テラーノベル
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サビ組を出ると冷たい夜風に頰を撫でられる
「姉さんも気をつけてよー?アチャモに寝ぼけて首に噛み付かれるなんてさ」
『あはは〜、ほんとびっくりだよね〜』
〖ヂャモォ…〗
アチャモの恨めしげな鳴き声に、シオンはくすっと笑った。
あれから体調が回復するまで二日かかった。
その間、部屋を訪れたのはアザミだけ
アザミのことだ。首のキスマークなんか見ればカラスバを殺しかねない。
だからアザミが来るたび毛布にくるまって首を隠し、なんとかやり過ごした。
今は「アチャモが噛み付いた」と言って包帯を巻き、タートルネックの服でそれを覆っている。
おかげで、アザミには疑われていないようだ。
「ほんと一人で帰れる?」
『大丈夫だから!それより、エムリットよろしくね』
〖きゃううんっ〗
エムリットはアザミの周りをクルクルと飛び回る。
てっきり一緒に帰ると思っていたのに、頑なにサビ組に残ると言い張るエムリットを不思議に思いながらもシオンは微笑む。
サビ組なら警備は万全だし、何より人見知りのエムリットがアザミにここまで懐いているのは珍しい。
アザミなら、強いし、安心だ。
『…カラスバさんには、無理しないでって伝えておいて』
そう言い残し、シオンは事務所を後にした。
『2日も休んじゃったし、店長達に何かお詫びの買っとかないと……』
〖チャモ!〗
スマホで近くのケーキ屋を調べていると、後ろから明るい声が響いた。
「シオンちゃ〜ん!!」
振り返ると、アンヴィが手を振りながら近づいてくる。
『あれ、アンヴィ?』
「体調大丈夫?」
『え? なんでそれ知ってるの?』
「だって倒れかけたの助けたの僕だし〜!
ま、途中でカラスバさん?だっけ、シオンちゃんの彼氏が迎えに来て渡したけどー」
その言葉に、シオンの瞳が見開かれた。
『そうなんだ…ごめん、迷惑かけて…』
「いいんだよー!それよりさ、あの人が彼氏ってホント?」
『うん、少し怖いけど優しい人なんだよ』
笑うシオンにアンヴィは眉を下げ、少し心配そうに彼女を見つめた。
「でも、サビ組のボスなんでしょ?ちょっと街で聞いてさ、あまり良くないって……」
『確かに少し怖いけど、本当はいい人なんだよ!
ミアレを1番に思って動いてる、本当に優しい人でね───』
「違う違う、そうじゃなくて……最近女の人と歩いてるとこを見たって聞いて」
『───え?』
笑顔が、ひくついた。
心臓が、嫌な音を立てる。
「その……さ、僕まだシオンちゃんと会って全然だけど、やっぱ大切な妹なのは変わりないから……心配なんだ」
アンヴィに手を握られ、心配そうな瞳で見つめられる。
でもそんな声など耳に入らない。ただ、胸の奥で何かがざわついていた。
『(カラスバさんが?あのカラスバさんが?そんな事する訳ない。だって私が倒れてから3年も待ってくれた一途な人だもの)』
でも、どうしてこんなに不安が拭えないのだろう。今までなら、「そんなことない」って即座に思えたのに。
帰ってこない夜も、もしかして……?
自分がキスマークをつけたことを認めなかったのも、バレたらややこしいから?
異次元ミアレの調査で忙しいと言ってるけど、本当はその人の家に……
「シオンちゃん?大丈夫…?」
『……ない』
「え?」
『しない。カラスバさんはそんな事しないから』
アンヴィの瞳が見開かれる。
まるで自分に言い聞かせるような言葉に光の宿ってない真っ暗な瞳
そんなシオンに対し、アンヴィは心配そうに眉を下げる
「でも相手はそういう組織の人で……そういう人は愛人の数人くらい───」
───バシンッ!!
『カラスバさんの事何も知らないくせに、勝手なこと言わないで!!』
握られた手を強く振り払う。
シオンの声は震えていた。
アンヴィは驚いたように目を見開き、傷ついたように瞳を揺らす。
「ち、ちがっ……!嫌な思いさせてごめん…ただ心配で……」
『実際見ないと分からないじゃない。憶測だけで語るなんてダメでしょ、お兄ちゃん』
「っ……ごめん……」
アンヴィの謝罪に、シオンは小さくため息を吐いた。
『カラスバさんはそんな薄情な人じゃないから。カラスバさんを悪く言わないで』
それだけ言い捨て、シオンはその場を去った。
取り残されたアンヴィは、悲しそうな顔をしたかと思うと、口元を片手で抑え、下を向いて……
──笑った。
「………っ、ふ……あははっ! くくっ……」
あの様子じゃ、かなり信用してるんだろうなぁ〜……
でも、あの様子じゃ、勝手に自爆してくれるのも時間の問題かな。
殺し屋として育てられた俺達は、ポーカーフェイスくらいは完璧に出来るように作られている。
それなのに、あれじゃポーカーフェイスのポの字もない。
酷く動揺しているのが、見て取れる。
〖ひくっ……おとうさんは優しいって……えほんにもかいてたのにっ……!〗
〖(そりゃそうでしょ、それは絵本のお父さんでシオンちゃんのお父さんじゃないから)〗
「ほんと昔から何一つ変わってない。馬鹿でどうしようもなく可愛い……女の子」
アンヴィは煙草を取り出し、火を点けた。
甘い煙を吐きながら、鼻歌混じりに近くの路地裏へ消えていった。
夜のミアレに、静かな予感が広がっていく。
コメント
4件
通知来なくて見るの遅れましたぁぁぁぁぁあ!!!!アンヴィてめぇっ!
久しぶりの投稿ありがとうございます!アンヴィがなんか屑だなと思いました!?