テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ホラー小説 血塗られた舞踏会~d×n~
第一章 招待状
秋雨がガラス窓を叩く音が、大学の図書館に静かに響いていた。俺、宮〇〇太は古典文学の資料を読みながら、時折窓の外を眺めていた。灰色の空から降り続ける雨が、どこか不吉な予感を抱かせる。
「涼太、お疲れさまです」
声をかけてきたのは、渡〇〇太だった。俺たちは高校時代からの友人で、同じ大学の演劇部に所属している。翔太は俺のことを「涼太」と呼び、俺も彼を「翔太」と呼ぶのが習慣になっていた。
「お疲れさま、翔太。今日も美しいね」
俺が挨拶すると、翔太は少し頬を染めた。彼の肌は陶器のように白く滑らかで、まるで芸術品を見ているような気持ちになる。
「もう、涼太。そんなこと突然言わないでよ」
翔太は美意識が高く、いつも肌の手入れを欠かさない。その整った顔立ちと透明感のある肌は、確かに美しいと言える。演劇部でも、女性役を演じることが多いほどだ。
「事実を述べただけだよ。君の美しさは、まさに芸術品のようだ」
「涼太の話し方、相変わらず上品すぎて照れちゃう」
翔太は苦笑いしながら、俺の向かいの席に座った。彼の甘い香水の匂いが漂ってきて、俺の心が少しざわめく。
「ところで、これを見てくれる?」
翔太が差し出したのは、古風な封筒だった。蝋で封がされており、まるで中世の貴族が使っていたような上質な紙でできている。封筒の表面には、金の箔で装飾が施されていた。
「なんだ、これ?随分と豪華な封筒」
「今朝、俺の下宿のポストに入ってたの。宛名も差出人も書いてないから、最初はいたずらかと思ったんだけど…でも、この紙の質感とか、本物の高級品みたい」
俺は封筒を手に取った。確かに重厚な作りで、安っぽいものではない。蝋封の部分には、複雑な紋章のようなものが刻印されている。
「開けてもいいかい?」
「うん、お願い」
蝋封を慎重に破ると、中から豪華な招待状が出てきた。金の箔押しで装飾された、これまた上質な紙だった。文字は古風な筆記体で書かれている。
「『親愛なる皆様へ。来る十月三十一日、ハロウィンの夜に、旧白鳥邸にて仮面舞踏会を開催いたします。皆様のご参加を心よりお待ちしております。午後八時より、正装にてお越しください』」
俺は招待状の内容を読み上げた。
「白鳥邸って、あの廃墟の?」
「ああ、恐らくそうだろうね」
白鳥邸は、この街の郊外にある古い洋館だった。大正時代に建てられた豪邸だが、戦後に住人が謎の失踪を遂げて以来、空き家になっている。地元では心霊スポットとして有名で、肝試しに行く学生も多い。三階建ての重厚な建物で、gothic様式の尖った屋根が特徴的だった。
「でも、誰がこんな招待状を?管理者なんているの?」
「さあ…でも、この招待状の質を見ると、単なるいたずらとは思えないね」
俺は招待状を翔太に返した。よく見ると、裏面にも何か書かれている。
「裏に何か書いてあるよ」
翔太が招待状を裏返すと、小さな文字で言葉が刻まれていた。
「『真実の愛を見つけし者のみ、永遠の幸福を得ん』」
意味深な言葉だった。まるで恋愛に関する何かの試練のようだ。
「なんだか不気味」
翔太が眉をひそめた。
「でも、気になるのも事実だね。どうする?行ってみる?」
翔太の提案に、俺は少し考えた。確かに興味深い話だが、廃墟での夜のパーティーなど、危険すぎる。それに、翔太のような美しい人を、そんな場所に連れて行くわけにはいかない。
「君一人では行かせられないよ。もし行くなら、俺も一緒だ」
「やっぱり涼太は優しいね。でも、本当に大丈夫かな?」
「大丈夫さ。君を守るのは俺の役目だからね」
