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株について調べると、怪しげな投資会社や広告がいっぱい付いているホームページが軒を連ねていた。どれを見ていいのか、僕にはぜんぜんわからない。
『けっこうたくさんあるな……』
ぜんぶ詐欺サイトに思える。最近よくニュースでも言っているもんなぁ。こういう投資系って言うのは怪しいし、お金をだまし取られることが多いって。
とりあえず基本的なことが書かれているページを読んでみた。
日本の株式市場に上場している会社(2026年5月時点では3942社)の中から、何社か選んで株を買ってみましょう。その会社が順調に業績を伸ばして人気化し、「株を買いたい」という人が増えれば株価は上がっていきます。株価が上がったところで株を売れば、買ったときとの差額が儲けになります。こうして得た利益を「値上がり益」と言います。株式投資で儲けるには、「いい株を安く買うこと」が大事です。
(いい株を安く……か)
正直よくわからなかった。なにがよくてなにが悪いかがわからないからだ。
続いていろいろ見ていると、チャートと呼ばれる表が出てきた。これは、過去の株価の値動きをグラフ化して見やすくしたもので、株式投資をする上で相場の転換点を知るための参考となるものだ。これを詳しく解説し、指標から導き出すデータについて触れているホームページがあったので、過去のデータを参考にしてみた。すると……
データが示していた。タヨタとカンダ、この2社は近いうちに下落する、と。下落というのは、株が下がってしまうという意味だ。
(今日、おじさんが言っていたタヨタの株は、もうすぐ落ちそうだ。それに、カンダの株……これはもっと落ちそう)
僕は算数が得意で、特に数字を分析することには長けていたので、このチャートを割と簡単に読み解くことができた。興味を持つきっかけになり、早速研究した。学校から貸し出しされているタブレットでHPの写真を撮ることができるので撮影し、自分の家に帰って分析に明け暮れた。電気は点かないから、もらいものの懐中電灯で灯りを点けて。
過去の分析などを含め、研究を1週間ほど続けた。そろそろ2つの株が本格的な下落になりそうな気がした。これをおじさんたちに教えようと思って、学校から急いで帰って折り紙に直行し、2つの株の値動きを確認してから、いつもの建設現場の出前食器下げの仕事を買って出て、僕は走ってそこへ向かった。
ドキドキしながらプレハブ事務所に入ると、おじさんは嬉しそうな顔でスマートフォンを見ていた。カンダの株を持っている茶髪のおじさんの方だ。
『クソッ。今日はタヨタ、だめか……』
この前と逆だった。因みに株価はさほど値動きはせずに推移していた。そして今日、タヨタの株は大きく下がっていた。そろそろ本格的な下落に入る前兆だ。
『やっぱりカンダだって。タヨタよりカンダ~』
ふたりが話している所に、僕は割り込んだ。『そのふたつの株、もうだめだよ。早く売った方がいいと思う』
『どうした睦月、突然』
『この前教えてもらった株のふたつ、過去のデータを見て研究してみたんだ。見て、これ』
僕は自作の分析表を見せた。自分なりに予測を立てて、線を引いたものだ。
『過去のデータ全て見たら、今、過去のこの部分のチャートと同じ形をしているんだ。だからもうすぐ落ちちゃう』
『へえ……こんな分析表あるんだな』
おじさんたちはこの表を真剣に見てくれた。
それだけで誇らしい気持ちになった。
『下落がわかるってことは、上がりそうな銘柄もわかるのか?』
茶髪のおじさんにスマホを渡された。
『明日上がりそうな銘柄を当てたら、睦月の言うこと信じるから』
このころ、僕は彼らととても仲良くなっていたので、坊主から睦月と名前を呼ばれるくらいの仲になった。
上がりそうな銘柄を当てる……か。
『当てたら千円やるよ』
お金がもらえるなんて!
僕は暇さえあればチャートを見て分析していたので、なんとなく次に来る銘柄を自分なりに考えていたところだった。
『じゃあ……これ、買ってみて』
僕が選んだのは、非鉄金属(鉄や鋼以外の金属を扱い、電気や情報を使う現代社会を支えるさまざまな産業分野で利用されているもの)セクターの『クラフジ』という無名の会社だった。業績は悪くないし、これから株価が伸びそうなチャートになっていた。
『ふうん。ま、安いから買ってみるか』
クラフジの株価は現在500円ほどだ。100株買っても5万円。
『えっ、お前マジで買うの?』
『カンダも売るわ』
僕の言うことを信じてくれたのは、カンダの株を持っている茶髪のおじさんの方だった。通常のマーケットは15時半で終了するから、時間外取引で個人的に売買していた。
『おたくもタヨタの株、早めに売っておいた方がいいんじゃないか?』
『バカ言え。天下のタヨタがそうそう下がるか』
禿げたおじさんは口をとがらせて言った。『小学生の言うことが当てになるかよ。そんなド素人の言うこと真に受けてるから、損するんだよ』
『まあ、ものは試しってことで』
結果は3日後に判明した。この時の判断が二人の命運を分けたのだ。