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研究と鳥とボウリング玉。

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研究と鳥とボウリング玉。

1 - 研究と鳥とボウリング玉。

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2025年03月21日

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あてんしょん

この作品は、やばい街の町長の飼い主、ボウリングと、やばいまじめ村のたまごさんの名前をお借りした二次創作作品になります。本人様方とは、関係ございません。

腐向けの意図はありませんので、ご了承ください。














わんくっしょん
















その子は、ある日突然研究室に運ばれてきた。

激しく暴れて、そこらかしこに羽根を落としていたのを鮮明に覚えている。

その時落ちたひとつの羽根はまだ持っている。艶やかで、鮮やかで、とても綺麗な羽根だ。

その羽根を見る度思い出す。

あの子がはじめて俺を見た時のことだ。彼はその当時、まだほんの子供だった。恐怖で食いしばった唇から血が滲んでいた。力の入った瞼から涙が溢れ出ていた。

唖然と彼が連れていかれる様を眺めていた俺に、彼は最後の望みをかけて助けてと何度も繰り返していた。

そのとき俺の足は、動かなかった。

そして、彼は無慈悲にも施設の奥へ連れていかれた。

それからというもの、彼の悲痛な叫びが施設中に響き渡った。

「助けて。痛いのは嫌だ。僕が何をしたって言うんだ。家に返して。」

その声がずっと耳にこびりついて離れなかった。

今も何度でもその光景を、声を、思い出す。その度に飛び起きては、彼の部屋の様子をそっと覗くのだ。

覗いた部屋の中から小さな寝息がする。

「ちーの……」

この部屋で静かに寝息を立てている彼こそが、俺が出会ったあの子。鳥人間だ。



鳥人間という名はなんとも絶妙に響きがダサい。この際獣人と呼ばせてもらう。

彼は、鳥の獣人一族の末裔だった。とても数が少ない鳥の獣人の中でもとびきり状態が良く、人間の体から翼が生えた個体はちーの以外に、まだ見付かっていない。そんな貴重な彼は、人間に狙われ、そして捕まりその体を研究され、実験され、蔑ろにされた。毎晩毎晩遅くまですすり泣く声に耐えかねて、俺は彼のいる檻の鍵を開けることにした。彼を、この施設から逃がしてやろうと、そう決めたのだ。

「もう大丈夫やで」

彼は、俺を見るなり酷く驚いた。

そして、その細っこい体を守るように翼で覆い隠し、小さく丸まってしまった。

「じ…ッ実験は嫌や!やりたくない…!!」

「違う。静かに。…大丈夫。俺は、お前を助けに来たんや」

先程まで俺に脅えて部屋の隅に小さくなっていた彼は、恐る恐ると言ったように翼から顔を覗かせ、じっと俺を見る。オレンジ色の綺麗な瞳だ。

「助けに…?でもあんたは人間やし俺を助ける意味ないやろ…アホなん?」「アホって…口悪いな。アホはお前や。こんな小さな子供が、体ボロボロにされて、毎日実験されとるんやで?可哀想やと思わん?俺は可哀想やと思ったからお前を助けに来たんや。」

