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錆の都送り

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錆の都送り

100 - 最終話 この世界にただ祝福を

2024年12月01日

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鋼谷は立っていた。裂け目が開いた瞬間から、全身が引き寄せられるように感じていた。それは、単なる次元の裂け目ではない。世界そのものを歪める力、現実と非現実、過去と未来が交錯する地点。それは、あらゆるものが崩壊し、再構築される場所だった。

鋼谷の目の前には、数多の戦いを共にした仲間たち、そして、彼を支えてくれた人々の姿がぼんやりと浮かぶ。それらは、どれもが消え去り、戻らない過去のように感じられた。しかし、同時に彼はそれを繋ぎ止める力を持っていることを感じていた。

「これが、僕の選択か…」

鋼谷は静かに呟く。その視線の先には、深い闇のような裂け目が広がり、目を凝らしてもその先には何も見えなかった。だが、確かにそこには、未来があるという確信があった。

裂け目の奥から、見知らぬ声が聞こえてきた。鋼谷の耳に届いたその声は、何も語らずにただ響く。それはまるで、無限の時間を超えた声のようで、彼の心に直接語りかけてくる。

「君は、世界をどうしたい?」

鋼谷はその声に向かって、深く息をついた。そして、答えた。

「ただ祝福を。」

彼の言葉は、世界全体に向けられた祈りのように響いた。それと同時に、裂け目から放たれた膨大なエネルギーが、鋼谷の体を包み込む。まるでその力が、世界全体を浸透していくように感じた。

鋼谷の異能が完全に覚醒する瞬間だった。数式干渉をも凌駕する力、過去の記憶を全て覆い隠すような新たな力が、彼の体に流れ込んだ。それは、彼がこれまで見てきたすべて、感じてきたすべてが一つに溶け合い、奇跡を生み出す力だった。

その時、鋼谷の周りに集まったすべての「存在」が見える。宿儺、五条悟、そして冥王、さらには数えきれない亡霊たち。全てが一度は崩壊した世界の産物だが、今、彼の前に立つことで新たな運命を織り成すことになる。

「お前が選んだのか?」

冥王が鋼谷を見つめて、問いかける。鋼谷はその目を直視し、力強く答える。

「そうだ。僕が選んだ。もう過去には縛られない。すべてを祝福する力を、この世界に。」

鋼谷は手を広げ、その掌から放たれる力は、まるで時空そのものを包み込むように広がっていく。彼の周りの空間が歪み、全ての存在がその力に飲み込まれる。

「すべてを――ただ、祝福する。」

次の瞬間、全てが静寂に包まれた。裂け目は閉じ、空間は元の姿を取り戻す。しかし、そこにはもう以前の世界とは違う、新しい秩序が生まれていた。

鋼谷の力が過去の霊を、そして未来を未だ見ぬ希望の光に変え、世界を再生させた。彼の体から放たれた力は、すべてを一新し、全ての存在が新たな祝福を受けたように感じられる。

その後、鋼谷はその場所で静かに目を閉じた。

「これが、終わりでもあり、始まりでもある。」

彼の中で、世界を祝福する力が完結したことを感じた。自分自身が「過去の存在」として消え、無限の可能性を持った未来へと進む、その瞬間を迎えたのだ。

鋼谷が見守った新しい世界は、以前のように破壊と混沌に満ちたものではなく、平和と調和に包まれた世界だった。裂け目は閉じ、彼が放った力によって、すべての魂が安らぎ、再生された。

そして、鋼谷の姿は、どこにも見当たらない。ただ、かつて彼が望んだ「祝福」の力だけが、この世界を包み込み、前に進む力となっていた。

この世界に、ただ祝福を。

その言葉は、鋼谷が遺した大切なもの。それは、過去の痛みを癒し、未来に希望をもたらす、永遠に響き渡る祝福の言葉だった。


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