白菜 様より、拗らせ帝日
※旧国
大日本帝国こと日帝には、昔から恋愛に関して妙な気があった。
幼少の頃より、男に対して恋情を抱えることが多かったのだ。
日帝は綺麗な顔立ちで真面目な性格、少し無愛想ながらも優しく、頭も良く、芯のある人物である。
当然世の女性たちは彼を放っておかず、何人もの女性たちが幾度となく告白していた。
しかしどんなに美しく大和撫子な女性にも靡かず、グラビアなんてものに目を向けることもなく。
その様子に更にファンと言うべきものがつき、時にストーカー行為をする女性もあった。
それでも丁重に断り続け、黙って訓練場で木刀を振るのだ。
モテる日帝は同じ隊の兵士たちによく揶揄われたが、日帝は揶揄ってくる彼らの方が魅力を感じる。
だが、そんな調子で日々を過ごしていた彼にも守るべき人がいる。
日本という名の、日帝が愛する祖国の化身であった。
日帝を育て、見守り、優しく接し続けてくれた日本。
元々女性より男性に興味のある日帝だったので、その心はいとも簡単に掴まれ、長年片思いをし続けている。
軍人として常に最前線で敵を薙ぎ倒し、数多の国々との外交を一任し、親のような存在である日本の為を思って尽くしてきた。
いつしか、その思いは醜く歪んだ。
戦争が終わった翌年、日本は米国へと連れ去られる。
元々米国が日本を気に入り、日本国は敗戦国であったので、これをチャンスとして捕虜になったのだ。
日帝は米国への怒り、憎しみ、恨み、日本を守れなかった己の弱さ、情けなさ、屈辱でまともな思考が働かなかった。
なんとしてでも祖国様を取り戻さなくては!
その思いだけで動いた日帝には、倫理など関係ない。
辻斬りにも等しき行為にすら手を染めて、無理矢理日本を奪還した。
「もう大丈夫ですよ、祖国様」
「え、っと…ありがとうございます…?」
「あの悪魔に何かされませんでしたか?触られた箇所を教えてください、私が綺麗にして差し上げますので」
「だ、大丈夫ですよ、日帝。私はなんともありませんから…」
「本当ですか?私は心配しているのです…貴方が米帝に穢され、私の元から離れるのではないのかと…」
日帝の赤い瞳は狂気を表すように黒く塗りつぶされ、日本の怯えた表情すら見えていないようだ。
「米帝め…まさか俺ではなく祖国様を狙うとは…」
無表情のあまりに氷のようだと謳われていた端正なその顔は、爪を噛んで嫉妬と怒りに歪んでいる。
「日帝、爪を噛むのはおやめなさい。あなたの綺麗な手が荒れてしまいますよ 」
「す、すみません…」
日本はまだ、その血塗れの手が綺麗だと信じている。
祖国様は完璧だが、少々危機感が足りていないお方だ。
そう考えた日帝は、日本を防空壕として掘っていた地下へ連れて行った。
戦争が終わった今、使い所がなかった場所。
日本を取り戻す計画を立てていた日帝はその使い道を思いつき、今から実行するのだ。
「日帝?どうして防空壕へ?もう空爆は…」
「今日から、ここが貴方のお部屋です」
「…え?」
「前は狭く暗く、本当に緊急の避難所でした。ですが、祖国様を取り戻す前に私が改装して、貴方に相応しいように変化させたのです」
手を握る日帝の頬は赤く、背景がなければ告白の一場面とも取れるかもしれない。
誰にも知られていない内に、日帝は大切なものを地下へ封じ込めるつもりである。
「足りないものがあれば、遠慮なく私に言ってくださいね。祖国様のためならば、私は国家だって手に入れて見せましょう」
戦争が終わった直後にそんなことを言われると、流石の日本も様子がおかしいという違和感は確信に変わった。
「…寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。でも日帝、この戦争で学んだでしょう?争いは良くないことです。そんなこと言わないで」
