テラーノベル
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夜の風が砂を撫でていた。
簡易整備所の明かりだけが周囲を照らしている。
ユウは作業台の前に座り、拳銃の最後の部品を組み込んでいた。
乾いた金属音が響く。
その時だった。
「まだ持っているのか」
背後から声がする。
振り返るまでもない。
監視官だった。
黒い外套を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
視線は拳銃に向けられていた。
「それは何のために必要だ」
以前にも聞かれた問いだった。
だが今回は試すようではなく、確認するような口調だった。
ユウは手を止めない。
「仲間を守るためです」
即答だった。
監視官は小さく頷く。
否定もしない。
賛同もしない。
「そうだろうな」
それだけだった。
静寂が落ちる。
遠くで発電機が唸っている。
やがて監視官は言った。
「前任者も同じことを言っていた」
ユウの手が止まる。
監視官は続けた。
「仲間を守るためだ、と」
視線は拳銃から動かない。
「立派な男だった」
感情のない声だった。
だからこそ重かった。
「結果として死んだがな」
風が吹いた。
砂が地面を転がる。
ユウは何も言わない。
監視官も説明しない。
死因も。
最期も。
語る気はないらしい。
しばらくして監視官は再び口を開いた。
「その銃か」
ユウが拳銃を見る。
「はい」
「遺品だな」
「回収品です」
監視官は頷いた。
それ以上は聞かなかった。
まるで確認が済んだと言わんばかりに。
そして不意に話題を変える。
「天音少尉も似た人間だ」
ユウは顔を上げた。
「どういう意味です」
「そのままの意味だ」
監視官は淡々と答える。
「優秀だ」
それだけだった。
だが続きがあった。
「優秀な人間は、自分に何が求められているか理解している」
夜風が吹く。
「理解している人間は迷わない」
ユウは黙って聞いていた。
監視官の声には感情がない。
ただ事実を並べているだけだ。
「迷わない人間は必要なものを選ぶ」
「……」
「不要なものも切り捨てる」
ユウの胸の奥がわずかにざわつく。
監視官は構わず続けた。
「それが自分自身であってもな」
静寂。
発電機の音だけが聞こえる。
やがて監視官は踵を返した。
「心配する必要はない」
歩き出す。
足音が砂を踏む。
「天音少尉は優秀だ」
それは褒め言葉のはずだった。
だが妙に冷たく聞こえた。
監視官は振り返らない。
「優秀な人間は、いつも正しい判断をする」
それだけ言うと歩き去った。
足音が遠ざかる。
やがて闇に溶けるように消えた。
ユウは一人残される。
完成した拳銃を手に取った。
冷たい金属の感触。
天音は何を選んだのか。
まだ分からない。
だが一つだけ分かった。
監視官は何かを知っている。
そして、それを止める気も。
変える気もない。
胸の奥に残るのは答えではない。
確信だった。
戦場で最も当てになるもの。
説明のつかない嫌な予感が、
もう予感ではなくなっていた。
祈りと呪い
コメント
5件
おお、第10話……「静かな確信」か。タイトルめっちゃいいな。 監視官が去ったあとの静けさと、ユウの胸の内だけで畳みかける構成、すごく雰囲気出てたわ。 特に「説明のつかない嫌な予感が、もう予感ではなくなっていた」って締め、ゾクっとした。答えじゃなく確信を得るっていう流れ、硬派で好きだな。冷たい金属の感触とか、ディテールで情景が浮かぶから、没入しやすかったわ。次どうなるんやろ……続き楽しみにしてる🔥