「人は困難や苦労を乗り越えることで人として立派になる」
そう、彼が言っていた。 それならば。
困難も苦労も乗り越えられない私は何なの? 人間ですらない私には何が残るの?
教えてください。先生。 その疑問とは別に私は男に、彼に尋ねた。
「…貴方は人だったのでしょうか?」
返事はない。
「全てを投げ出した貴方は本当に人でしたか?」
私は目の前で流れた涙を拭くことのない男を見つめ、そう尋ねる。 男はどこか不自然だった。
ぼんやりと空を見つめ、ただ呆然と座り込む姿はまるで 何かに侵されている様な幻覚を見ている様な風貌だった。
「人間とは何なのでしょうか。人間、いや、人は本当にいるのでしょうか。 貴方の言った言葉をこなせる人間はいないと思いませんか? …人は醜く、打算的だ。それは真髄まで染み渡っていて拭うことができない。 欲深き人間は、困難や苦労を避ける。それは、乗り越えたは言えない。 ならば、本当の人間なんてこの世にはいないのではないでしょうか。 …貴方は人間に夢をみすぎた。貴方の言う様な人間を探し求めては絶望して …ねぇ、貴方には何が残りましたか。有るのは世界への絶望だけでしょう? 貴方は本当にこんな人生を望んでいたのですか。ねぇ。教えてくださいよ先生。 人間なんてこの世にいたのですか。…いや、いないですよね。そんなもの、わかりきっています」
自問自答を繰り返す私は貴方の目から見ても酷く異質に見えるでしょうね。
ならば、止めてくださいよ。 その心臓や肺、人生の継続のためにしか動かない貴方の体を動かして。 あの日の貴方はどこへ行ってしまったのですか。 私たちは人間ではないでしょう?
私達は全てから逃げた。 家族も、人生も。何もかも全て。
でも、貴方と私はお互い捨てきれなくて。 ずっとずっと一緒だったのに。 貴方は私を捨てた。
何故なのでしょう。何故だったのですか。 迎えに来た頃には貴方はこの世にいなかった。
目の前の貴方は抜け殻に過ぎなくて、それでも、それでも私は貴方が好きな気持ちは消えなくて。
あぁ。駄目だ。思考がまとまらない。 私も侵されているのだろうか。 病かすらもわからない。
この症状に。 …私の大事な先生と同じ死に方で死ねるでのしょうか。
あぁ。楽しみです。 どうか。 どうか。 早く死ねますように。 私は狂ってしまったようだ。
如何して。どうして。 あぁ、先生。迎えに来てください。先生?
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私の手紙。 一部抜粋 「先生、こんな諺を知っていますか。
『Adversity makes a man wise.』
意味は「人は困難や苦労を乗り越えることで人として立派になる」らしいです。
貴方が言っていた言葉と同じだったのです。
貶すつもりはありませんが…この諺を聞いて思いつくことは何ですか。
私の場合は乗り越えられなければ人ではないのか、ですね。
この言葉を知ったとき、私は先生に聞くつもりだったのですよ。
でも、言えなくて、もし会うことがあれば回答を聞かせてください」
これを書いた、生徒はのちに知ることとなる。 愛する先生は、この世にいないことを。 知らない生徒は、返事を期待して、数年の時を待っていった。
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