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「うん、大好き! 初めて会った時からずっと! 大好き!」
「……初めて会った時からって、お前、彼女いただろ?」
「うん、いたよ。でも大好きって思っちゃったんだもん。仕方ないよね」
くそっ、可愛い……! まっすぐな瞳でそんなストレートな言葉を、少し食い気味にぶつけてくるなんて。ダメだ、耐えろ俺!
「……じゃあ、ダメだ。本気だって言うなら、りゅうせいとはできない。こないだの一回きりで終わり。そんで、この話も終わり」
俺は心を鬼にして、煙草を灰皿に押し付けた。そう、これでいい。バツイチ、子持ち、養育費……俺にはもう、無責任に恋愛する資格なんてなんもない。
「なんで? いつきくん、付き合ってる人いないよね? それにバツイチだし、貧乏だし、もう俺以外誰も相手にしてくれないと思うんだけど!」
「りゅうせい、お前さぁ……」
そんなきゅるきゅるした可愛いおめめで、追い打ちのように酷いことを言わないでくれ。これでも俺、社内ではバツイチの色気とやらで少しはモテるんだぞ?……たぶん。
「……そっかぁ。やっぱり女の子がいいよね。前の奥さん、めっちゃ可愛かったんでしょ? ちっちゃくてふわふわで、俺とは真逆の……」
ちょっ、待て。鼻声になってないか?
屋上の冷たい風が、りゅうせいの濡れた瞳を際立たせる。ダメだって、そんな俺なんかで泣いたって、良いことなんて一つもない。
「おっ! パワハラっすか?! それともセクハラ?! あと、何ハラがあったっけ、いっちゃん?」
「もぉ、いつきくんがそんなことしないの、だいきくんが一番よく知ってるだろ?」
ナイス、いっちゃん! 救世主! ……って、おいお前、だいき! なんでヘラヘラしてんだ、火に油を注ぐんじゃねえ! マジで上に訴えられたらどうするんだよ。俺、本当に何もなくなるよ? 人生終わりだよ?
「だいきくぅん、ダメだったぁ。いつきくん、本気の人相手にはしないんだってぇ。好きじゃないって嘘つけばよかったぁ……」
えーん、とわざとらしい嘘泣きをしながら、りゅうせいがだいきに抱きつく。
「こらりゅうせい。自分のこと安売りしちゃダメでしょ? 周りをちゃんと見て。りゅうせいのこと本気で好きな人、いっぱいいるよ?」
「あー! だいきくん、りゅうせいのこと狙ってんだぁ。バレバレじゃん」
「あほ、俺じゃねぇわ。俺は他にちゃんと好きな人がいんの! 意外と一途なの!」
「えーん、いっちゃん、だいきくんにも振られたぁ……」
「やめろよりゅうせい。俺はお前を甘やかさねぇ」
りゅうせいに抱きつかれそうになったいっちゃんが、ひらりと身をかわす。その軽妙な動きと、まるでコントのようなやり取りに、張り詰めていた空気がどこかへ消えていき、思わず「ブハッ」と吹き出してしまった。
「もうっ! 笑い事じゃないからね!」
プンスカ怒っているりゅうせいの横で、いっちゃんとだいきがケラケラと笑い合っている。……全く、どこまでが本気で、どこからが芝居なんだか。
「あ、そだ。いつきくん、今日飲みに行くからね?」
「え、強制なの?」
「え?! 俺も参加する!」
「ほんなら、俺だって」
二人が身を乗り出すと、俺の肩を組んでいた同期のだいきが得意げに笑った。
「バーカ。今日は同期会なの。君たち二人はお留守番」
「うわっ、出たよ、同期マウント」
「だいきくぅん、卑怯だぁ」
いっちゃんは本当に呆れた顔をしているし、りゅうせいは今にも泣き出しそうだ。大丈夫かよ……。そんな俺の懸念をよそに、だいきは俺の顔を覗き込むと、小さな声でこう言った。
「……相談があって。途中で泣いたら胸借りるよ?」
そう言って俺の胸をポンポンと叩く。これは、茶化しちゃいけないやつだな。きっと。
「……わかった。俺も前に相談乗ってもらったし。アドバイスとかできるような立場じゃないけど」
「なぁに、コソコソやってんの? じゃあいつきくん、次の日は俺とだからね!! 部下としてだといいんでしょ?」
ちょっと半ギレ気味にりゅうせいが割り込んでくる。……だから俺は金がないんだって。部下と飲みに行って金出さないわけにはいかんだろ。
「だめだよりゅうせい、いつきくんお金ないんだって。その日は家飲み! 3人でいつきくんの家で! 決定、はい解散!」
いっちゃんがその場を取り仕切って、パンッと大きな音で手を叩いた。……わかったぁ、と項垂れるりゅうせいの肩を掴んで、いっちゃんが無理やり押していく。
「……なんで俺、入ってないの?」
「……3人って言ってたね」
切なそうに呟いただいきの顔を見て、ブホッと思わず吹き出した。本当になんて顔してんだよ。こいつはいつまで経っても変わらないな。
「えーん、じゃあ今日は2人で飯も行っちゃう? 若造には到底真似できない美味しいイタリアンに連れて行くぜ? 高級ワインも飲み放題」
「マジで?! だいきやるじゃん、なんか俺得でしかないんだけど」
「いい男だろ? 俺」
「ほんと、いい男。女だったら結婚したいくらいだわ」
俺にもだいきみたいなサービス精神とお茶目さと可愛げがあったら、離婚なんて突きつけられなかったんだろうな。結婚生活3年位で何回外食に連れて行ってあげたっけ。又今度、又今度って仕事の忙しさを言い訳にして、彼女の笑顔を最後に見たのはいつだっただろう。
店に入り、落ち着いた照明の下でワインを傾ける。
「でさ、親が言うの。結婚相手は何人か見繕ってあるから、安心しろって。あげまんばっかり選んでるからって」
「あげまん? 久々に聞いた」
「あげまんを見繕うだよ? 我が親ながら女性軽視だし下品だし」
ほんとに、もう。そう言って眉を寄せるだいきの様子に、俺は思わずふふふと笑いを漏らした。
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萩原なちち