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土砂降りの雨
高級マンションの豪奢なエントランス前で、エリカは泥だらけの膝をついていた。
さっきまで「勝ち組の象徴」だったブランドもののワンピースは
雨に打たれて張り付き、剥がれかけたつけまつげが、彼女の形相を一層醜く見せている。
「美波!開けてよ、美波!!」
エリカは狂ったようにインターホンを連打する。
「あんたしかいないのよ、助けてくれるのは!旦那が、あいつが本気で離婚するって……慰謝料まで請求するって言ってるの!お願い、開けて!」
だが、返ってきたのは、スピーカー越しの冷淡な声だった。
『……あの、不審な方がいらっしゃるんですけど。ええ、警察ですか?すぐにお願いします。怖くて外に出られなくて』
美波の声だ。
そこには、10年間守り続けてきた「親友」への情など、欠片もなかった。
「美波……? 冗談でしょ…?私たち、ずっと一緒だったじゃない!あんたのパパ活を隠してあげたのは誰だと思ってるのよ!」
エリカの叫びは、虚しく雨音にかき消される。
その時、激しい雨を裂いて、一本の黒い傘が彼女の頭上に差された。
顔を上げたエリカの目に映ったのは、私だった。
無表情で、傘を差す私。
「……栞?なんで…あんた、私を笑いに来たの?無能のくせに、私を……っ!」
エリカが掴みかかろうとした瞬間
私は黙ってスマートフォンの画面を彼女の目の前に突き出した。
そこに表示されていたのは、一通のメールのスクリーンショット。
送信者は美波のプライベートアドレス。
宛先は、エリカの夫。
内容は——エリカの学歴詐称を裏付ける資料と
彼女がいかに夫の財産を狙っているかを誹謗中傷する告発文。
もちろん、これは私が『パンドラ』と協力して作成した偽造データだ。
だが、今の絶望に陥ったエリカに、それを見分ける冷静さなどない。
「嘘…っ、美波が、私を…売ったの……?」
エリカの瞳から、光が消える。
美波にとって、エリカはもはや
「弱みを握られた、切り捨てるべき荷物」に過ぎなかった。
それを証明されたエリカの顔が、怒りと絶望でどろりと溶けていく。
私は、ホワイトボードにゆっくりと文字を書いた。
『エリカさん。私と一緒に、美波さんを“終わらせ”ませんか?』
エリカは、私の顔をじっと見つめた。
10年前、彼女が私の喉を焼き、笑いながらゴミを投げつけた時の、あの優越感に満ちた目はどこにもない。
あるのは、自分を裏切った「女王」への、底なしの殺意だけ。
「……ええ。やってやるわ。あの女だけは、道連れにしてやる」
エリカが私の差し出した手を取る。
その瞬間、私のスマホに『パンドラ』からの通知。
【契約更新】
協力者:エリカ。
ミッション:美波の「不倫現場」への突撃。
あなたの仇を殺す武器を、彼女に与えなさい。
暗闇の中で、私とエリカの影が重なる。
マンションの見上げれば、最上階の明かり。
そこでは美波が、何も知らずにワインでも飲んでいるのだろうか。
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
私はエリカを連れて、暗い路地裏へと姿を消した。
深冬芽以