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「この子を天使軍に。」
今日の『派遣天使』が決まった。
神父様はボクを選んだ。
真紅の紅玉の瞳に、ふわふわとした純白のツインテールにまつ毛。
何よりも目を引くのは、螺鈿細工を施した様にてらてらと輝く虹と金でできた翼。
そんなボクに、宝石の神様の願いと力がこもったサーベルが渡される。
正直嬉しかった。
でも、その幸せも崩れ去ることを、ボクはまだ知らない。
「ジャニス、起きろ」
師匠のタエレさんの声。
優しくも棘のあるボーイアルト。
そんな声で起きて、朝食を食べて。
あとはひたすら訓練と勉強の繰り返し。
サーベルを一振りするだけで木を7本も倒したのに、師匠は「まだまだ」という。
認めてもらえない。信じてもらえない。そうなるくらいならくたばるまで修行して最高級まで登り詰めてやる。
そんな歪んだ覚悟だけで1ヶ月修行して。 血反吐を吐くくらいノートにサーベルのトレーニング法を写しまくって。
ボクは優等生として、悪魔狩り、邪神狩りに行けるようになっていた。
まだ12歳だった。
初めての悪魔狩りは子供を狩るだけだった。
「ごめんなさい、助けて」と涙をボロボロ流しながらボクに縋る姿は、誰が見ても無様だった。
一抹の後悔と共に、幼稚園らしき所にいた園児を一発で切り裂く。
悲鳴も上がらずに首がぽとり、ぽとりと落ちてゆく。
その日はご馳走だった。
次も小さな町娘たちの討伐。 その次は老婆、老父。 段々強くなっていき、今ボクは魔女やちょっとした邪神を倒していた。
邪神が呻き声をあげて倒れる最中に、任務が妖精から囁かれた。
“最狂の邪神…オフィーリアを倒しなさい”
最狂、か。
仲間と共に向かうらしい。
面白いではないか。受けてたとう。
出発当日。
特設の雲の上のキャンプで、交流会なるものをした。
準備で何のとは言わないが肉を焼き、金剛石を溶かした酒をショットグラスに注ぐ。
美しい天使がふわりと降りてくる。
1人目はシエルといった。
大きな純金製のハンマーで敵を叩き潰し、討伐が終わると必ず「ごめんね」と慈善の瞳でその死骸を見つめている。
2人目はポラリス、という名前らしい。(偽名ということが明らかになっているが、本名は不明だ。)
怪しい笑みで鎌を1振りすると、命だけ吸い取られる。これじゃまるで死神だが、回復魔法もお手のものなので赦されている。
「わ、私はシエルって言いますっ…!えぇと、ハンマー?使いです!す、好きなものはピー(グロすぎる為自主規制)ですっ!」
そう言ってはにかむ。可愛らしいがサイコすぎないか???
「えぇ〜ワタクシにも自己紹介させてくださいヨ〜♪」
柔らかい渋いバリトン。酔う様な綺麗な声。
それなのに見た目はまるで怪しい。うん。完全に変人だ。
そうして可笑しな仲間二人を連れて、邪神オフィーリアの住処…闇黒奈落へ向かった。
人骨や天使の骨がごろごろ転がる穴を滑り落ちて…。
そして。
ピエロの様な邪神がひらりと現れる。
帽子から付け鼻を取り出して一押し。
「「「バコォォォォン‼︎」」」
地面が割れてたくさんのびっくり箱が出てくる。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!ごめんね〜!」と言いながら力業でびっくり箱を破壊するシエル。
その姿は破壊神。視線はずっと彼女の方へ向いていた。
「早く動かないと貴方もやられちゃいますヨ?」
今度はしっとりとした渋いバリトン。ポラリスか。
鎌を縦横に大きく振り、バサリと残りのびっくり箱を抹消する。
次はボクだ。
大きく飛び立って無駄のない動きで正確に邪神の『核』を突く。
すぐさま苦痛を味わうことなく邪神は崩れていく。
香りを振り撒いて錯乱させる魔女も、武器を無限に出す悪魔も気づけばいなくなる。
