コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エレノアだよ。あの後シャーリィちゃんを達が出てきて船に引き上げたんだ。荷物を『ダイダロス商会』に預けてね。
査定の場に居なくて良いのかとは思ったけど、シャーリィちゃんの決めたことに口を挟むつもりはないね。それに、相手とは古い知り合いみたいだし悪いようにならないだろうさ。
それで、アークロイヤル号でしばらく待ってると『ダイダロス商会』の奴が代金を持ってきた。私達が集めたパーツは星金貨三枚の価値があったみたいでね。薬草と合わせれば星金貨二十三枚の売り上げだ。ここ最近じゃ一番のアガリだよ。
「無事に商談も終わりました。エレノアさん、長居は無用です。行きますよ」
「あいよぉ!野郎共!出港だーっ!」
「「「へーいっ!!」」」
私達はその日のうちに『ファイル島』を後にした。まだまだ薬草は売れそうだからね、次の交易が楽しみだよ。
シャーリィちゃんも今回の参加者全員に追加で金貨一枚を配った。相変わらず気前が良いね。ありがたい限りさ。このまま何事もなく、と思ってたけど。シャーリィちゃんの言葉は正しいよ。本当にこの世界は意地悪だ。
遡ること数日前。シャーリィ達に恥をかかされたと思い込んだ『闇鴉』の面々は、密かに彼女達を監視。その動向を注視しており、彼女達の出港に合わせて襲撃を掛けるべく準備をしていた。
彼等は『ファイル島』でも落ち目の海賊達に声をかけて襲撃に備えていた。
「本当に報酬は山分けなんだよな?旦那」
「当然だよ。最新の情報では、彼女達は星金貨十枚以上の利益を出したらしい。私は彼女達の最後を見られれば満足だから、奪ったものは好きにして構わないよ」
『闇鴉』メンバーのヤーダル。茶髪の小男だが、ズル賢さに定評がある。今回『ダイダロス商会』との商談を任されており、それをシャーリィ達に邪魔されたと逆恨みして襲撃の機会をうかがっていた。
彼は報酬で海賊達を誘い自らの戦列艦に乗せてシャーリィ達を海に沈めるべく暗躍していたのだ。
「相手は最近現れた蒸気船って奴だ。足の速さじゃ敵わねぇが、待ち伏せすれば問題ない」
「期待しているよ。奴らが海に出たところを沈めてやるんだ」
~現在 アークロイヤル船上~
「船長ぉ!水平線に船が見えるぜ!」
見張りの声を聞いて、私は首を捻った。『ファイル島』の近くだ。他の船くらいはあるだろう。
「それがどうしたんだい?」
「旗を掲げて無ぇんだ!しかも、進路は真っ直ぐこっちに向かってきてる!」
「なにぃ?」
自分の身元を証明するために海の上じゃ旗を掲げるのが当然のルールだ。
旗を掲げないのは、どう考えても怪しい。いや、心当たりはあるんだけどね?
「本当に掲げて無いのかい!?」
「ああ!間違い無ぇ!それに、進路は変わらねぇ!」
こりゃもしかして……やる気か?旗を掲げないで近付いてズドン。海賊のやり口だ。あんまり誇りがある行為じゃないから、私はやったことがない。騙し討ちになるからね。
「動きを見張りな!何かあったらすぐに知らせろ!」
「へい!」
「何人か上がれ!見張りを増やすんだ!」
うん、リンデマンが私の意図を察して指示を飛ばしてくれる。頼りになるよ。
「エレノアさん、何か問題が発生しましたか?」
鈴を転がすような可愛らしい声に振り向くと、相変わらず無表情なシャーリィちゃんが傍に居た。船室で休んでる筈だったけど、声が聞こえたかな?
「ああ、シャーリィちゃん。ちょっとね。私の勘違いなら良いんだけどねぇ……」
「勘違いで無い場合は?」
「シャーリィちゃんの口癖の通りさ」
そう言うと、シャーリィちゃんは心底嫌そうな顔を(あんまり変化はないけど何となく分かるようになった)した。
「世界は意地悪ですね。こっちはお父様の件でちょっと気分が落ち込んでいるのに」
「だろうねぇ」
「具体的には?」
「水平線に船が現れた。色々事情はあるけど、多分海賊だよ。そして狙いは私達」
「回避する手段は?」
「進路を塞がれてる。この辺りは慣れない海域、下手に進路を変えたくない。つまり、ぶつかるしかない」
「争いを避ける場合は?」
「降参すれば命は奪われない。ただし、有り金や物資は全部奪われるし女は、つまり私やシャーリィちゃん、アスカちゃんは死ぬより辛い人生が待ってる」
海の上で女を捕まえた海賊がやることなんてひとつだけさ。運が良ければ娼館に売られる。悪ければ船で壊れるまで慰み物だよ。
「つまり、戦う以外に道はないと」
「無いよ」
「では、敵ですね。エレノアさんの予感が当たった場合は遠慮無くやりましょう」
よし、決まったね。
「野郎共ぉ!戦闘用意だーっ!」
「「「うぉおーっっ!!!」」」
私の号令で部下達が慌ただしく動き始めた。その動きには興奮も混ざってる。無理もない。人間相手の海戦なんて久しぶりだからね。
『暁』に加入して始めてかもしれない。
「船長、こいつで人間相手の海戦は始めてだ。プランは?」
「相手の出方次第だよ。最初の一撃を相手にやらなきゃいけないのはムズムズするね」
そう、まだ相手が敵だと確定した訳じゃない。嵐で旗が千切れたなんて話もある。下手に攻撃して相手が堅気だったら大事だよ。
いや私達は気にしないけど、シャーリィちゃんは気にするだろうからね。
「エレノアさん、問題点は?」
「相手の意思を確認しなきゃいけないから、どうしても最初の一撃を向こうに委ねるしかないところかねぇ」
「砲撃を受けると」
「まあ、そうなる。それに、こっちの強みをあんまり活かせないかな」
アークロイヤル号には百門以上の大砲が積まれていた。それそのものは慣れ親しんだものだけどね。私は『暁』の訓練で見ちまったのさ。シャーリィちゃんが導入した『榴弾砲』って奴の威力をね。
射程、命中率は段違い。しかも装填の手間も少ない。更に砲弾が爆発する。こんなのが海の戦いで使えたらどんなに有利になるか。
早速私はシャーリィちゃんと交渉して、この榴弾砲を四門仕入れた。砲列甲板を空にして、代わりに甲板にこいつを設置した。
空いた砲列甲板はそのまま船倉になったから、積載量が増えるってメリットもあったね。
「遠距離砲撃が行えませんか」
「相手の出方次第さ。けど、一撃はくらうよ」
「それで沈んだりしませんよね?」
「そこは安心して良いよ。ただ危ないから船室に戻ってな」
大砲を降ろして浮いた重量分鉄板で装甲を施しておいた。ドルマンの話を信じるなら、普通の大砲の玉は弾き返せる筈だよ。
さぁて、久しぶりの海戦だ。血が騒ぐねぇ。
エレノア達海賊衆は不敵な笑みを浮かべながらゆっくり近付いてくる不審船を見つめるのだった。