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歓迎会は夜遅くまで続き、笑い声や乾杯の声が響いていた。
新しいバイトの学生たちもすっかり打ち解け、店全体が一つのチームとして活気を取り戻していた。
そんな中、女性たちだけタクシーで送るという女性店長の提案で解散することになった。
「守さん、途中まで一緒に帰りましょう」と天城が声をかけてきた。
守は軽く頷いて「…ああ」と言いながら、二人は静かに夜道を歩き始めた。
「田中さんと何かあったんですか?」突然の質問に、守の心臓が大きく跳ねた。
「な、何もないよ」と顔を逸らしながら答えたものの、その態度が逆に不自然だ。
天城は守の様子をじっと見て、「なんか途中から様子が変だった気がして」と言いながら、
彼を覗き込むように笑みを浮かべた。
「田中さん、酔っぱらってたんじゃないかな」と、守はごまかすように言ったが、
顔が熱くなるのが自分でも分かった。
「なーんか隠してません?」天城はさらに問いかけたが、守は顔を赤くしながら
「か、隠してないよ」と答えた。二人の間に少し気まずい沈黙が流れた。
守は照れ隠しのように「ああ、オレも酔っぱらってるのかな」と言い、額に手を当てた。
天城はその様子を見て、笑顔で「ちょっと待っててください。水、買ってきますから」と言い残し
近くのコンビニへ駆けて行った。
守は一人、ベンチに腰掛け、ふと今日の出来事を思い返す。
田中さんが店長に脅されていたこと、そして彼女の涙。そのすべてが脳裏を巡り、
重苦しい気持ちが再び心に押し寄せた。
「まさか、天城くんに言えるわけないよな」と呟いた瞬間、天城が水を手に戻ってきた。
「お待たせしました」と言って、天城はペットボトルの蓋を少し緩めて、守に手渡した。
守はその気遣いに驚きつつ、手を伸ばして水を受け取る。
「君は本当に気がきく青年だな」と守はふと感心しながら言った。
「そうですか?」天城は軽く首をかしげる。
「本当に、ルックスも良くて、性格もいいし。おまけにさりげない優しさで、みんなメロメロさ」
天城は笑いながら、「メロメロって…」と照れくさそうに返す。
「君だったら紗良ちゃんとお似合いだ。もう、他の誰でもなく、君であってほしいよ」
天城はその言葉に驚いたように目を丸くした。
「紗良?何言ってるんですか、僕たちそんな関係じゃないですよ」
「まだ付き合ってないの?」守は意外そうに問い返す。
「いやいや、僕は他に好きな人がいるんで」と天城は軽く笑った。
その言葉に、守は驚いて「そうなの!?」と、興味津々に聞き返す。
天城は少し笑みを浮かべながら、遠くを見つめるように答えた。
「はい。でもその人、他に好きな人がいるんです。今のところは脈なしかな」
「天城くんに振り向かない女子がいるとは…」守は驚きと共に呟いた。
「本命にはフラれるんですよ」と、天城は苦笑する。
その一言に、43年間彼女がいない守は不思議な親近感を覚えた。
どこか天城が、ただのイケメンで完璧な存在ではないと感じて、少しホッとする自分がいた。
夜風が少し肌寒くなり、静かな公園の中、「守さん、紗良とはどうなんですか?」
守は一瞬驚いたが、すぐに笑って答えた。
「はは、どうって…何もないよ。20歳以上も年が離れてるんだ。無理に決まってるだろう?」
天城は軽く首を振り、「年の差なんて関係ないでしょ」とあっさり返す。
「いやいや、オレみたいなおじさんと、紗良ちゃんが釣り合うわけないだろう。
わかってるんだ、でもそれでいいんだ。彼女の笑顔が見れれば、それだけで十分だよ」と、守は微笑んで続けた。
「そうなんですか…」天城は少し考え込むような表情を浮かべた。
守は冗談交じりに、「まあ、紗良ちゃんの一番のファンといったところかな」と笑った。
そのまましばらく沈黙が続いたが、天城がふと問いかけた。
「守さん、今まで彼女とかいなかったんですか?」
「な、なんだ急に?」守は戸惑ったように答える。
「だって、好きだったら気持ちを伝えたいって思うでしょ?」天城の真っ直ぐな問いに、
守は少し言葉を詰まらせた。
「それは、そうなんだけど…」
天城はそのまま追い詰めるように言葉を重ねた。
「守さん、もしかして…いつも自分には似合わないとか、
自分はダメだって思って、諦めてきたんじゃないですか?」
その言葉が守の心に突き刺さった。まるで天城が、
守の人生をすべて見透かしているかのように感じた。43年間、
守は誰とも深く関わらず、感情を抑え込み、自分を守るように生きてきた。
何かに挑戦することもなく、無関心に過ごしてきた自分。そう、ずっと。
「ひょっとして…童貞?」天城の突然の質問に、
守は反射的に「そ、そんなわけないだろう!」と嘘をついた。
天城は笑いをこらえながら、「ふふっ、じゃあ何人とsexしました?」とさらに問い詰める。
守は焦りながら、思わず大嘘をついた。「な、何人って…20人だよ!」
天城はあっさりと、「童貞っぽい」と微笑んだ。
「なんで!?どうしてそうなるんだよ!」守は焦りながら顔を赤くする。
天城は冷静に言った。「嘘つけないんだから、無理しないの。」
守は俯きながら「う、嘘じゃないし」
天城は守の様子を見ながら言った「守さん、キスしたこと…ある?」
守は思わずムキになり、「あるに決まってるだろう!」と叫び、天城を見た。
その瞬間だった。天城が守に近づき、ふいに唇を重ねた。守は心臓が止まったように感じた
頭が真っ白になり、状況がまったく理解できない。
(な、なにが起こってるんだ!?どうして天城くんがオレにキスを…?)
オロオロする守に構わず、天城はさらに深く、守の頭を引き寄せ、情熱的なキスを続けた。
守は混乱し、全身が熱くなるのを感じた。心臓は早鐘のように鼓動を打ち、頭の中はパニックに陥っていた。
やがて、天城はゆっくりと唇を離し、守の額に汗が浮かんでいるのに気づいた。
「守さん、すごい汗…」
「ご、ごめん…」と守は反射的に謝ったが、
すぐに(ん?なんでオレが謝るんだ?)と思った。
天城は軽くベンチから立ち上がり、柔らかな笑みを浮かべ
「守さんのファーストキス、奪っちゃいましたね」
守は唖然としたまま、何も言えなかった。まるで夢を見ているかのような気分だった。
「じゃあ、ボクはこっちの方角なんで、先に帰りますね。また店で」と軽く手を振り、
天城はそのまま去っていった。
守はただその場に取り残され、夜空を見上げて深いため息をついた。
(今、何が起きたんだ…?)
彼の心の中で、何かが大きく変わり始めた瞬間だった。