらこの場には。ただ次回までに用意しましょう」
「ありがとうございます。では早速商談に取り掛かりましょう」
互いにソファーに腰かけて、ベル達は後ろに立ちます。
「畏まりました」
私は目録を手渡します。薬草千束、そして回収した『飛空船』のパーツです。
「ほう、『飛空船』のパーツですか」
「私達は専門職ではありませんから、状態についてはそちらの鑑定にお任せします」
「宜しいので?公平性に問題が生じますが」
「『ダイダロス商会』への信用の証と受け取ってください」
「そう言われては、公平になるよう気を付けねばなりませんな。表にある荷馬車にあるのでしたな。鑑定士を、公正な価格を弾き出せ」
「はっ」
ガウェイン辺境伯が命じると、衛兵の一人が退室していきます。
「それでは先ず薬草の代金を支払いましょう」
ガウェイン辺境伯は小袋を取り出して、中身をテーブルに広げました。
「ご要望通り、星金貨二十枚となります。改めてくだされ」
「それでは失礼して。ベル」
ベルが前に出て、金貨を一枚一枚確認してくれます。
「間違いなく本物だ、お嬢」
「ありがとう、ベル。さてラウゼンさん、今後も薬草は売れるでしょうか?」
「それについてなのですが、アルカディアの内乱は本格的な武力衝突に発展しました。日々大量の死傷者が出ておりますので、今後益々需要は増えるかと」
現在アルカディア帝国では皇帝が病に倒れ、後継者を巡って争いが起きています。
小競り合い程度だと聞いていましたが、本格的な衝突となれば……まさに商機ですね。
「では買取金額も高くなりますね?」
「それはもちろん。さらに悪いことに帝国内部の薬草の群生地が幾つか焼かれましたのでな。需要に供給が全く追い付いていないのが現状です」
「では、我々がたくさんの薬草を持ち込めば?」
「それを買い取って販売する我々の懐も暖かくなりますな?」
うん、良いお話を聞けました。
「それでは次回以降もあなた方と取引をさせていただきます」
「ありがとうございます。今後ともご贔屓に」
笑顔で宣言すれば、ガウェイン辺境伯も笑みを返してくれました。
「時に、会長はどちらに?」
「昨晩急用が発生して島を離れております。お嬢様にはくれぐれも良しなにと言付かっております」
私達が生きていたと知ったから、でしょうね。お兄様には苦労を掛けます。
「分かりました。此方からも会長には良しなにお伝えください。今後とも宜しくお願いしますと」
「畏まりました。では、パーツについての査定は速やかに済ませます」
「そちらの結果を信じます。品を置いていくので、代金は船に届けてください」
持ち帰っても使い道はありませんからね。動力炉があればと思いましたが。残念ながら完全に破壊されていたみたいなので。
「では、その様に」
『ダイダロス商会』との商談を無事に終えることが出来ました。次回はさらに薬草を持ち込んで利益を上げなければいけませんね。
莫大な利益を出したシャーリィはその使い道に想いを馳せるのだった。