「じゃあでも…!…助けるってどうやって…?」

「お前をここから連れ出してやる。」

俺がそういえば、彼は、目を見開いた。

「出れるん?」

「あぁ。俺はここの職員やから。道も知っとるし、鍵も持ってる。」

彼の小さな手にそっと触れ、振り払われないと確認してからそっと握ると、彼も握り返してくれた。

「怖かったやろ。もう大丈夫やで。俺と一緒に行こう」

彼は、しばらく悩んでから、勇気を出すように口をキュッと結んで、小さく頷いた。

そうして、実験施設を無事に出て、車に揺られた。助手席に座る彼は周りが気になって仕方ないようだ。やけにソワソワと落ち着きがない。

「どうしたん?」

「……ほんまに、ほんまのほんまに出れたんや。…なんか、変な感じ…」

そう言って、彼はふわりと笑った。

「そうか」と笑い返して、さらに車を走らせた。


「お前、帰る場所はあるんか?」

街頭に照らされて夜道を走る最中、ふとそんなことを聞いてみた。施設から出してやったは良いものの、普段住んでいる場所に返してやらないと可哀想だと考えたからだ。

「あるけど、道がわからん。ここがどこかも、俺が住んどった場所がどこかも分からんから…。」

俺の問いに彼は悲しそうにそう答えた。

「多分もう、故郷には帰れない…。」

彼はそう言って窓の外の風景を見るが、開発されきった街があるだけだ。

「そうか。なら、俺の家に来ぃや」

「え、ええの?」

「当たり前やろ。せっかく助けてやったんやから、野垂れ死になんて許さんよ」

「………ありがとう…」

こうして、俺は獣人のちーのと暮らしを共にすることになった。



その日から、どれだけだったのだろうか。もう何年も一緒に過ごしている。

彼のベッドに腰掛けて、その顔を覗き込んだ。

月明かりに照らされて見える彼は、怖いほどに美形だ。長いまつ毛と、薄い唇に、通った鼻筋、綺麗な涙袋。そしてその瞼に隠された三白眼。

美形で、さらに種族としても希少で、そのせいか、彼を狙う人間は後を絶たない。

「ちーの…」

その頬を少しばかり撫でると、彼は身じろぎをして、俺の手から逃れた。彼の頬からは、暖かな体温が感じられた。



________________

俺の人生は、ある一瞬を境に、変わってしまった。

「ヂーッッ!!!」

「卵ちゃん!!」

「見つけたぞ。鳥人間。」

「…え?」

友人が、人間に捕まってしまって、助けた時には俺の翼がガッチリと掴まれていた。

「はッ離せよ!!」

友人は、俺を助けようと必死になってくれたが、どうにもできなかった。

「卵ちゃんッ!お前は逃げるんや!逃げてこのことを誰かに知らせるんや!!」

「ぴ……ぴぃ〜!!」

俺の友人、卵ちゃんは、姿は全然違うけど一応俺と同じ鳥人間っていう種族。鳥の姿だけど、人間と同じくらいの知能があって、言語は違うけど俺たちは通じ合えた。そんな彼は、俺の言葉通り逃げた。

彼が飛び立つ姿を見届けると、直ぐに俺には目隠しがされた。



(腕も足も羽も、縛られてて動けない…ここは、どこなんや…?俺は今何されてんねや…?)

「大人しくしておけよ。もし暴れでもしたらその翼の1部を切って二度と飛べなくしてやる」

そう脅されて、俺はどうすることも出来なかった。そうして、どれほどの時間が経ったか。ようやく、目隠しと足や翼を縛っていた縄が解かれた。

そうして、俺は初めてトラックの荷台に乗せられていたことを知った。

「暴れるなよ。オラいくぞ」

俺はトラックの荷台から引きずり下ろされて、無理やり引っ張られて連れていかれたのはこの世の地獄……研究施設だった。当時の俺も、その禍々しい雰囲気を感じとったのか、これは抵抗しなければ不味いと感じて、暴れた。

「嫌や!行きたない!!離せよ!離せッッ!!助けて!!!」

そう叫んでも、誰も助けてくれなかった。暴れて抵抗しても、大人の力には勝てなくて、ずるずると引きずられて行った。

施設の廊下で、今まですれ違った人間とは表情が全く違う人間を見つけた。その人は、俺を困惑した瞳で見つめていた。その瞳を見て、この人なら助けてくれるかもしれないと思った。