そう言ってから、俺は自分の言葉に少し驚いた。翔太を「守る」だなんて、まるで恋人のような言い方ではないか。しかし、それが俺の本心だった。翔太のことを、ただの友人以上に大切に思っている。
「涼太…」
翔太も同じことを感じたようで、少し赤くなっている。俺たちの間には、最近微妙な空気が流れることがある。友達以上恋人未満、といった複雑な関係だった。
「とりあえず、今日は帰ろうか。明日また相談しよう」
「うん、そうしよう」
俺たちは図書館を出て、駅まで歩いた。雨は止んでいたが、街は薄暗く、街灯の明かりが路面に反射している。秋の夜は早く、もう完全に暗くなっていた。
「涼太」
「何だい?」
「もしあの招待状が本物だったら…怖くない?」
翔太の不安そうな表情を見て、俺の胸が痛んだ。彼の美しい顔に不安の影が差すのは、見ていて辛い。
「怖がらなくていい。俺がいるから」
俺は翔太の肩に手を置いた。その瞬間、翔太の体温を感じて、胸がドキドキした。彼の肩は華奢で、守ってあげたいという気持ちが強くなる。
「ありがとう、涼太」
翔太の微笑みを見ていると、どんな危険でも彼を守りたいと思った。この気持ちは、友情を越えた何かなのかもしれない。
駅で別れる時、俺たちは少し名残惜しそうにしていた。
「また明日」
「ああ、また明日」
翔太の姿が改札の向こうに消えるまで、俺は見送っていた。
第二章 調査
翌日、俺たちは大学の図書館で白鳥邸について調べることにした。昨夜は結局、あの招待状のことが気になって、あまり眠れなかった。
「ありましたよ、涼太」
翔太が地方史の資料を持ってきた。今日も彼は美しく、図書館の蛍光灯の下でも肌が輝いて見える。
「白鳥邸について書かれてるページがあります」
俺たちは一緒に資料を読んだ。翔太の肩が俺の肩に触れて、甘い香りが漂ってくる。彼がいつも使っている香水の匂いだった。フローラルな香りで、とても上品だ。
「『白鳥邸は大正十二年、実業家白鳥慶三郎によって建設された。欧州風の豪華な洋館で、当時としては珍しい舞踏室も備えていた』」
「舞踏室…今回の招待状と関係がありそうだね」
翔太が続きを読む。彼の美しい声が、図書館の静寂に響く。
「『白鳥慶三郎は、ヨーロッパで貿易業を営んでいた成功した実業家で、現地で結婚した妻と共に帰国。この邸宅は、妻の故郷であるフランスの城を模して建設された』」
「フランスの城か。それで、こんなに豪華な造りなんだね」
俺は感心した。
「『邸宅には、慶三郎夫妻の他に、三人の子供たちと数名の使用人が住んでいた。家族は地域でも評判の良い人々で、特に夫人は慈善活動に熱心だった』」
翔太が読み続ける。
「『しかし昭和二十三年、白鳥家の人々が一夜にして姿を消すという事件が発生。家族五人全員と使用人二名の行方は今も不明である』」
「一夜にして失踪…それは不気味だね」
俺は眉をひそめた。七人もの人間が、同時に姿を消すなど、普通では考えられない。
「『事件の夜、近隣住民は邸宅から大きな悲鳴を聞いたと証言している。しかし、翌朝警察が駆けつけた時には、誰もいなかった』」
翔太の声が少し震えていた。
「『事件後、邸宅は長らく空き家となり、現在は市の管理下にある。しかし管理人の話によると、毎年ハロウィンの夜に館内から舞踏会の音楽が聞こえるという噂がある』」
読んでいるうちに、俺たちの顔は青くなっていった。
「これって…もしかして」
「幽霊の舞踏会ということかい?」
俺たちは顔を見合わせた。招待状の差出人が、すでに亡くなった白鳥家の人々だとしたら…
「でも、招待状は確実に俺のポストに入ってた。誰かが入れたってことでしょ?」
「それもそうだね。現実的に考えれば、誰かが白鳥邸を使ってイベントを企画してるんだろう」
俺は翔太を安心させようとしたが、内心では不安が募っていた。あの招待状の豪華さといい、この邸宅の歴史といい、何か超自然的な力が働いているような気がしてならない。
