テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いわだての空気に、ラウールが“違和感”を感じたのは、夏前のスタジオリハのこと。
宮舘が岩本に何かを言いかけて、やめた瞬間。
岩本が宮舘の腰に触れかけて、何気なくスッと手を引いた瞬間。
(え……?今の……)
胸がざわつく。
けど、それを“気のせい”で片づけられないくらい、2人の空気は、薄いのに熱を孕んでいた。
それからラウールは、こっそり探るように動き出す。
⸻
まず、深澤に聞いた。
「最近、舘さんと岩本くん、変じゃない? なんか……近いのに遠いっていうか」
「え〜?考えすぎでしょ?いつも通りだよ」
あっさり、笑って流された。
でも、ラウールは深澤の目が一瞬だけ泳いだのを見ていた。
(嘘ついてる……?)
⸻
次は渡辺。
雑誌の合間、そっと話しかけてみる。
「舘さんと岩本くん、……なんかあったのかなって」
「いや、ねーし。
そういうの、気にしない方がいいよ?考えても疲れるだけだし」
それは、完全な“拒否”だった。
(……話したくないんだ)
⸻
最後に、目黒。
「あのさ、めめ。俺、ちょっと気になることがあって」
「あ〜ラウ……」
ラウールが話し始める前に、目黒は優しく笑った。
「今はそういうの、気にしないでいいと思うよ。ラウはラウのことで、いっぱいだろ?」
(……“子ども”扱いか)
⸻
「佐久間くーん、ちょっといい?」
収録終わり。
ラウールが、珍しく小さな声で佐久間を呼び止めた。
他のメンバーは着替えに行った後。スタジオのすみに2人きり。
「んー? なにー?」
佐久間は笑顔を作る。でもラウールは、真顔だった。
「……なんかさ、最近、舘さんと岩本くん、ちょっと変じゃない?」
佐久間の笑みが、ほんの一瞬、止まった。
「変って?」
「わかんない。別に仲悪いわけじゃないし、喧嘩してる感じもしない。
でも……なんか、前より“よそよそしい”のに、“近すぎる”時もあって、よく分かんない」
言葉を探すように、ラウールは視線を彷徨わせる。
「で、佐久間くんも……なんか知ってる顔してるなって思って」
⸻
佐久間は、少し黙ってから、苦笑した。
「ラウールってほんと、よく見てるよね。こわ」
「……俺に、なにか知ってるって思われるの、そんなに怖いこと?」
その言い方が、少しだけ刺さった。
佐久間は椅子に深く座り直して、軽くため息をついた。
「ラウ、さ。知りたいと思う? それとも、“知らないまま”がいい?」
ラウールは黙った。
少しの間、スタジオの蛍光灯の音だけが響いていた。
「俺、舘さんのこと、すごく好きだし、岩本くんのことも尊敬してる。ただ……この間、岩本くんが舘さんに“今夜はなしにしよう”って言ってたの、たまたま聞いちゃって」
佐久間の目が少しだけ見開かれた。
「それだけじゃ何も分かんないけど、なんか……あの空気が、怖かった」
怖い。
それは、ラウールが口にするには少し大人すぎる感情だった。
「2人とも、笑ってるのに、目が笑ってなかった」
⸻
佐久間は、ラウールの肩をポンと叩いた。
「ラウ。大丈夫だよ。2人とも、大人だから。
……ちょっと、大人の距離の取り方してるだけ。気にしすぎ」
「でも、俺……」
「ラウはさ、そういう優しさをちゃんと持ってるから、
無理に近づかないで、ただ見守ってくれるだけでいいよ。
きっと、2人が一番それを望んでるから」
ラウールは、ゆっくり頷いた。
「……うん。わかった。……でも、俺、もうちょっと大人になりたいな」
「じゅーぶん大人だよ、お前は。
大人でも、“知らないでいられる強さ”を持ってるやつ、なかなかいないから」
⸻
その後、ラウールは何も言わず、
でも以前よりもそっと2人に気を配るようになった。
目を合わせるタイミング、何気ない言葉。
全部を受け止めようとしない。
でも、**大事にしようとする“距離感”**が、そこにあった。
それは、彼なりの優しさで、
そして2人を壊さないための静かな見守りだった。