「助けてッ!!助けてよぉ゛ッ!!」

必死で声を上げた。すると、その人間は俺の声に反応してこちらを見た。

「たすけ……ッ!助けてぇ゛ッッ!!」

俺は、必死に助けを求めた。でも、彼は少し手を伸ばしただけで、動かなくなってしまった。

「ど…どうして……ッ」

絶望を感じた。もう、無理だと、そう感じて…抵抗するのを辞めた。そうして俺は施設の一室に連れて行かれた。

そこからが、地獄の始まりだ。

一室に閉じ込められ、俺の生態を研究するとか言って様々な効果の怪しい薬を投与された。治験だと言って、体のあちこちを切開された。痛くて、苦しい日々。

「あ゛……ッ!うぁ゛ッッ!!」

毎日薬で頭がおかしくなりそうになった。体のあちこちが傷だらけで、痛くて堪らなかった。

もう、死んでしまいたい。死にたい。そう何度思ったことか。

でも、そんな時に彼は現れた。


「もう大丈夫やで」

ある日、研究員が俺の元を訪れた。俺はまた実験されるんだと思って、彼を拒絶した。それなのに彼は、俺を説得して、そして研究施設から連れ出してくれた。自分の住んでいたところが分からないと俺が言えば、彼は自身の家に俺を住まわせてくれた。

「薪はこう。こう割るんや。分かった?」

「わかりました!」

カン!と彼の真似をして薪を割った。

「上手いな!?さすがやでちーの!」

今では当たり前に思えることでも、出来たら彼はすごく褒めて、俺を撫でてくれた。それが嬉しくて、俺はすぐに彼に懐いた。

「ちーのは偉いな!……あ、でも、無理はしたらあかんで?」

彼はそう言って俺の頭を撫でてくれた。その優しい手つきが大好きだった。

「はい!」

彼はとてもいい人だった。いつも俺のことばかりを気にかけてくれたし、優しいし…だらしなくて、頼りないけれど、頼れる人。

俺の大事なもの。大切な家族だ。

俺は、本物の両親が分からない。俺が卵から孵ったときには、両親はもういなかったから。死んでしまったのか、俺を捨てたのか、それは分からないけれど、俺は同種族の人達に助けられながら一人で生きてきた。

そんな俺にできた初めての家族だった。何年も、ずっと俺を育ててくれた大切な人だ…。誰にも傷つけて欲しくない…。



「ちーの…」

夜中、目が覚めると、彼、鬱が俺のベッドに腰をかけていた。薄目を開けると、彼がこちらを覗き込もうとしている様子が見えたので、慌てて目を閉じて寝たフリをした。

鬱は、俺の頬をそっと撫でてきた。くすぐったくて、身じろげば、彼はそれ以上追ってくることは無かった。

「ちーのは、暖かいな…。……生きてるんやな。」

俺は眠っているフリをしているので、鬱がどんな表情でその言葉を発しているのかは知らないし、鬱の声色は落ち着いているから、その声から感情を読み取ることも出来なかった。