「でも、なんで俺のところに招待状が来たんだろう?」
翔太が疑問を口にした。
「翔太は演劇部で一番美しいからね。もしかすると、美しい人を求めているのかもしれない」
「涼太ったら、また…」
翔太が照れているのを見て、俺の胸がキュンとした。
さらに調べを進めると、白鳥邸にまつわる不可解な事件が他にもあることがわかった。
「『昭和三十年代以降、邸宅周辺では数回の不可解な事故が報告されている。肝試しに訪れた若者の失踪、不審死など』」
「やっぱり危険な場所な訳ね」
翔太の不安が募る。
「『特に、恋人同士で訪れた若いカップルの被害が多いという特徴がある』」
その一文を読んで、俺たちは凍りついた。
「恋人同士…」
「俺たちも、もしかすると…」
俺と翔太は、まだ恋人ではない。しかし、周囲から見れば、そう見えるかもしれない。
「涼太、俺やっぱり怖くなってきた」
翔太が俺の袖を掴んだ。その手が小刻みに震えている。
「大丈夫だよ、翔太。俺が絶対に君を守るから」
俺は翔太の手を握った。彼の手は冷たく、華奢だった。この美しい手に、傷一つつけさせるわけにはいかない。
「でも、もし本当に危険だったら…」
「その時は俺が盾になる。君に指一本触れさせやしない」
俺の真剣な表情を見て、翔太の頬がまた赤くなった。
「涼太って、本当にかっこいい」
「君こそ美しいよ、翔太」
俺たちは自然と顔を近づけていた。図書館の静寂の中で、お互いの息遣いだけが聞こえる。翔太の瞳は、宝石のように美しく輝いていた。
「あの…」
翔太が何かを言いかけた時、図書館の時計が五時を告げた。
「もうこんな時間か。今日はここまでにしよう」
俺は慌てて立ち上がった。今のような雰囲気になると、いつも俺は逃げてしまう。翔太への気持ちが友情を越えていることを認めるのが怖いからだ。
「うん…そうだね」
翔太も少し残念そうな表情を見せたが、すぐに笑顔を作った。
第三章 決意
その夜、俺は一人で白鳥邸の写真をネットで探していた。昼間の写真でも充分不気味な雰囲気が伝わってくる。
三階建ての洋館で、gothic様式の尖った屋根が特徴的だった。窓は全て板で封鎖されており、外壁も煤けて黒ずんでいる。建物全体が、まるで巨大な墓標のような威圧感を放っていた。
敷地内には枯れた庭園があり、かつては美しかったであろう噴水も、今は苔に覆われている。鉄の門扉には、複雑な装飾が施されているが、錆びついて朽ち果てていた。
「本当にこんな場所でパーティーをするつもりなのだろうか」
俺は招待状をもう一度手に取った。よく見ると、裏面に小さな文字で何かが書かれている。
「『真実の愛を見つけし者のみ、永遠の幸福を得ん』」
意味深な言葉だった。まるで恋愛に関する何かの試練のようだ。そして、この言葉を見ていると、翔太の顔が浮かんでくる。
俺は翔太のことを、いつから恋愛的な感情で見るようになったのだろう。幼少期からの付き合いだが、大学に入ってから、彼への想いが変わってきた。
彼の美しい笑顔、上品な仕草、時折見せる甘えるような表情。全てが俺の心を揺さぶる。しかし、同性への恋愛感情を認めるのは、簡単なことではない。
携帯電話が鳴った。翔太からだった。
「もしもし、涼太?」
「翔太、どうしたんだい?」
「えっと…その招待状のこと、他の人にも届いてるみたい」
「他の人?」
「演劇部の田中さんと佐藤くんも同じような招待状をもらったって」
田中と佐藤は、演劇部の先輩と後輩だった。田中先輩は俺たちの一年上で、演出を担当している。佐藤くんは一年下の後輩で、舞台装置を担当している。
「そうか…ということは、演劇部に狙いを定めて送られてきたのかもしれないね」
「みんなで相談した結果、行ってみることにしたの」
「え?」
俺は驚いた。
「みんなでなら安心だし、もし本当にイベントがあるなら面白そうだって」
