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MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
花の村は静かだった。
風は吹く。
花も揺れる。
だが。
人の気配が薄い。
旅僧は村を歩きながら眉をひそめた。
「不思議ですな」
「何がだ」
「村人はいるのです」
風が吹く。
「畑も手入れされている」
「花も育っている」
旅僧は周囲を見る。
「なのに」
生活の音がしない。
鍬の音。
子供の声。
笑い声。
生き物の鳴き声。
何もない。
まるで。
村そのものが息を潜めている。
その時だった。
少女が振り返る。
「みんな忙しいの」
にこりと笑う。
「お花のお世話」
旅僧も笑う。
だが。
佐衛門だけは少女を見ていた。
ずっと。
変わらず。
少女は笑っている。
なのに。
やはり。
泣いているように見えた。
その時。
お師さんが小さく唸った。
「妙だな」
隻眼が細くなる。
「何か思い出しそうなんだが」
墓守も同じ顔をしていた。
鐘撞きも。
皆同様に。
何かを知っている。
だが。
思い出せない。
そんな顔だった。
少女は村の中央へ案内する。
そこには大きな桜の木があった。
季節外れ。
なのに満開。
白い花が空を埋めている。
旅僧が思わず見上げた。
「見事ですな」
少女は嬉しそうに笑う。
「お母さんだから」
静寂。
「お母さん?」
少女は頷く。
当然のように。
「そう」
桜の幹を撫でる。
「みんなのお母さん」
風が吹く。
花びらが舞う。
旅僧の背筋に寒気が走った。
何かがおかしい。
だが。
言葉に出来ない。
その時。
佐衛門が桜へ近付いた。
幹へ手を置く。
静寂。
長い沈黙。
そして。
「埋まってるな」
少女の笑顔が止まった。
旅僧が固まる。
「何がです」
佐衛門は桜を見る。
幹。
根。
「人だ」
静寂。
風が止む。
少女の顔から笑みが消えた。
ほんの一瞬。
憎しみに似たものが浮かぶ。
だが。
すぐに消えた。
「変な人」
また笑う。
今度は少しだけ冷たかった。
旅僧は桜を見る。
そして。
気付いてしまった。
根元。
盛り土。
墓だった。
大きな墓。
桜そのものが。
墓標になっていた。
その時。
鐘撞きが掠れた声を出す。
「そうか」
静寂。
「花守か」
最後の一人も目を閉じる。
何かを思い出したようだった。
「六番目」
風が吹く。
「花を背負った者」
旅僧が振り返る。
「知っているのですか」
鐘撞きは桜を見る。
満開の花を。
「知っている」
苦しそうな声だった。
「優しかった」
少し間を置いて。
「誰よりも」
その時。
少女が言った。
「違うよ」
全員が振り返る。
少女は笑っている。
だが。
その目だけは笑っていない。
「優しくなんかない」
風が吹く。
花びらが舞う。
桜の枝が揺れる。
まるで。
何かが目覚めるように。
「だって」
少女は空を見上げる。
月ではない。
遠い昔を見るように。
「みんなを置いていったから」
静寂。
その言葉と同時に。
村中の花が。
一斉にこちらを向いた。
旅僧の身が強張る。
花だ。
花なのに。
見ている。
何千。
何万。
無数の花が。
佐衛門を見ていた。
そして。
少女が初めて、佐衛門へ向かって言う。
「ねえ」
静かな声。
「どうして忘れちゃったの?」
静寂。
旅僧が凍り付く。
お師さんも。
鐘撞きも。
墓守も。
誰も動けない。
少女は続ける。
「菫お姉ちゃん」
風が止んだ。
その名前を聞いた瞬間。
佐衛門の胸の奥で。
何かが軋んだ。
知らない。
知らないはずなのに。
その呼び方だけが。
妙に懐かしく思えた。
コメント
1件
第十四話、読み終わったよ……。 なんか、この村の静けさがすごく怖かった。生活の音がしないって描写がじわじわ来たな。で、桜の根元に人が埋まってるって佐衛門が言った瞬間、背筋が冷えた。 少女が「お母さん」って呼んでた桜、実は墓標だったんだね。そして最後の「どうして忘れちゃったの?」「菫お姉ちゃん」——あのセリフ、胸に刺さった……。佐衛門が忘れてる何か、すごく気になる。続きが気になって仕方ないよ🤍