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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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私は重たくなりつつある瞼をぐっと抑えながら隣のジュプエのノートを覗き込む。

眼鏡を掛けているとは言えど遠くに黒板があるのでぼやけているとしか認識出来ない。

(今はまだ1限目……。まだ寝るべきではない)

ついでに苦手な数学なので聞いていないとどんどん置いていかれる。

ぽんぽんと小さく頭を叩き、ぐっと欠伸を飲み込んだ。

ルザネがこちらの顔を覗いているのに気がつき、大丈夫だよという意を籠めて微笑む。

安心したのか、ルザネも私と同様笑い返してくれた。

気がつくと、大分進んでいた。

また気を引き締め、板書をするのであった。


ジュプエにぽんと肩を叩かれ、目が覚めた。

…不覚ながら寝ていたようだ。ルザネは笑いながら

「授業終わったよ。起こそうか迷ったけどよく寝てたから」

と言った。

「そっか……」

私は背伸びをしつつ天井を見上げた。

「次、なんだったっけ」

「2、3限目は生物だから生物室に移動かな」

ジュプエはあぁと言いながら苦虫を噛み潰したような顔をした。

「虫は苦手だ」

「まぁ、しょうがないよ!慣れが大事さ!」

能天気なルザネに呆れ、諦めがついたらしい。ジュプエはただ一言

「行くか」

と言った。

「あれ、生物室ってどこにあるの?」

「生物室はラステア東棟3階。ここの教室を出て左を進むと西棟と東棟を繋ぐ渡り廊下があるからそこをしばらく歩いて、階段を降りるとすぐにあるよ」

ルザネの自慢げな説明を聞きながら頭を整理していく。

今後も使う教室だと思うのでしっかりと覚えなければ。

「まぁ行ったほうが早いとは思うぞ」

「確かにそうだね」


生物室はさっきの教室よりも大分広かった。

「おぉ…広い」

「まあ大きめな生物を解体したりすることもあるからね…というかこの大きさに付け加えてここの1階と2階は庭になってて色々な生物を飼ってるから凄いよね」

なるほど、だから建物の1、2階部分が植物で覆われていたのか。

「ジュプエは解体苦手だもんね?去年も休んでたし」

ルザネが少しからかうように微笑み、ジュプエはため息をつきながら後頭部をガシガシと掻く。

「昔からそのようなものに触れたことがないからな。基本的にずっと家にいた」

「へぇ、意外。旅行とか行かないの?」

私よりも体力があるように見えるのでびっくりした。

「行かない。まぁ……父上が幼い頃から勉学に慣れるようにと家庭教師を付けていたからな」

「だからジュプエは昔っから堅物なのさ」

「へぇー、さすが父方の祖父さんが中央役員会の委員長なだけある。お金持ちなんだね……」

少し羨ましい。母の所属している薬品研究部は薬や電力、水等の設備の費用が給料から差し引かれているため、副業をしなければ懐に余裕は出来ないのだ。

「ん……でも色々な会費とかで使われていくからそこまで余裕はないぞ」

「会費?」

「例えば新人と交流深めるために〇〇館で催しします!みたいな」

ルザネはクルクルとペン回しをしていた。

「警備役員会ってお堅い人ばっかだからそういうことはないんだよね! でもまぁ、それでも入りたいんだけどさ…」

「催しがやりたいならルザネがやったらいいのに」

「無理だよ……。そう簡単に言ってくれるけどさ……」

ブツブツと不満を垂らすルザネを横目に黒板を眺めていると、黒板の左側に位置する扉がガラガラと音を立てた。

(…あ、先生だ)