「しかし、危険すぎる」
「大丈夫だよ。涼太も一緒でしょ?」
翔太の信頼のこもった声に、俺の心が揺れた。彼がそこまで俺を信頼してくれているなら、守り抜かなければならない。
「わかった。君たちを守るためにも、俺も行こう」
「やった!ありがとう、涼太」
翔太の嬉しそうな声を聞いて、俺は決意を固めた。何があっても翔太を守り抜く。それが、俺の使命だ。
「ところで、田中先輩と佐藤くんは、どんな招待状だったんだい?」
「基本的には俺と同じ内容だったけど、裏面の言葉が少し違ってた」
「どう違うんだい?」
「田中先輩のは『芸術に魂を捧げし者のみ』で、佐藤くんのは『純真なる心を持つ者のみ』だった」
それぞれに合わせた言葉が書かれているのか。俺の招待状には何が書かれているのだろう。
「俺にも招待状が届いてるかもしれない。確認してみるよ」
電話を切ってから、俺はポストを確認しに行った。
果たして、同じような豪華な封筒が入っていた。
封を開けると、招待状の内容は翔太のものと同じだったが、裏面の言葉が違っていた。
「『高貴なる魂を持つ者のみ、永遠の幸福を得ん』」
高貴なる魂か。俺にそんなものがあるのだろうか。しかし、翔太を守るためなら、俺は高貴でも何でもなってみせる。
第四章 演劇部の結束
翌日の演劇部の練習で、俺たちは招待状について話し合うことになった。
「みんな、同じような招待状をもらったんですね」
田中先輩が言った。彼は眼鏡をかけた知的な雰囲気の人で、演出家として優秀だった。
「はい。でも、裏面の言葉がそれぞれ違ってました」
佐藤後輩が答えた。彼は人懐っこい性格で、後輩思いの優しい先輩たちを慕っている。
「俺たちを個別に選んで送ってるってことですね」
俺が推測した。
「でも、誰が?そして、なぜ俺たちなんでしょう?」
翔太が疑問を口にした。
「演劇部だから、舞踏会に相応しいと思われたのかもしれませんね」
田中先輩が分析した。
「確かに、俺たちは演技や舞台表現に慣れてますからね」
佐藤くんが頷いた。
「それで、本当に行くんですか?」
俺が確認すると、みんなが頷いた。
「危険かもしれませんが、これも一種の体験学習と考えれば」
田中先輩の言葉に、みんなが同意した。
「ただし、何かあったらすぐに逃げることを約束しましょう」
俺が条件を出すと、みんなが賛成した。
「それじゃあ、当日の準備について話し合いましょう」
翔太が提案した。
招待状には「正装にて」と書かれていたので、それぞれ正装を用意することになった。俺は持っているタキシードを着ることにした。翔太は、美しいドレスシャツと黒いスーツを合わせると言っていた。
「仮面舞踏会だから、マスクも必要ですね」
田中先輩が指摘した。
「そうですね。それぞれ、適当なマスクを用意しましょう」
俺が答えた。
「楽しみになってきました」
佐藤くんが無邪気に言った。
しかし、俺の心の中では不安が渦巻いていた。翔太のような美しい人を、あんな危険な場所に連れて行くことになる。絶対に、彼に何かあってはならない。
練習が終わって、俺と翔太は二人きりになった。
「涼太、本当に大丈夫?」
翔太が心配そうに尋ねた。
「翔太が心配なら、俺だけが行ってもいい」
「それは嫌!涼太一人で行かせるなんて、絶対に嫌」
翔太の強い口調に、俺は驚いた。
「優しいね、翔太」
「優しいんじゃなくて…」
翔太が何かを言いかけて止まった。
「何だい?」
「何でもない。とにかく、一緒に行く」
翔太の表情に、何か秘めた想いがあるのを感じた。もしかすると、彼も俺に対して、友情以上の感情を抱いているのかもしれない。
続きはnoteで作者名『木結』(雪だるまのアイコン)で検索して下さい。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!