テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
3件
すごーーーーくこれからが気になります‥!!!
また違う世界線もあるかも、
10周年を記念するライブも終えて少しのオフに入り、ようやく恋人とゆっくりする時間が取れた俺は涼ちゃんの隣で肩にもたれてあれこれと最近を振り返っていた。
「ライブ良かったね、天気も良かったし···10年って本当に色々あったけど最高のライブだった!」
「ほんとにね、てるてる坊主のおかげかな···ラッキーだったね。これからもいろんなことが待ってるんだろうなぁ〜」
これからもずっと一緒にいろんなこと楽しもうねって笑ってくれる涼ちゃんに笑顔で応える。
「···5人で今も居られたら良かったけど···それで10年を迎えられたら、また違ったライブだったのかな」
ふと、高野と綾華のことを思い出す。
セトリを考えながら昔の曲を聴いたりしているとやっぱりどこかで思い出す、5人で演奏していたあの頃を。涼ちゃんが当たり前に頷いてくれると思って顔を見上げるとそこには寂しそうな顔の涼ちゃんがいて、心がヒヤリとする。
「涼ちゃん···?」
「元貴は、僕と若井だけじゃ足りない?」
「え?何言ってるの」
「僕は···今でも充分幸せなのに、元貴は足りないの?なんでそんなこと言うの···これからも3人でしかないのに、もう昔の事言ったって仕方ないのに!」
俺を押して離して立ち上がった涼ちゃんが涙目で部屋を出ていく。
「涼ちゃん?待って!」
こんな風になるはずじゃなかった。
ちょっと昔を懐かしんだだけで、涼ちゃんと若井がいれば俺は充分すぎるほど幸せなのに。
慌てて追いかけて急いで靴を履こうと思った俺は慌てすぎて気がついたら天井が目に入って···ガンッと嫌な音と共に痛みを感じて気がついたら意識を失っていた。
「元貴?!何してるの、こんなところで寝てたの?えっ?」
あ、涼ちゃんの声だぁ···
そう思って 目を開けると俺は昨日倒れた場所でそのまま眠っていたらしい。
幸い、頭は痛くなくてけど床が硬かったせいか腰が少し痛いくらい。
「涼ちゃん!昨日はごめん、俺そんなつもりじゃなかったんだよ···ちょっと、もしもって考えただけで!」
涼ちゃんに抱きついてごめん、ごめんねって何度も謝る。
帰ってきてくれて良かった···そう思いながら。
「ちょ、ちょっと元貴どうしたの?なにを謝ってるの?昨日何かあったっけ?」
驚いたようにそう言って俺から離れる。何かあったっけって、俺の言葉に怒って出ていったのは涼ちゃんじゃないか。
「何って···涼ちゃん怒ってたから···」
「えぇ?別に何も···それより早く用意して!遅刻するよ!高野と綾華に怒られるよ、若井にも!」
涼ちゃん、今なんて言った?
なんで2人の名前がここで出てくるんだろう。
早くしなよって急かされるままに用意して俺たちは、タクシーでスタジオに向かった。
「ごめんね、遅くなって!」
「元貴遅い〜!涼ちゃんに迎え頼んで正解だった」
「ほんとに···元貴がいないと進まないだろ」
言葉を失う、というのはまさにこのことだろう。
俺は全く理解出来なかった。
どうして高野と綾華がここにいるのかを。
当たり前のように皆笑っているのかを。
「なんで···なにしてるの、2人とも。なんでここにいるの?」
ようやく絞り出した声はかすれて裏返ってびっくりするほどひどかった。
「声大丈夫?もしかして調子悪かったの?」
「えっ、ライブ疲れが出た?無理するなよ、暑かったしなぁ」
綾華と高野が心配してくれる···そうだライブ···慌ててスマホの写真を見返すとそこにはあの10周年のライブで5人がステージに立っている写真や、皆で自撮りした写真がいくつもあって···これは俺が昨日までいた世界じゃないんだ、と理解した。
「若井は?」
「あ、トイレ···ほら、帰ってきたよ 」
「元貴おはよう、遅いよ···って顔色悪いけど?大丈夫?」
「大丈夫···若井さ、この前のライブの写真見せて」
若井は写真が好きで俺よりもたくさん撮っているから···確認したかったんだ、今起こっている事が現実か何なのか。
「なに、いきなり···はい、どーぞ」
若井のスマホの写真を見せてもらう。
どんどんスクロールして去年、一昨年と昔の写真もたくさんあった···俺の記憶では3人だけのライブも音楽番組もMVの撮影のオフショットにも···どれにも高野と綾華の姿があった。
よろよろと近くの椅子に座り込んで、ぽいっとスマホを若井に投げて返す。
「なんだよ、もう。元貴どうした?」
「朝から変なの、僕にすごい勢いで謝るし抱きつくし」
俺以外の4人はあの頃のように変わらず笑っている。
懐かしくて3人になって長い俺には逆に新鮮に映る光景だった。
夢かもしれない、いや、どうせ夢だろう。
それならばいっそ楽しんでやろうじゃないか。
そう思う俺はほんとにず太いな、と思いながら曲の打ち合わせに入る。
驚くほど最初からこうだったんじゃないかと思えるくらい5人での音楽は心地よくて思わず泣きそうになる。
夢なら、夢じゃなくても、もういっそここままでいい。
そう思った俺に神様はそこまで優しくは無かった。
得たものがあれば引き換えに失うモノがあるのだと、得たものが大きければ大きいほど差し出すものも大きいのだと、俺は思い知らされる。