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み ん と
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Episode 2「個人最強?」
ボーダーに入って、数ヶ月が経った。
最初は右も左も分からなかった訓練施設にも慣れ、任務終わりに本部へ戻る生活も当たり前になっている。
その間、湊がやっていたことは単純だった。
個人戦。
任務。
また個人戦。
空いた時間はほとんど訓練室にいた。
最初は新しい戦い方を試すため。
次は勝率を上げるため。
気づけば、ただ勝ちたくなっていた。
「……は?」
訓練室端末を見た三上が変な声を出す。
「お前もうマスター行ってんの?」
湊は端末から目を離さないまま頷いた。
「昨日超えました」
「いや早すぎるだろ……」
周囲の隊員もざわつき始める。
ガンナーランク8000ポイント以上。
マスタークラス。
普通なら何年もかけて到達する領域。
それを湊は、数ヶ月で超えていた。
「最速じゃね?」
「いや多分マジで最速だぞ」
「新人だよな?」
湊は少し困った顔をする。
そんなつもりはなかった。
ただ毎日個人戦を繰り返していただけだ。
「――で? 本当なのか?」
別の隊員が身を乗り出す。
「太刀川さんに勝ったって」
湊の動きが止まった。
……またそれか。
「勝ちましたけど」
「うお、マジ!?」
周囲が一気に騒がしくなる。
「何回!?」
「最初の五戦くらいです」
「五戦!?」
湊はため息を吐きそうになる。
言い方がおかしい。
正確には。
「三勝二敗でした」
静寂。
次の瞬間。
「勝ち越してんじゃねぇか!!」
訓練室が爆発した。
湊は頭を押さえた。
違う。
違うのだ。
「あれ初見だっただけです」
「でも太刀川さん相手だぞ!?」
「今は普通に負け越してます」
「どれくらい?」
「十回やって一回勝てればいい方です」
その場が少し静かになる。
だが数秒後。
「いやそれでもおかしいだろ」
結局そこへ戻る。
湊は机へ突っ伏したくなった。
個人戦ブース。
転送。
模擬市街地。
開始。
湊は即座にバッグワームを起動する。
レーダーから消失。
静かに移動。
数ヶ月前とは違う。
足運び。
視線。
遮蔽物の使い方。
全部が洗練されていた。
ふと、気配を感じる。
近い。
建物内。
上階。
湊はルートを変える。
正面からは行かない。
横のビルへ入る。
階段。
静かに上る。
気配が濃くなる。
同じ階。
湊はカメレオンを起動した。
姿が消える。
通路を進む。
壁越しに、相手の位置がぼんやり分かる。
角の向こう。
待っている。
湊は足を止めた。
相手も警戒している。
レーダーを確認しているのだろう。
だが、湊は映っていない。
静かにハンドガンを構える。
一歩。
踏み込む。
解除。
発砲。
乾いた銃声。
相手が反応するより先に、シールドが砕ける。
「ッ!?」
二発目。
《BAIL OUT》
光が散った。
湊は即座に横へ移動する。
撃った位置に留まらない。
それも、太刀川との個人戦で叩き込まれたことだった。
『また勝った……』
観戦席で誰かが呟く。
『今何連勝?』
『知らん……』
『マジでどこから撃ってくるんだよ』
湊はそんな声を聞きながら、静かに息を吐いた。
勝てる。
今の戦い方は強い。
それは間違いない。
でも。
脳裏に浮かぶのは、太刀川との個人戦だった。
最初は勝てた。
奇襲が通った。
間合いも読まれなかった。
でも。
回数を重ねるたび、勝率は落ちた。
接近を警戒される。
射線を切られる。
シールド精度が上がる。
一瞬の隙を突かれる。
そして今では、十回やって一回勝てればいい。
それでも十分異常だと周囲は言う。
だが湊自身は、そんな風に思えなかった。
まだ未完成だ。
まだ対策される。
まだ崩される。
もっと強くならなければいけない。
湊はハンドガンを見下ろす。
その時だった。
通路の向こうで、別の隊員たちの会話が聞こえた。
「知ってるか?」
「ああ、“個人最強”の新人だろ?」
湊は静かに顔を覆った。
……誰だそれ。