準備が終わって待っていると、爺さんと騎士さんが部屋に来た。
騎士さんは、胸当てのほかに腕、足の要所が金属で、ほかの部分は何かの皮らしい防具を身に着けている。
マンガみたいな、キラキラしい装飾品みたいな感じじゃなくて、本気で身を守る装備だ。
私たちは、貰った服に貰ったマントを着ている。
防御力は言わずもがな。
「おはようございます。おや、奥様、その恰好は?」
私は、抱っこひもで勇人を前向きに抱っこしたまま、マントを身に着けている。
やっぱり黒い抱っこひもって目立つよね。
こっちの洋服は、基本的に優しい色ばかりだから。
「宰相さん、おはようございます。これは、子どもを抱っこするためのものです。両手が空くので、とても便利なんですよ」
「なるほど、勇者様方の世界のものですか。ですが、少し目立ちますな」
「ですよね……では、こうやってマントで覆ってしまえばどうでしょう?」
ちょっとマントをひっぱって前を閉じ、抱っこひもを隠して勇人の顔だけ出るようにしてみた。
「あぁ、なるほど。そのようにしてくだされば、大丈夫でしょう」
OKらしい。
「本日は、この者が勇者様方の護衛をいたします」
「……王都第三騎士団所属、副団長のベルータといいます。本日は皆様と冒険者組合へ行き、登録してから城へ戻る予定となっています。道中、ご質問があればお受けします」
副団長なんだ。
ちょっと白いものが混じった髪からすると、私たちより一回り上くらいかな?
筋肉はしっかりついてるし、頼りになりそう。
ただ、お堅いだけじゃなくて不本意そうな雰囲気がある。
私たちの護衛とかタルいですよね、すみません。
「よろしくお願いします。私は哲人といいます。こちらは妻の邪栄、それから息子の勇人です。知らないことばかりですので、ご教授願えれば助かります」
哲人が余所行き仕様であいさつする。
ベルータさんは、軽く頭を下げて答えた。
「では、ベルータ殿、後は頼みます。儂は執務室におりますゆえ、帰られたら報告に来てくだされ」
「セヌバタ宰相様、皆様と一緒に報告に行けばよろしいですか?」
「ふむ、それは……そうですな、その方が面倒も減りそうだ」
「かしこまりました」
宰相さんは、セヌバタさんというらしい。
それにしても、一応用心して名前しか名乗ってないけど、この世界の人たちも名前しか聞かない。
家名とか存在しないのかな?
もしかしたら名乗るのは貴族だけとか?
それとも、家名まで教えると真名がどうこうでダメとか?
ちょっとよくわからないけど、とりあえずはこのままでいいかな。
城を出て、王都の大通りを歩く。
仕事を始める時間は過ぎているらしく、店内も道も人が多い。
「ベルータさんも北のご出身だったんですね。サンナさんから北の領地については少し聞きました」
「はい。サンナは同じ村の者で、一応身元引受人のようなものです」
「そうだったんですか」
北の出身の人を選んだのは、宰相さんの配慮?
それとも、北の人は信頼できる人が多いのかな?
騎士団について聞くと、第一は王族の護衛、第二は城の警護、第三は王都の警護を担当するらしい。
第一には貴族出身者が多く、少数精鋭の花形なんだとか。
第三は一番人数が多く、庶民出身者も多い。
ベルータさんは、叩き上げで副団長までのし上がったみたいだから、相当できる人なんだろう。
私がベルータさんと並んで歩き、少し後ろに哲人がいる。
抱っこひもの中の勇人は、周りをきょろきょろと見ている。知らないものが多くて、面白いね。
あ、哲人がちょっと拗ね気味だ。
そろそろ話に加えないと。
「夫も私も冒険者組合のことは何も聞いていないのですが、どういった手続きをするのですか?」
「加入手続きそのものは、書類を記入して提出するだけですから簡単です。ただ、ランクを決めるのが少々時間も手間もかかるかと」
「ランク決めですか?」
哲人が加わってきた。
うんうん、世間話は私担当で和ませて、必要事項は哲人が聞くのが自然よね。
「はい、下からランク1、ランク2と上がっていき、最高ランクは10です。ランク1と2は、街の近辺で雑用に近い仕事を引き受ける子どもが多いです。森へ行ったり護衛を引き受けたりするのは、ランク3以上の冒険者です。ランク5を超えるとダンジョンに入っても即死しない実力です。ランク9は災害級の魔獣を相手にできる冒険者で、現在は存在しません。ランク10は、国を落とせるほどの力を単独で持つとされていますが、今までそこに該当した者はおりません」
ふむふむ、私たちとしては、ランク6くらいになれれば御の字か。
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