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文也は射撃の腕を買われてるけど、実は戦闘の体術も俺より全然上なんだよな
意外とみんな知らないけど
情けない話だけど俺がピンチになった時助けてくれる文也は惚れ直すレベルでかっこいい
普段があんなに気の抜けたてきとー野郎なのにこう言うところだけ凄いとかずるい
戦ってる時は、なんだろうな···猛禽類みたいな?
気づけば間合いに入られてて、そのまま。
そういえば文也は鳶だったな
昔も思ったけどぴったりだよな鳶─カイトっていうコードネーム
瞼を刺す朝の光に起こされて少し早く目覚めてしまったので、俺はそんなことを考えていた
隣で寝ている話題の中心人物はもうしばらく起きそうにない
あーさすがに腹へったな
俺は床に脱ぎ捨てられた衣類から適当な物を見繕って身につけ、仕方なくそっとベッドから抜け出す
さむ···床つめてえし
もう春になりかけているとはいえ朝方は寒い
昨晩の情事のせいで体も重いがもう慣れたものだ
音を立てないように部屋から出て、洗面所で顔を洗う
水が冷たくて苦行
そうしてキッチンに行って冷蔵庫を覗く
鮭の切り身あったよな
豆腐もあるし味噌汁でも作るか
顔を洗う時同様に冷たい水で手を洗い、炊飯器をセットして米を炊く
同時に焼き機に鮭の切り身をセットして焼き始める
味噌汁は作り始めるのはもう少し後でいいな
たしか、文也と初めて出会ったのは俺らがまだMurder birdに所属していて、鳥の名前を名乗っていたころだった
あの頃はダブルアサインメントのシステムが導入され始めた辺りで、使命感に溺れかけていた俺が、唐突にバディを組まされた相手が先輩の殺し屋である当時の文也ーカイトさんだった
「君がアウル君だね。よろしく」
当時の俺のコードネームは梟─アウルだったからもちろん皆にそう呼ばれていた
だからそう言われた時、俺がどこか固い表情をしていたのは別にその呼び方に違和感があったからとかじゃない
ただ、今まで仕事は一人でやっていたから、たとえ自分よりも先輩で腕のいい人と組むことになったとしてもいまいち上手くやっていけるか自信がなかった
そもそも当時の俺は
失敗できない。期待に応えなければならない
やらなきゃ、絶対に成功させなければ。
そんな使命感に溺れていた
そもそもこんな世界に身を置いていたら段々と消耗しておかしくなって行くのは珍しくない事だと思う
殺し屋としてままならず、そうしておかしくなったやつは死ぬか、はたまた感情のない殺人ロボットとなるか
俺もそうやって沈んでいく一人だったかも知れない
任務が成功すれば腕のいい殺し屋だとか箔がつく
それが積み重なって凄腕と言われ、大きな任務を任されるようになる
その度にほの暗い期待を向けられて
向けられる期待は大きくなっていく
そして、この期待に背いたときどうなるか分からない
失望されて、体を売り飛ばされるか、いや···殺されるか
期待が大きいほどハイリスクハイリターンで
そんな期待が俺は恐ろしかった
そんな中で出会った彼、カイトさんは溺れていた俺にちゃんとした泳ぎ方を教えてくれた
カイト─日本語で言うトンビの名前を持った当時の文也は今と何ら変わらないようでいて全くの別人だった
常ににこにこと信用ならない笑みを浮かべたカイトさんは人当たりもよく穏やかだったが、その実いつも瞳に深淵が覗いていて、口の端が優雅に上がっただけの、決して本当の表情が見えない冷たい仮面のようだった
実際、当時のカイトさんは誰の事も信用なんてしていなくて、仮面を被っていたように思う
しかしそんな普段の仮面は戦闘時には外れていた
そこには美しくも鋭い強さがあった
飛ぶように宙を舞って鋭い一撃がターゲットに突き刺さる
そして寸分の狂いもない射撃
無駄の削ぎ落とされた美しい体術と射撃技術は、まさに鳶という名にふさわしいと思った
底が見えない深淵の瞳に興奮の色を浮かべ、普段上品に微笑んでいる口元は、下品に口を開けて豪快に口角を上げて、戦闘を楽しんでいた
その様子にさながら戦闘狂のようだと思ったし、ネジが飛んでると思ったけど、生き生きとして美しいその姿に圧倒されていた