「ずっと、お前と二人で暮らしていたいな……。ちーのはどんな大人になるんやろう…」

けれど、これだけは分かる。鬱は今何か心が落ち込んでいるんだろうなと。そう思ったら、このまま寝ているフリなんて出来なかった。

「あ………。起こしてもうた?ごめん、そんなつもりじゃなかったんやけど…」

「ううん。ええんよ。それより、大先生…なんかあったん…?」

そう聞けば、彼は少し驚いたように目をパチリパチリと瞬いて、しばらく後に笑って俺を撫でながら首を振った。

「なんも無いよ」

嘘やと思った。俺の直感がそう言っていたし、鬱の声色は先程より低くなっていて、瞳は伏せ気味だ。

「俺に嘘は通じひんよ?何年一緒やと思ってんの?」

「あ、いや……」

「俺は、大先生が一人で抱え込んでるのは嫌や。どうしたん?」

俺がそう言えば彼は酷く焦ったように目を泳がせる。そして、俺を抱きしめて布団に潜った。

「どわ!」

「……すまん。ちょっと昔のこと思い出してもうた。」

「それで俺が心配になったん?」

「…………まぁ」

「……んは。鬱にもちょっとは子供っぽいとこあるんや。俺ばっかりやと思っとった。鬱にもあるんやな。そういうとこ」

俺がクスクスと笑えば、彼はむすっとしてこちらを見る。

「お前の方が断然ガキっぽいわ…」

「は?何言っとんのお前。精神的には俺の方が大人やろ」

「いや、肉体的にも精神的にも絶対俺」

そんなことを言いあってまた笑う。そうして鬱は俺の髪をいじりながら喋りかけてくる。

「ちーのは髪綺麗やね。……お前の目と同じ色…」

「そうなん?よく分からんけど…」

「うん。綺麗」

「ふーん……なんか、きもいな。鬱に容姿とか褒められんの」

「はァ!?人が褒めてやってんねやから素直に受け取っとけや!」

こうやって、鬱と話しているといつも心が暖かくなって安心する。

「鬱、元気になった?」

「ん?何が?」

「鬱元気なさそうやったから……」

俺がそう言うと、鬱は笑う。

「心配せんでも俺はいつも元気やで」

彼がそう言って、俺の頭を撫でてきたので、まぁいいかと俺も彼の胸に顔を埋めて目を瞑った。

「俺もう寝る。おやすみ」

「……うん。おやすみ」

そうしてまた眠りについた。俺の、たった1人の家族。大事な人。鬱の笑った顔を、ずっと見ていたい。



「今日は街に買い物に行こう!」

「おう!」

ある日の昼頃、俺と鬱は、いつも過ごす家を出た。俺たちの家は、森の中にぽつんと建っている。昔は、集合住宅の一室だったのだが、鬱の転勤とともに俺が子供の頃に居たような雰囲気のある場所にしようと鬱が提案して、ここへ引っ越したのだ。そして、森の一軒家であるこの家から街に行くには、少し歩かなければならない。遠いと言えば、遠いが、車を出す程の距離では無いのだ。

俺は背中の羽を隠すためのローブを手に持ち、鬱の隣に歩いた。

「いつどこに人攫いがおるかわからんし…ほんまは家から出たらすぐにローブ羽織って欲しいんやけど…」

鬱はそうやって小言を言ってくる。まあ、翼がないとローブで羽を押さえつけられる感覚の気持ち悪さは分からないだろうし、仕方ないのかもしれないが。

「ええやんええやん。人里近くに行ったらすぐ羽織るから!」

「うーん…」

それでも鬱は物言いたげな顔をしていたが、結局は承諾してくれた。

「何買う?とりあえず野菜と肉と〜…あ!そうだ。魚食べたい!魚!」

「ええやん。じゃあ今夜は魚の煮物でも作るか」

そうして、俺たちは街へ繰り出した。

鬱は、街の人達から好かれているようで、道ゆく人々が皆彼に声をかけてくる。それに鬱も笑顔で対応している。俺はそんな鬱の隣で、彼の服の裾を掴んでついて行った。

「鬱さん久しぶりだね!!ちーのくんも大きくなったねぇ!じゃがいもおまけでつけちゃうけどお野菜買っていくかい!?」

「あー。じゃあ買っちゃおうかな。これと…それをふたつと……あ、ちーのは何かいる?」

「んー、いや。俺は別に特別欲しいのあらへんからええよ」

「そっか。なら会計お願いしますわ!」

「はいはい!あ、ちょっと待っててね。じゃがいもと……あとそうね。レタスもおまけであげちゃう!」

「え、いいんですか!?こんなに!」

「いいっていいって!鬱さんはいつもお世話になってるからね!それにちーのくんにももっと大きくなって欲しいから!」

「ありがとうございます!」

八百屋だけじゃなく、肉屋…魚屋…全てで鬱はこのように店員さんと親しげで、たくさんのサービスを貰っていた。

「大先生、すごいなぁ。」

俺がそう呟けば鬱は照れくさそうに笑った。

「よせやい」

そうして、買い物を終えて、俺たちは再び森を歩いていた。押さえていた羽をぐっと伸ばしてやる。

「あー!気持ちいい…!」

「あんまり目立たせんなよー?」

「大丈夫やって!」

歩いていると、鬱が急に立ち止まった。

「大先生?どうしたん?」

「……ちーの、走るぞ…!」

鬱がそう言った途端、俺の手を取り、物凄いスピードで走り出した。

「え!?ちょ……!まてって大先生ッ!」

慌てて俺も走り出す。彼は、とても焦っているようだった。

「ちょ!鬱ッ!!どうしたん!?」

鬱は俺に何も説明せず、ただ何かから逃げるようにして走り続けた。

「鬱!!」

彼に引っ張られ林を抜けると、後ろから自分たちのものでは無い、草をかき分ける足音がするのに気がついた。

(追われてたんか…!?)

