「それって、都内でなくても出来るの?」
運ばれてきたティーポットに手を伸ばしながら聞くと、彼は私がテーブルに置いていた名刺を裏返した。
「なるほど……主要都市には支店がある」
「全国の物件を取り扱えるが?」
私は見るからに美味しそうで、美味しいに決まっているケーキをじっくりと見つめてからフォークを持つ。
「写真、撮らないのか?」
――それは、ある種の偏見?
何も答えないまま大きな一口を食べた私に
「……逃走中で、スマホもない?」
彼は斜め上の言葉を投げた。
「事件のあった事故物件を売ろうとしているのか?」
「……」
「手に入れた金も、怖くなって手放したいから、さっきのように…」
「ひとつも当たっていない」
「よかった」
「私は、ここでやりたいことがある。そのためにさっきのお金以上のものを捨てて来た」
――卒業間近の大学を辞め、就職も辞退したの
「例えば?」
「……未来」
「未来?」
「そうよ」
「未来を捨てた君が、ここでやりたいこと。それは未来に向かっていないのか?」
興味本位でもなさそう。
かといって、口調は最初から一定に安定している。
――絶対に圧迫面接なんてしなさそうなタイプだな
「お返しする…還す作業が必要なだけ。売却したい家があるの。あなたにお願いできますか、早川希輔さん?」
価格は問題じゃない。
早くしないといけない。
だから、ここで会ったこの男に売る。
「断る」






