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「起きて!」

ぱち、目が覚める。

「もう、やっと起きた、ほら、早く起きて支度してきてください、朝餉、覚めちゃいますよ」

ああ、可愛いなあ。

「……ねえ、キス、して呉れよ」

「え」

固まってしまった。

それもそうか。私はあまりそんなことを言ったことがなかったから。

「ね、寝ぼけてるんですか」

「ううん、寝ぼけてないよ、起きてる、ねえ、キスしてよ」

「う、わかりました……」

ふに、と唇が当たった。

瞳がきらりと輝いていた。宝石みたいだと思った。それがあまりにも可愛らしくって、ついつい力いっぱい抱きしめた。

「あ、朝餉! 朝餉、冷めちゃう!」

「いいじゃないか、また、温めればいいのだから」

「そ、そうですけど……出来立てが一番美味しいんです」

「……そっか、わかった、食べよう」

起きたばかりの私の手を強引に引っ張って、タタタタと廊下を開く。

そのうさぎのような愛らしさに、つい見惚れて、私は口元の笑みが止まらなかった。

「今日はオムレツが上手くできたんですよ。それで、ポトフも作ってみたんです。あ、お味噌汁の方がよかったですか?」

「ううん、ポトフ好き。なんでも好き。大好きな人が作ってくれるご飯なら、なんでも好きだなあ」

「……恥ずかしいことを、平気でおっしゃるんですね」

恥ずかしそうに顔を背けて、私の手を強く握った。

「さあさ、食べますよ」

椅子に座り、手を合わせて、私はいただきますと呟いた。

声小さくないですか、なんて笑う姿を見て、感極まっているんだよと作ってくれたポトフの中の玉ねぎを口に入れた。

「うん、美味しい、ねえ、おかわりしてもいい?」

「全部食べてから言ってくださいよ、おかわりはまだありますから」

「うん」

朝起きたら、大好きな人が困ったような顔で私の名前を呼んで。

朝餉が出来たからと、出来立てを食べたいんだと私の手を引っ張って。

朝餉も私を思ってくれたもので。

おいしいですかと聞かれたから、おいしいよと本心で言っただけで、照れたように笑って。

ああ、

「幸せだなあ……私は、幸せ者だ」

私はきっと普通の人ではないけれど、世間一般の恋人ではないけれど、幸せだ。

愛の形なんぞ、人それぞれなのだから。

「僕も、幸せですよ」

しんみりと呟いたその少年の顔は、やけに大人ぽくて、儚く感じた。

「本当? こんな私がいても幸せ?」

「あなたといるから幸せなんです」

「本当?」

「疑り深いですね、本当です」

「私は臆病なのだよ、特に君に対しては。……ねえ、どうして私なんかに優しくしてくれるの?」

「なんででしょうね、きっと、それは僕がそれほどあなたを好きだからかもしれません」

「……そっか」

「だからこそ、あなたには早く起きてもらいたい」

「え?」

少年が笑った。寂しそうな顔で笑った。

「僕はあなたが好きですから。起きてください、早く、このままじゃ、僕は優しく出来ないかもしれません」

少年の涙が私の手を伝って、私は悲しくて悲しくて仕方なくなった。

ああ、そうだ。私は蛞蝓と共に死んだのだ。その先で、織田作に逢ったんだ。

ああ、生きていたかった。……

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