俺はその動きをいつまでも見ていたかった
だけど優秀な彼がターゲットを始末するのにいくらもかかる訳もなくて、すぐに終わってしまった
でもだからこそ、俺はあの一瞬でたしかに彼に心奪われていた
だから、何回か二人で任務をこなしていって、つい口から零れ出た不安
言うつもりのなかった本音が口をついて出た
しかしそれに対するカイトさんの返事が、思いがけず俺を救う結果になった
「腕は確かなんだから思いきってやっちゃいなよ」
「へ?」
俺の不安に対してだいぶ大雑把に聞こえたその返事に思わず気の抜けた声が出た
彼はそれが面白かったのか吹き出す
「ふはっ、あははっ···だって君、失敗して殺されるのが怖いんじゃないでしょ。期待に背いて失望されるのが嫌なんでしょ。君の腕なら期待に応えられる。向いてるよこの仕事。くくっ」
俺に対してカイトさんは素で笑っていたように思う
俺が真剣に悩んでたのにそれがおかしくて笑われるなんて不本意でもあったけどこれがきっかけで俺に心を許してくれるようになったのなら笑われた甲斐があったということにする
「君は大丈夫だよ。俺が責任とってあげるから気ぃ抜いてやりな」
そう言ってくれたたカイトさんは普段のどこか冷えた笑顔とは少し違った笑みを浮かべていた
その言葉に、その笑顔に俺は救われた
俺が溺れる原因の苦しい重りを取って貰ったんだ
でもそれで、泣きたいなんて思ってないのに思いがけず涙が滲んできて
じわじわと視界が歪んできて、涙が零れそうになってうつむいた
すると唐突に顎を掴まれ上を向かされた
気づけば目尻に彼の唇が当たっていて、キスをされたと自覚したのは頭をくしゃくしゃと撫でられた時だった
その後は見たことも無いくらい柔らかく微笑まれて、それにわけわかんない位心臓が鳴ってて
結局キスの真意は聞けなかった
実は今でも聞けてない
「おはよー氷雨」
文也が起きてきて俺に抱きついてきたことで過去の出来事に飛ばしていた意識を現在に引き戻された
今の文也は〈カイトさん〉の頃に比べてだいぶ角が取れて丸く柔らかくなったと思う
いい感じに大人になったからなのか、それとも俺が何か影響を与えたのか
後者だったらまあ···少し嬉しいかもしれない
「なーに笑ってんの?」
そう考えていたら表情に出ていたらしく文也に顔を覗き込まれる
「いや、別に···性格丸くなったなーと思って」
何となくばつが悪くて目をそらしてそう言うと文也は唐突な俺の発言に破顔した
「ふはっ···俺が?まあ確かにそーかもね(笑)」
「ちょっと昔のこと考えてたからなんか思ったんだよ」
俺がそう言い訳をすると文也はなるほどねーと頷く
せっかくだからあれもきいてみるかな
いい機会だし
「なあ文也。初期の頃に俺が文也に悩み相談みたいなのした時のこと覚えてる?期待が怖いみたいなの」
その質問に文也は少し考える素振りをしてから思い出したように頷いた
「えーと···あぁ!あれね。覚えてるよ。ほんとに結構最初の時だね」
文也の返事におれは無言で頷く
「そんときさ、文也、俺にキスしたよな。頬の辺り。あれなんで?」
「え?···あっ!あれ!?」
文也は全く予想していなかった質問だったらしく驚いて目を丸くしていた
「そう、あれ」
文也は長めに思案していたようだったがパッと顔を上げて口を開く
「あー···忘れちゃった。」
「なんだよ」
「ふふ。ごめーんね」
たいして申し訳なさそうな素振りもなくそう言った文也に俺もなんかしらけてしまった
だから洗面所に顔を洗いに言った文也を尻目に俺は味噌汁の準備を始めた
〈文也sid〉
冷たい水で顔を洗ってばっちり目が覚めてからさっき氷雨に聞かれたことを思い出す
たしかあの時は相談聞いて、素直なのにぶっ飛んでるなって思ったんだよね
それで、面白いなこの子、可愛いなって
そう思ってたら彼、急に泣き出しちゃったからびっくりしちゃって思わず···ね
涙目のまま何されたか分かってないみたいなきょとんとした表情でさ
そのあと無自覚かもしれないけどほっぺた赤くしてて可愛かったな
それで、もうずっきゅん
好きになっちゃったんだよね
···とまあこんな感じだけど、『思わず』とか恥ずかしいから氷雨には教えてあーげない!