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いつもの様に目が覚める。
多少片付けたものの、まだ散らばっている書類を踏まないようにつま先立ちをしつつタンスへ向かう。
年季が入っており、開ける度にギィギィ音がしたり取っ手が取れたりするので替え時かと思っている。しかし、物心ついた時から使っているため中々替えづらい。
ギィとタンスを開け、
「えぇと、これじゃない、…これでもない……」
ぎゅうぎゅうに衣服が詰まっており、探すのも一苦労。
今日は寒いと目が覚めた時に直感的に感じたので毛皮を使っているコートを羽織り、その中に薄手の長袖を着ようと思う。
「あった!これだ」
取り出した時に破けないよう、力加減に気を配りながら引っ張る。
コートは虫に食われた跡もなく、綺麗な状態だった。
「やっぱりこれはこの長袖と相性がいいねぇ、肌触りがめっちゃイイぃ…」
しばらく放心していたが、突然はっとなり見上げる。
タンスの上には時計があり、4時24分を指していた。
「あ、いつもより少し寝坊した…」
時計を見て、少し合点がいく。なんとなく周りが明るいというか、いつもより多く寝たような。
急いでタンスを閉じ、ドタバタしながら隣の部屋の洗面台へ向かう。洗面台に置いてある歯ブラシを手に取り、口に突っ込む。
シャカシャカと動かしながら中庭に向かう。
片手で少し重い窓を開け、素足のまま中庭に出る。
「朝だぁ…」
天気も気温も良好。背伸びをしつつ昇りかけの太陽の日差しに当たる。
しばらく歩き、花壇に到達するとしゃがんで観察を始める。
特に変化はなし、枯れた花はないようだ。
頭の中でチェックを付け、次は地下室である。途中、キッチンに寄ってパンを食べつつ向かおう。
パンとは言えどこの世には色々な種類のパンがある。
例えばふわふわしていて、かつ栄養もしっかりしているラームパン、がっしり固いけれどその中にはほんのりと甘い味がし、また色々な料理にも利用できるフランスパンなど様々だ。ちなみに、フランスパンは地球にあるフランスという国発祥である。また、ラームパンはザンザ族発祥の独特なパンだ。
(…そういえばザンザ族って魔術とか言う不思議なものを扱う族なんだっけ? 資料あったかな、今度ママに会った時に聞いてみようかな…)
今、この家には私しかいない。
父は幼い頃に病気で亡くなり、母はその反動もあってかずっと研究に没頭している。…今は何を研究しているのかは知らないけれど。
「…私って一般的なラネ族だけどジュプエやルザネは何族なのかな? ジュプエは父方の祖父が中央役員会の委員長って言ってたから調べれば分かると思うけど……」
そんなことを考えつつ、でも深く考えても何の得にもならないと結論付け考えるのを止めにした。
ガジガジと固いフランスパンをかじりながら階段をしばらく下っていくと重たそうな扉が現れる。
腕に力を籠めてギィィと押し開き、中へ入った。
地下室は主に小さい動植物から少し大きめの生物を飼育している。
小さくて愛らしい生物を見ると、ある時の母の言葉を思い出す。
『実はね、研究室には隠し部屋があってそこでも生物を飼育しているのだけれど餌を与えたりゴミを掃除しなくても育つのよ。…今はその場所を教えないけれどいつか見つけてみてね』
当時の私はとてつもなくその言葉に驚き、そしてその生物を見たいと奮闘していた。
だが今になってみると何もしなくてもホイホイ育つのだから怖い見た目をしているのかもしれないと思った。だから当時の私に見つけられなくて良かったとも思っている。…まぁ今も見つけていられないが。
「異常はなし…、餌をあげなきゃね」
それぞれの生物の飼育箱の隣にある袋をあけ、少量取り出し隅に置く。
匂いに気が付いた生物はその匂い元を辿り、餌にありつく。
何度見てもほっこりする。
ただ、嗅覚が鋭いので袋の口を開けっ放しにしているといつの間にか食べられているということもあるので気を付けている。
他の生物も同様餌やりをしていく。
動植物はその地域で採れる虫を与えているためなかなかに手間がかかる。
(私ちょっとだけ虫苦手だからな……)
まぁ目を瞑っていれば多少は我慢できる。
「よし、食べ方にも異常はなし。さて、戻って準備でもしようかな」
本日の1限目は確か数学。その後2、3限目は生物、化学とあり4限目は総合。昨日配られた課題はそのままカバンに入っている。特別用意するものはなく、今日は4限までである。
(総合…いつか選択見学あるんだっけ。楽しみだなぁ、どこ行こうかなぁ……)
ぼんやりとそんなことを考えつつやはり薬品研究部だろうと落ち着く。
ジュプエは中央役員会、ルザネは警備役員会だろう。
「そういえば、薬品研究部って中央役員試験みたいな試験ってあるのかな」
そうとなれば今のうちに勉強を重ねておかねば。
まぁ例えそうであってもあと最低でも4年の猶予はあるはずだ。
(…猛勉強するべきなのは受験まで1年切ってからだね。今は覚えるべき事柄はコツコツと覚える)
そう思いつつ頬をペチペチと叩き、階段を登りきる。
「ま、覚えるのは苦手なんだけどね…」
朝の日課は終わった。次は朝ご飯の準備だ。
「んー、どうしようかなぁ、そんな時間は掛けられないし。パンにジャム塗って昼食堂でしっかり摂るかな」
昼飯抜きにならないようしっかり財布にお金を入れたことを確認する。
そしてキッチンへ行き、冷蔵庫からジェラートのジャムを取り出した。私はラームパンとジェラートの組み合わせが大好きなのでいつもラームパンを置いているところへ向かう。
しかし、すでに食べ切ってしまっていたようで空っぽだった。
残るはフランスパン。隣の箱に視線を移し、確認する。
「良かった、まだある」
この世には色々な種類のパンがあるとは言え、パン愛好家ではないので家にはフランスパンとラームパンしか置いていないのだ。
(この近くにあるお店とか分からないからまた明日に買いに行こう……)
休日は研究するために家に引き篭もると決めているから不服だが、仕方がない。
ふと、ちらりと時計を見ると5時過ぎを指していた。
「やばい、急がないと!」
私は急ぎパンにジャムを塗り、落とさないよう咥えたまま自室へ駆け出した。