‘やだ、泣いてないで…良子が頑張ってるのに私達が泣いちゃダメでしょ…良子?もしもし?’
「うん、お母さん…」
‘ちゃんと食べてる?毎日ちゃんと食べてるの?’
「…3食……ちゃんと食べてる」
‘うんうん、えらいね…それでいいよ、良子’
「電話…お母さん帰ってるの?」
‘今は転送してるのよ。でも2週間に一度はお父さんと帰って週末は泊まってるし、そのまま私だけ1週間ずっと帰ってる時もあるよ’
「そう……」
‘冬のダウンコートが置いてあったから、心配してたのよ’
「ダウンじゃないけど、こっちで買った」
‘ちゃんと買えるんだね?困ってない?’
「大丈夫」
‘良子…もしもし?良子’
「うん、お父さん」
‘お前の大丈夫は心配だが……その言葉を信じるしかないのが、今の父さんたちだ。困っていることは言ってくれ…なっ?’
「ありがとう。本当に大丈夫なの。住む部屋も仕事も不自由ないの」
‘楽しみは……?すごい数の本を読んでいただろ?’
「そうだね。ちょっと置場所を考えるのが面倒で買ってないけど、年末から図書館を利用してる。結構いい品揃えなの」
地元より断然いい図書館がある。
さすが東京だ。
‘そうか…また……連絡はしてくれるか?’
「うん、心配かけてごめんなさい」
‘何言ってんだ。子どもの心配は親の仕事だ’
‘そうよ、いくつになっても子どもは子どもだもの’
そう長くはない電話を終えてから、ずいぶんとぼんやりしたあとで颯ちゃんに電話をする。
‘遅い’
「ごめん……」
‘リョウ?良子?何があった?やっぱり俺今からお前んとこ行くわ’
颯ちゃんのいつも通りのちょっと怖い口調の‘遅い’を聞いて何故だかホッとした。
お父さんとお母さんに電話するのは、他の誰に電話するよりも緊張していたのだと今さら気づく。
‘おいっ、場所言え’
「…うふふ、颯ちゃん……」
‘泣きながら笑ってんな、ふざけんなよ’
「ごめん…ふふっ……」
‘何があった?’
「……お母さんたちに電話した」
‘そうか、今日は俺と佳佑にも電話して…頑張ったな……頑張ってるんだな、リョウ’
「…ちょっと頑張ってるのかな………佳ちゃんと颯ちゃんと話して…お母さんたちにもって思えたの」
‘喜んでただろ?’
「…泣いてた……泣かせちゃった」
‘それはいいだろ?お前の方が泣いただろ?たくさん一人で泣いただろ?’
「忘れた…ぃ……」
‘俺が忘れさせてやる、必ず’
それはどこからくる自信か……でも、颯ちゃんの言葉は私の鼓膜を心地よく揺らした。
コメント
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ご両親はいつ良子ちゃんが戻ってきても連絡がきてもいいようにしてたんだね。 颯ちゃんはリョウと良子どう使っていくのかな。そして颯ちゃんの少し強引で強い言葉が温かくじんわりと良子ちゃんに浸透してってる、全細胞に…☺️