俺は、鬱に引かれて走り続けた。走って、走って、息が切れても鬱は手を離さなかった。

「もうすぐ…ッ家や…ッ!」

やっと鬱が話した。もうすぐそこに家が見える。あと数メートル……あと少しで、家に着く。


パシッ


「っあ!」


思考するよりも先に声が漏れた。鬱に掴まれた腕とは反対の腕を、誰かに掴まれたのだ。体が引っ張られる。鬱の手が勢いで俺の腕からすり抜けた。

「ちーのッッ!!」

鬱が叫ぶ。俺は、彼の方を見たまま、後ろへと引き摺られる。そして、そのまま……俺の体は俺を掴んだ何者かに抱き寄せられる。自分よりも、明らかに体格がでかいそいつは、まるで鬱から俺を守るように俺を抱き抱えた。

俺たちを執拗に追いかけてきた態度とは打って変わった俺への扱いの優しさに、男を見上げ、顔を見る。


男の顔は、緑色のボウリング玉だった。


「えっ………」

彼は、俺の驚きや、鬱の怒りをものともせずに俺を抱えて走り去ろうとする。

「ちょっ!」

俺が、言葉を発するよりも先に、俺を抱えた男の動きが止まった。

「……待てや…」

鬱が、男のコートの裾を掴んでいたのだ。

「ちーのを離せ…。そいつは俺の子や」

鬱は怒りに震えていた。俺はそんな彼の表情は、初めて見た。そんな表情をするのだと。

「お前の子?笑わせんな。お前らがこいつを誘拐して里から引き離したくせに」

男は初めて言葉を発した。表情は変わらないが、その言葉には怒りが見て取れる。

「お前ら人間がこいつを攫ったんや!もう俺はこいつを何年も、何年も探しとったんやぞ!!もう死んだんちゃうかってこいつの友人がどれだけ心配して心病んでると思ってんねん!!ふざけるのも大概にせぇや!」

男は声を荒らげる。

「攫ったのは俺じゃない!!俺やって出来ることならこいつを故郷に返してやりたかったよ!!」

鬱も負けじと声を荒らげる。俺はそんな二人の間にいても、なんの力にもなれなくて、ただ困惑しているだけだった。

そんな俺を見て、男が言う。

「……な、なぁ…ちーのは、俺のこと覚えてるか…?会ったのは随分昔のことやからな…忘れてもうた…?」

彼の特徴的なボウリング玉の頭…忘れるわけが無い。彼は俺の味方だ。幼い頃、卵バードの知り合いだと紹介された。数少ない人外だ。彼は俺の兄のような存在で、幼い頃には一緒に遊んだり、食べたり、共に生活した記憶がある。

「いや、覚えてるよ。ゾム兄ちゃん」

そう答えると彼は嬉しそうに「良かった」と言って、それから鬱の方を見た。

「もうお前ら人間の好きにはさせん。ちーのは貰っていく」

ゾムはそう言って、直ぐに俺の頬を撫でた。手袋越しで、体温は感じられない。

「ちーのも、俺のこと覚えてるなら分かるやろ?俺はお前の味方や。だから、一緒に行こう。安心してええねんで」

ゾムはそう言って、俺を抱え上げた。

このまま、ゾムが俺を里に返してくれるんだな…と、そう思った。けれど、それはダメだった。俺だって故郷に帰りたい。けれどそれよりも、ダメなことがあった。

「待って、ゾム兄ちゃん」

「ん?どした?」

彼の首元に縋り付くようにして、俺は言う。

「俺、鬱が好きなんや。お願い。引き剥がさんといて」

故郷に帰れないことよりも、嫌なこと。それは、鬱と離れることだ。故郷に帰りたいという気持ちよりも、鬱と離れたくないという気持ちが大きい。それはそうだ。幼い頃攫われる前は故郷で同じ種族の仲間と暮らしていた。けれど俺は今の今まで鬱と共に生きてきたのだ。単純に故郷に居た時間よりも、鬱と過ごしていた時間の方が長いための結論だった。