「貴方が言うなら…仕方ありませんね」
本当にわかっているとは言い難いだろうが、ひとまず争いは避けてくれるはずだ。
「わかってくれたのなら良いのです。日帝、そろそろ上の屋敷に戻りませんか?」
「そうですね…仕事もありますし、戻らなければなりませんね…ですが、祖国様と別れるのは悲しいです」
不気味な微笑みは普段の無表情になり、握られている手の力が少し強くなった。
「大変なら私も手伝いますよ」
「いえ、そんなわけにはいきません。これからはほとんど一人暮らしになりますし、公務も一人でこなせるようにならなくては」
「ひ、一人暮らし?私がいますよ?」
「…あぁ、そうか…祖国様、貴方はもうこの部屋から出ることを許しません」
「…え?」
「貴方が一歩外に出るだけで、どれほどの危険があるとお思いですか。また米帝に攫われるかもしれませんし、英国や仏国、蘇国にも狙われるかもしれません。そんなことになってしまったら、私は怒りを抑えることができないでしょう。もう貴方を失う悲しみは知りたくありません」
「え、に、日帝…?私は大丈夫ですから…それに、米国さんも意外と優しかったですよ…?」
「嗚呼、なんということ…貴方は洗脳されてしまったのですね。私の祖国様を奪った挙句、祖国様を洗脳して自分側に引き込むとは!なんという悪魔の所業!今その洗脳を解いて差し上げます!」
「に、にって、まっ…!」
勝手にヒートアップして手加減もできない日帝を、小柄で ひ弱な日本が止められるはずもなく。
日本はあっという間に床へ縫い付けられ、犬がつけるような首輪を取り付けられ、抵抗虚しく組み敷かれる。
日帝の黒く塗りつぶされていた瞳は血のように赤く光り、愛する日本へ初めて手を上げた。
これも貴方の為ですと言って、彼曰く洗脳の解除をする。
本心では自分以外の名を出す日本に怒り、イライラをぶつけているところもある。
あれから何ヶ月かが過ぎた。
日帝のことはなんでもわかる、だなんて豪語していた頃が懐かしい。
今となっては何を考えているか全くわからないどころか、恐怖に体が震えてしまう。
本はあるし、美味しい食事もくれるし、仕事のとき以外は話相手になってくれる。
でも、澄んだ青空も、打ちつける雨も、麗らかな春も、爽やかな夏も、涼しげな秋も、凍てつく冬も、もう写真の先を想像することしかできない。
しゃんと背が伸びた綺麗な姿勢で本を読む日本だが、心の奥底は外で駆け回りたいと思っている。
「…」
この弱光の満ちる牢獄から出られるまで、日本と日帝の関係は悪化の一途を辿るだろう。
今日も扉の開く音がする。
「祖国様、今日は私を好きになってくれますか」
『形式上は捕虜として捉えられていた日本が行方不明になったとして、アメリカ合衆国を中心に世界各国が捜索した。
後に強制家宅捜索を行ったところ、日本と大日本帝国の2人が住んでいた自宅の地下にて、監禁状態で衰弱した日本が見つかったそうだ。
これについて問い詰めると、大日本帝国は「最善策を取ったまで」と主張。
危険な思想と暴力的な態度から生きる旧国としての権利を剥奪し、某月某日に処刑を行うとのこと』
久しぶりに読めた新聞には、愛息子とも言うべき青年が大罪の償いをさせられる日が載っていた。
コメント
15件
もうめっちゃ好きです!!!!! 御国の為だもんね!!!!!!やっぱそうですよね、帝国主義なだけであの時も日本だったんだから陸軍の祖国は日本ですよね!!!!!!!!!!!(爆散)
ありがとうございます! ロシさん以外は幸せになってて「なんで、俺だけ…」みたいなのはどうでしょう!!
想いが重くて少ねぇ語彙力で言い表すと、、、もうホントこういう愛情が歪んだゆえのバッドエンド大好きで癖に刺さりました、、、!