「はーい皆さん、席に座って頂戴」

パンパンと手を叩きながら微笑む先生の姿は何処となく懐かしいものに見えた。

「2、3限目の生物を担当します、ネアと言うわ。…そうね、今日やることを話すのは1階、2階にまず移動してからかしらね。なので移動してね」

そう言うと部屋から出ていった。前に座っている生徒たちはゾロゾロと後に続いていた。

「…じゃあ私たちも行こうか」


「皆来たわね。じゃあ、説明を始めるわ」

先生は隣の花に少し触れ、花弁を撫でた。

「今日はここの庭ではどんな植物が咲いているのか、生物があるのか調べて頂戴ね。3限目は3階の生物室に戻って名前を調べたりどのようなものか調べても大丈夫よ」

手に持っている紙をペラリと掲げた。

「この紙に書いて次週提出。家でも放課後でも調べることは出来るからしっかりと観察してきてね。じゃあ、皆自由にどうぞ」

私は横にいるジュプエ達を見る。

「どうしようか。どこから行くのだ?」

「んー……ここは人多そうだし2階は?」

「確かにルザネの言う通りここは人多いかも」

「…では移動するか」

前に行って先生から紙を受け取り、私達は2階へ上がった。


「あら、絵が上手ね」

一生懸命花を観察し、スケッチしていると先生が隣で微笑んでいた。

「あ、先生」

ジュプエやルザネ達は他のところの花を観察しにいったようだ、周りには私達二人の他にはいない。

「名前、エリアさんだったかしら?」

「そうですね」

「エリア=ユテール、よね?」

「?…はい」

私は先生の言いたいことが分からず内心傾げていた。

「実はね、私、ネア=ユテール師匠の弟子なのよ」

「ネア=ユテールって……」

ネア=ユテールとは私の母の名前だ。

「そう、娘さんでしょ? だから一応挨拶はしておこうと思ってね」

「そうですか……母は元気にしていますか?」

「えぇ、相変わらず研究熱心よ」

母の弟子……か。弟子なんて取る人なのだろうか?

…そもそも娘がいるなど母は話すのだろうか?

(うーん、少し……少しだけ、警戒)

特に意味はないとは思う。だけど保険は必要だ。

「先生のお名前……なんでしたっけ」

「ルジーク=ナル=ディラ。ルジナって呼んで頂戴」

「ルジナ先生……ですね。分かりました、ありがとうございます」

ニコリと微笑んで紙に描いている花を引き続き描き始めた。

「じゃあ、頑張ってね」

先生と別れ、一人、また静かになった。


「ルザネは何を観察するつもりなんだ?」

「んー、簡単そうなやつ見つけてぼちぼち描くよ」

隣を歩く、自分より頭一つ分高いジュプエは、変わった。

口調は断然変わったが性格も少し変化を成し遂げている。

多分これは一年生から傍にいた自分しか分からないと感じている。

(多分きっかけは……エリアって子と出会ってからだと思う)

「ねぇ、ジュプエ」

「なんだ?」

考えられることはただ一つ。

「…エリアのこと、好きなの?」

やはりこれしかないと思う。いや、絶対。

「…はぁ?」

第一声はこれだった。だけど自分は分かる、少し顔が赤くなっていることに。

「いや絶対そうでしょ!?」

「いやなぜそうなったんだ」

「え、いやだってさ、お嬢様口調からなんか堅い口調になってるのってエリアが変えてほしいやら言ったからでしょ?」

ジュプエは頭を傾げつつ、

「まぁ、そうだな」

と言った。

「でもそれはお願いされたからだ。私自身最初は戸惑ったが今ではこれでも良いかなとも思っているし。それがなぜそのようなことになっているんだ」

自分は説明をするのにどのような言葉を使えばいいのか頭で整理をするため少しの間考えていた。

「えっとさ、ジュプエは気付いてないのかもしれないけど一年からずっと傍にいる俺にとっては微妙にだけど性格も変わってる気がするんだよね」

「…例えばどのように?」

どのように? と聞かれると少し返答に困る。

「うーん……なんか角が取れたと言うかなんというか……って感じ。俺にもよく分かんない」

「はぁ……それならば好きとかになるはずないだろう」

もう一度よくよくジュプエを見てみたが一見、顔は冷静さを戻しているように見えたがほんのりと赤く感じた。

(やっぱり……恥ずかしくて隠してるんだろうね……分からないけど)

「あー! もう! さっさと観察するもの見つけなきゃ!」

「…そうだな」

やはり好きなのかどうかは決定的な証拠を掴まなければ。


暖かく日が差し込む庭園の中、一人ルザネは決心したのであった。

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