ゾムは、鬱と離れることを拒む俺に困ったような声を上げる。そして、俺を降ろして鬱を見た。

「鬱…って言うのはお前だよな?」

「そうやけど…」

「ふーん………なぁ鬱。お前にとってちーのってなんなんや?」

鬱は、突然の質問に拍子抜けしつつ、真面目な顔で考えて、そして答えた。

「家族や。一緒にいたい。守るべき相手や。」

「…そうか。」

ゾムは、鬱の言葉を聞くと切なそうに頷いて再び俺の方を向いた。

「ちーの」

「なんや?」

「……お前は、鬱と一緒がええ…?俺と一緒に来てはくれんのか?」

ゾムが、あまりにも寂しそうに言うから、少し考えてしまった。本当に、故郷に帰らず鬱といるのか?この、目の前の心底寂しそうな彼を悲しませるのか?と。

でも、何度思考を繰り返せど俺の結論は変わらなかった。

「……そうだね。俺も、鬱のこと親みたいに思ってる。だから、離れるなんて出来ない。考えられないよ…。」

「そうか。なら、しゃーないな。無理やり連れて来られても、お前の同種も喜ばんよな。」

ゾムは諦めたように笑ってそう言った。

「ゾム兄ちゃん…ありがとう。」

鬱が俺に歩み寄って、そして我慢の糸が切れたように飛びついて抱きしめてきた。

「………ッぷはぁぁ!!よかったぁぁぁあ!!!」

ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめて、そして「ちーのと離れ離れになったらどうしようってずっと心臓バクバクだったんよ!!」

と、安堵した様子を見せた。

「良かった…ちーの…ほんまに良かった…。」

「うん、そうやね俺も、鬱とまだ一緒にいられるのが嬉しいよ」

感極まった鬱を受けいれつつ、その様子をじっと見ていたゾムに声をかけた。

「ありがとうゾム兄ちゃん」

「何が?」

ゾムは、俺の礼に首を傾げる。俺は、その純粋な動作にクスリと笑って言った。

「俺たちのこと、引き離さないでくれて、ありがとう」ゾムは、少しだけ驚いた表情をして、その後笑った。

「俺はちーのを助けたかってんから、ちーのが今幸せならそのままにするのは当たり前やろ」

そして、彼は俺の頭をひと撫でしてから、背を向けて歩き始める。

「それじゃあな。また今度、お前の同種も連れて会いに来るわ。」

「じゃあね、ゾム兄ちゃん」

「おう。またなちーの」

ゾムは、手を振って去っていった。まだ鼻を啜っている鬱の手を引き家に戻れば、どっと疲れがやってくるのを感じる。

「なんか……疲れたわ……」

俺がベッドに腰掛けながら言うと、鬱がそばに寄ってきて俺の頭を優しく撫でた。

「うん、せやね。俺も」

彼は俺の隣に座って、そして俺の肩を寄せる。

「俺、お前と一緒にいられてよかった。」

「僕も、大先生が育ててくれて良かった。」




この幸せが、ずっと続くことを願う。それはきっと、彼も同じなのだろう。お互いがお互いを必要として、そして支え合い、愛し合い、笑い合い。こんな些細な日常の大切さと、互いの大切さを知った日だった。


みなさんこんにちは!卒業して春休みを迎えた夕暮です!!

いやあね、もう少ししたら誕生日、誕生日過ぎたら高校入学ですよ!

いやぁ時間って早いですねー…とか言っちゃってこの若さでこれならもっと老いた日には一日が1時間に感じるようになってるかも知れませんなぁ。ガハハ

あ、そうそう夕暮ね、昨日これと一緒にもうひとつずっと放置してた小説を修正したから出せるものがあと1個今あるんですね。(再投稿とイラスト部合わせたらもっとある)

そっちも近いうちに出せたらいいなと思ってるからよろしく!!

みんなここまで読んでくれてありがとう!!それじゃ、おつぐれ〜!

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