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あの日から、一週間が経った。
今日は、久しぶりに晴れていた。
ガラス越しに差し込む光が、店の奥までやわらかく照らしていた。
私は、カウンターに片肘をついて、ただ、濡れたコイン3枚をじっと見ていた。
すると、千紗がすっと店に顔を出す。
制服ではなく、私服で。
千紗は少し日焼けをしていて、久しぶりに
笑っているようだった。
「この天気、やっと落ち着きましたね。」
「そうですね。……でも、雨の音がないと、
変な感じです。」
そう話していると、千紗が恥ずかしそうに
声を出す。
「たまには、外に出ませんか?」
「……え?」
「ほら、天気いいですし…二人ともシフトないじゃないですか。」
その声の軽さに、思わず笑ってしまった。
少し迷ったけれど、
その日、私と千紗は出かけることにした。
駅前の古いパン屋。
公園のベンチ。
カップアイスを分け合いながら、
話す内容はどうでもいい事ばかり。
「紗良先輩、結構甘いの好きなんですね。」
「……バレました?」
「顔に出てます。」
二人で笑いながら、私は、久しぶりに
“普通の午後”を、過ごした気がした。
夕方が近づいた頃、千紗が言った。
「ちょっと、寄りたい道があるんです。」
歩いて10分ほど。
店の前の交差点
十年前の事故の場所だった。
「……やっぱりここなんですね。」
「はい。でも、今日は何も感じない。
ただ静かで…ちょっと寂しいです。」
車が通り過ぎ、信号が変わる。
赤から青。
そのとき、通りの向こう側で、制服姿の少年が立っているのが見えた。
陽の光に、金のボタンが一つ、きらりと光る。
紗良「ねえ、あの子――」
千紗「ん?」
次の瞬間、もう姿はなかった。
歩道の縁に、小さな金色のボタンだけが転がっていた。
帰り道、空は淡いオレンジ色。
二人でコンビニのアイスコーヒーを買い、
並んで歩く。
すると、千紗が微笑しながらこう言う。
「なんだか、デートみたいですね。」
「…っえ?そ、そんなつもりじゃ… 」
「冗談ですよ。」
でも、少しだけ照れて笑っていた。
沈みゆく光の中、
二人の影が、ゆっくりと重なって伸びていく。
最後に、ポケットの中で何かが揺れた。
――カラン。
取り出すと、そこにはあの金のボタン。
紗良「……拾ってないのに。」
千紗「ね、やっぱり“ついて来てる”んですよ。」
紗良「……でも、悪い感じはしませんね。」
千紗「うん。むしろ、ちょっと見守られてる感じ。」
夕日の中、二人の笑い声が重なる。
そして、
遠くの空で、雷のような音が、
ほんの一瞬だけ――鳴った。