ゴツい悪魔を簡単に薙ぎ払い、邪神を頭上から叩き潰して、鎌を優雅に振り回しながら回廊を歩く。
そんな時。
ぷきゅっと小さな音に振り向いた矢先…。
シエルの胸が、ハート型に抉られていた。
シエルはなにも喋らなかった。
立ったままで血を吐いて死んだ。
「シエル!」
「…。」
まだ出会って数日だ。こんなにも早く死ぬなんて。この世界はとち狂っている。
この子の最期の言葉は「ありがとう」だった。喉がカラカラの時に泉の聖水を飲ませたのだ。
でも、そんな感謝と慈悲の心を持つ彼女も今、キシキシという音を立てて
ガラガラと石膏の像の様に崩れていく。
何でなんだよ。加護はつかないのかよ。そんなことが頭の中を渦巻いていると…。
ズズズと何かが這い出る様な音がする。
「ーんのswぞsjくぉあj」
謎の言語が耳に鈍く響く。
「は…?」
そこには天使や悪魔、人間がドロドロに混ざり合ってできた『何か』がいた。
そしてそれに使われている人物は全て仮面をかぶっていて。
身体中にヒビを走らせながら…
首に縄を巻いたりナイフだった物で手首を切り裂きながら静止し「ギギギ…」と不気味な音を立てていた。
「…っ」
紅玉の眼を光らせて、サーベルを片手に暗黒に一筋の光を作る。
不死鳥の様に大きく羽ばたいて『核』を視る。
怒りと勇気と少しの歪んだ愛情を瞳に孕ませて…
ザシュッ、と音を立てて切り裂く。
「jふぇvじょうんkjzwq」
謎の声と共に、消えるかと思いきや剥き出しの核が再生する。
そして音もせず真っ黒な顔面の少女や頭の原型がないおじさん、骸骨の様に固まった表情をしたカラクリの兵士。
弾指の間に真っ黒な顔の少女…元シエルが襲いかかる。
頭の形がないおじさんは、自分の肉片を鋼に変えて投げつけてくる。
ふと、何かが頬を掠った。
皮膚がスパッと斬れる。
頬が緋く染まる。
純白のジャケットとかぼちゃパンツもたらたらと溢れ続ける血に緋く染まっていく。
ハンマーを其処彼処に叩きつけられ、地面が迫り上がってくる。ボクの逃げ場はもうない。
こんなの見たことない。どうしよう…
「ワタクシの見せ場を取らないでくださいヨ」
あのニヤニヤ笑いも、今は消えて精悍な青年の貌になっている。
星型に切り裂いて、核をバラバラにする。
ああ、ボクの勘違いだ。
動ける。いや、動く。
虚空で大きく一回転して、優しく強く哀しく刺す。
「ッっっおdwぢなjwqあああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアア」
ギィィィィィィィィィィ…
オフィーリアは金属に爪を立てて引っ掻くような気色悪い音を立てて消えた。
ついに…やった…!
「え?」
どうしてだ?なぜボクの後ろに殺めた筈のオフィーリアがいる?
ふとオフィーリアが言葉を話し始めた。
「君は僕の運命共同体。」
亡骸の軋む音とオフィーリアの気色悪い声が絡み合い、あの頃の心友の声が耳に優しく入っていく。
も、もしかして…
お前は、いじめで自殺した…
あぁ…悪かったよ。 俺があの時助けていれば…。くそっ、くそ…!
「もう僕はあんな莫迦共とは違うんだ」
「君もその莫迦と同じ、僕のナイトでありお気に入りの道化師だ」
「あ、あああ…そんな…ボクは、ボクは君を助けたいのに…。」
「キミガボクノモノニナルダケデ,ボクハスクワレルヨ」
歪み始める心友の声。モノクロになっていくボクの視界。
ボクはただ、みんなに愛して欲しかっただけなのに…。
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
その言葉を皮切りに、ボクは殺戮兵器…骸の天使となった。
本当に、ごめんなさい…。
ほんとうに、ごめんなさい…。
hjおnとうn゛いごmr?n7sfxf!なさイ…。
死ニ、ナサイ…
「42731」
「ジャニスサン…?」
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