戦場の花

兵士たちの視線

公の入団式で、エルヴィンとリヴァイによるサクラへの溺愛が知れ渡った後、調査兵団の日常は大きく変わった。特にサクラの周囲は、一種の**「立ち入り禁止区域」**と化した。

他の兵士たちは、リヴァイの「容赦なく削ぎ落とす」という警告と、エルヴィンの「戦略的機密」という言葉を恐れ、遠巻きにサクラを見ていた。彼らの視線は、好奇心と畏怖が入り混じったものだった。

その視線は、サクラとリヴァイの二人にも向けられていた。

「チッ。まるで動物園の檻の中のようだ」リヴァイは、訓練場の隅で立体機動装置のワイヤーを整備しながら、不機嫌そうに舌打ちした。

「兵士長、気にしないでください。彼らも、私たちの訓練に興味があるだけです」サクラが言う。

「興味？あいつらが興味があるのは、お前を巡る俺と団長の醜い争いだ。余計な雑音を立てるな」

訓練中の「秘密の特訓」

リヴァイは、サクラへの指導を、公の場でも徹底した。彼の訓練は容赦なく厳しいものだが、その厳しさの裏には、他の兵士たちには決して見せない過剰なまでの優しさが隠されていた。

【体術指導】

サクラが体術の型を少し崩したとき、リヴァイは他の兵士が見ている前で、低い声で叱咤した。

「おい、サクラ。重心がぶれている。体幹を意識しろ！雑念を捨てろ！」

リヴァイは、他の兵士に「厳しい指導」に見えるよう、公的な顔を装った。しかし、次の瞬間、彼はサクラの耳元に、誰にも聞こえないほど小さな声で囁いた。

「…昨夜、俺が特別に作ったハーブティーを飲んだか？ちゃんと飲んでいれば、こんなところで足がもつれるはずがねぇ。訓練が終わったら、残りも全て飲め。無駄なことはするな」

これは、訓練の成果を気にかけているようでいて、実はサクラの体調管理を独占し、甘やかすための秘密の指示だった。

【小休憩】

休憩時間。他の兵士たちが、各自水筒で水分補給をする中、リヴァイは自分の装備が入ったバッグから、小さな布で包まれたものを取り出した。

リヴァイは、周囲の視線を一瞥し、サクラを壁際へと呼び寄せた。

「これを見ろ」

包みの中には、リヴァイが時間をかけて磨き上げた小さなリンゴが一つ入っていた。皮も完璧に剥かれ、一切の汚れがない。

「…兵士長。リンゴ、ですか？」

「ああ。戦場で一番栄養効率が良く、手が汚れない食べ物だ。食え」

「ありがとうございます…でも、兵士長は？」

「俺はいい。これはお前の分の栄養だ。さっさと食え。訓練で消費した分は、俺が全て補給してやる。他の誰かの分の食い物に気を配るな」

彼は、サクラの健康と体調を、他の何よりも優先し、その世話を独占することで、満たされていた。それは、公の視線があるからこそ、より巧妙に隠された秘密の溺愛だった。

【公然の牽制】

休憩を終え、リヴァイがサクラの装備をチェックしていると、近くを通りかかった古参の兵士が、サクラに声をかけようと近づいてきた。

「サクラ兵士。今の体術、参考に…」

兵士が言葉を最後まで発する前に、リヴァイはサクラに装着させたばかりの立体機動装置のワイヤーを、故意に、一瞬だけ強く噴射させた。

ヒュンッ！

ワイヤーは、兵士の顔のすぐ横をかすめ、地面に深く突き刺さった。兵士は恐怖で飛び退り、冷や汗をかいた。

「危ねぇな、おい」リヴァイは兵士を一瞥した。「俺は、常にサクラの安全と訓練効率を最優先している。その邪魔をする奴は、誰であろうと排除する」

リヴァイの行為は、サクラへの訓練指導という公的な大義名分を装った、他の兵士たちへの公然たる牽制だった。

サクラは、リヴァイの冷酷な行動の裏に隠された、あまりにも切実で温かい溺愛と独占欲を感じ、訓練場という公の場で、二人の間に流れる秘密の絆を、さらに強く意識したのだった。