コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜中に魔法の本を読んだら寝不足になった。
だって、面白かったんだもの。
本によると、基本的に魔法は魔導書に書かれたものを暗記して詠唱するらしい。
魔語(まご)を習得するのは難しいから、すでに作られたものを使う方が効率が良い。
魔法が外国語みたいだから、外国語を勉強するより定型句だけ暗記した方が早いってことね。
で、暗記が主流だから、オリジナルで魔法を作る人なんてほとんどいない。
生活や冒険においては、既存の魔法だけでなんとかなるらしい。
というか、既存の魔法を駆使するのが魔法使いっていうイメージなのかも。
だから、魔法自作可能ってのはそこまで隠さなくてもいいけれど、やっぱり公にしない方が何かと有利なんじゃないかと思う。
それから、基本的な魔法は暗記しておいた。
生活用の水、火、風、土の魔法のほかに、攻撃や防御、治療に使えそうなものは一通り。
私たちは日本語で覚えてしまえばいいから、その辺は楽だよね。
ちょっとくらい違う言葉でも、自作できるから発動するし。
応用編の最後の方に、魔法を待機させる方法があったけれど、ちらっとしか書かれていなかったから、これができると一目置いてもらえそう、かな。
私は一応魔導士ってことになってるし。
え、目立ってもいいのかって?
どう頑張っても目立つと思うよ。
だって、私は勇人(ゆうと)とセットで活動することになりそうだからね。
子連れ冒険者とか目立たないはずかない。
今は抱っこひもだけど、自分で動きたい年頃なったらどうしようかしら。
って、その前に日本に帰りたいなぁ。
「邪栄(やえ)ちゃん、準備できた?」
「うん、一応……。あー、ほんとに抱っこひも欲しい。ベビーカーでも良いけど、ちょっと不安だから抱っこひもがいい。あと腕が筋肉痛になる」
こっちには、昔の人が使ってたみたいなちょっと太めの紐で括りつけるか、籠に入れて持ち歩くしか方法がないらしいのよね。
「そうだね……あ、そういえば、邪栄ちゃんの実現魔法でなんとかなるかも。使い方とか、昨日調べて一応分かったよ」
「え?どういうこと?」
「実現させたいことを魔語で言えば実現するらしいよ。ただし、1日1回だけで、実現できないこともあるみたいだけど」
「1日1回って……便利なんだか不便なんだか。でも、それだと抱っこひもが手に入るってこと?」
「多分。『実現せよ、ここに抱っこひもがある』みたいに言えばいいんだと思うよ」
「ふぅん……じゃあやってみる。<実現せよ、私が使っていた抱っこひもは涎カバーのセットと一緒にここにある>」
両手を見ながら言ってみた。
出てきた。
ちゃんと肩紐にかける涎カバー3セットも一緒に。
汚れもそのままだから、きっと家にあったものがここに来たんじゃないかな?
すごい。
なんて便利なんだ。
「哲(てつ)くん!哲くん!見てこれすごい!!」
「だうー、だっだ。だーだー」
勇人にも分かるのかな?
「あ!しまった……どうせなら、新品って指定すればよかった!」
「すっご……邪栄ちゃんすごいね」
私の後悔は、華麗にスルーされた。
「これさ、頑張ったらみんなで帰れないかな」
「あ」
「ん?」
「ちょっと待って。……あ、うん、多分無理だね」
哲人は、虚空を見ている。
多分、ステータスみたいに画面か何かで結果が見えているんだと思う。
「どういうこと?」
「この世界で生きるために欲するものごとを実現可能、って但し書きがあった」
「えー。一番実現させたいことなのに」
「何でも叶う魔法はさすがにないんだろうね」
「そんなもんかぁ……」
「たーたーたー、たたーたー」
抱っこひもを装着して抱っこする。
勇人はご機嫌だ。
やっぱり安定感が全然違う。
腰と肩で支えていて、両手も空くしすごく楽。
よし、これで勇人を抱っこしたままでも比較的がっつり動けそう。
魔法で揺れとか抑制できるだろうから、走ったりもできるんじゃないかしら。