イエット公爵はあごひげを撫でながら笑う。
「とにかく、大公閣下がご用意してくださった資金のおかげで、根回しがスムーズにできました。ありがとうございました」
「いえいえ」
「それにしてもあれだけの大金をどのように用意なされたのですか?」
サイモンはフフフと策略家かのように笑った。
事件となった卒業式の翌日、王城も騎士団も閑散としたことにショックを受けて、外務大臣室で項垂れていたイエット公爵とボイド公爵の元に現れたのはなんとキャビだった。
二人はキャビに連れられて王都にある元シュケーナ公爵邸へ行った。その屋敷の地下室へ着くとそこにはお金が山のようになっていた。
「なんなんです? これは?」
ボイド公爵は眼を見張る。
「宰相殿の金か?」
イエット公爵も同じ公爵という爵位だが、これほどの金はお目にかかったことがなく驚愕した。
「ご主人様より、お二人が卒業式の後、王家三人をしっかりと管理するようならこのお金をお任せするようにと仰せつかりました」
二人が国王たちを離宮に監禁したことをキャビは知っている。
「このお金を是非ボンディッド王国の国民のためにお使いください。これは本来国庫にあるべき物なので、我が主を慮る必要はございません」
「え!? そうなのか?」
キャビは大きく頷いた。
「着服もできたろうに……。宰相殿は……」
二人は悲しさと嬉しさと憧れとで複雑な顔で笑った。
「これほどの金があればこの国を纏められます。だが、これを動かすとなると大事ですね。
そうだ! 私は妻との離婚を考えておりますゆえ、しばらくここに住み、これを守りましょう」
「でしたら、ワシも! 二人で話し合いのため泊まり込むということでどうですかな?」
「それは色々と手間が省けていいですね」
キャビから鍵を預かった二人は自分の屋敷で妻を軟禁することを指示し、数人の使用人とともに宿泊施設のようにシュケーナ公爵邸で暮らすこととなった。
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「国王と王妃が散財していることはお調べになりましたか?」
サイモンはソファーにゆったりと座りお茶を口にしながら話を進めた。
「ええ。凄まじい金額で驚きました」
「あれら――国王と王妃――はただ散財することを楽しんでいるガキなのですよ。買ってしまえば何が倉庫にあるかなど興味もない。
倉庫には袖も通されていない服や箱から出された形跡もないアクセサリーが溢れておりました」
「それを全て売ったのですね」
サイモンはしてやったりとニタリと笑う。
「いいえ。最新デザインで高値となるものしか売っておりません」
「え!? でも、倉庫には大公閣下があの日に仰られたほどの物はありませんでした」
卒業式の日『この百倍は王宮に保管してありますでしょうに』とサイモンは国王たちに侮蔑の視線を向けていた。
「私の妻の腕、ですよ」
イエット公爵は首を傾げる。
「王宮の倉庫にあったものをリメイクして二人に売りつけたのです」
「なるほど! あの卒業式の日にお聞きしたお話ですなっ! 大公閣下の装いがまさか夫人の手作りだは驚きでした。才能のある妻君で羨ましいですなぁ」
妻を褒められたサイモンは顔を綻ばせる。サイモンの個人ブティックから売ったような形なので帳簿的には問題ない。価値的に問題があったとしても。
「それから食材も二流の物を一流の値段で卸しました。あれらに本物の味などわからないことは立証済みでしたので」
「ぷくくく」
イエット公爵は肩を揺らして笑う。
「その金を国庫ではなく我が家で管理したのです。
王城にある売買記録とうちの売買記録の照合をなさりますか?」
「いえいえ、その必要はありません。あの金を預けていただけただけで十分です。
ですが、そういう金なら使ってしまってよかったのですか?」
「うちも独立のために四割ほど使わせていただいておりますよ。ここに新しい庁舎や学園の建設をすることに使いました。
まさかいくら我が家でもあれほどの物を建てる資金はありませんよ」
「では、この計画はルワン公爵閣下と進められたのですな」
ルワン公爵はボンディッド王国の財務大臣であった。
イエット公爵はこれまでのことがいろいろと繋がってきた。
「そして、あえて国王たちの散財を止めずに利用なさった」
男二人がニヤリとして目を合わせる。
「そうです。財務大臣と宰相の力を使えば止めることはできたかもしれません。だが、どこかで綻びが出てあれらが暴走するやもしれない。それなら、好きなだけ散財させてそれを利用することにしたのです」
「はじめから独立をお考えだったのですか?」
「まさか。我が娘が王妃となれば問題の解決は容易くなりますし、生まれてくる王子をきっちりと育てれば良いと考えておりました。
ルワン公爵殿と独立を考えたのは子供らが学園に入学してからです。
国王たちに対しては早々に諦めてしまったという点は国民に申し訳なく思いますが、王子がクズだとわかった時点であの国王夫妻を改心させるより新たな国にする方が予算も労力も少なくて済むと考えたのです」
サイモンは妻ケルバから聞いた話は誰にも言っていない。
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