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パラディソスとは何なのか。

それをアリィは聞くことが出来なかった。

アリィはノアの方を恐る恐る見る。

ノアの表情は無だった。笑みも悲しみも怒りも無い。それでも肌に直に感じる錯覚に陥るほどにノアの激情がアリィに、伝わる。否、アリィのみでは無い。この場にいる全員に伝わる。

沈黙が続く。誰も彼もこの状況を続けたい訳ではない。口が開かないのだ。

1秒1秒が10分20分と長く感じる。

沈黙は第三者によって、打ち破られた。

扉を先程から、ノックをする音が聞こえる。

音は大人しく、それでいて回数はしつこく。

傾「何故立てこもる。匂いで居ることくらい分かる。隠れんぼに付き合ってやる義理は無いが。」

アリィ「…け…」

傾の言葉に、ようやくアリィは口が開けるようになる。だが、アリィが言葉を発する前にシリルが遮って言葉を紡ぐ。

シリル「『狼牙ろうが』…!?」

傾「早く開けろ。」

アリィ「…開けてもいい?」

イリア「構わないわ。」

アリィはイリアの許可をとり、扉を開ける。

傾「…色々言いたいことはあるがまずは…」

そう言いながら、傾はノアに目をやる。

傾「ふん。」

そして思い切り刀の鞘でノアの頭を叩く。

ノア「いっっった!」

その瞬間、重苦しい空気が消える。

傾「傲慢な愚者だな。殺気というものは、同等かそれ以上の相手に使い、プレッシャーを与えるものだ。それを弱者に使うとは…ガキ虐めが趣味か?悪趣味なことで。」

ノア「…ごめん。」

傾「お前らは宿を取るだけで一体どれ程時間がかかるんだ。待ちくたびれてこちらから来ることになったんだぞ。 」

アリィ「あれもうそんなに?」

傾「時間の感覚も分からないのか。今までどんな不規則な生活を送ったのやら。」

アリィ「ぐ…」

傾「部屋は?」

アリィ「…取ってはあるよ。」

アリィはぐっと怒りを堪え、傾に伝える。

アリィ「この部屋から左に4番目。」

傾「よし、ガキは部屋にいろ。」

アリィ「……。」

アリィはイリア達に目をやり予約した部屋に行くかを迷う。

傾「ここには俺の知り合いが居る。悪いようにはせん。」

アリィ「…それ本当?」

傾「俺は嘘をつかん。早く行け。」

アリィ「…分かった。ノアは…」

傾「こちらで話すことがある。ガキはその足をどうにかしろ。」

アリィ「足…?」

アリィは訳が分からないまま、部屋に行く。

傾「次はお前だ。『黒馬こくば』。 」

シリル「『狼牙』…。相変わらず言葉の切れ味が、高いね…。 」

傾「ふん。…発作か?」

シリル「ご名答…。」

傾「お前は何者だ?」

そう言い、傾はイリアの方を見る。

シリル「…手を出さないでよ。味方だから…」

傾「分かった。…くたばっていたらどうしようかと考えあぐねいていた。」

シリル「…無事で良かったって…素直に言いなよ。」

イリア「えっと…」

シリル「イリア、紹介するよ…このヒトは…」

傾「お前の声は高くて耳に響く。黙ってろ。」

シリル「…はいはい。」

傾「俺と『黒馬』は血は繋がっていないが、家族のようなものだ。のっぽ、コイツはお前が悪魔ってこと知ってるのか?」

ノア「知ってるよ。…確か。」

傾「確か…?まぁいい。要は同じフェニックスの一員だ。以上。」

イリア「じゃあシリルはこれで…。ちゃんと…家族に再会させることが出来て良かった…。」

イリア(これでもう私は…)

傾「のっぽ。『梟』から連絡があった。お前はコレを直せるんだろ。後で直せ。」

ノア「分かった。…え?明日でいいの?」

傾「このザマの人間を、運べると思うか?足手まといになる。なら本人が動けるようになってから、迎えを頼む方がいい。」

ノア「そういうものなんだ…。」

傾「部屋に行くぞ。」

ノア「あ、うん。」

すたすたと歩く傾に、ノアは慌ててついて行く。


一方その頃アリィは、傾に言われた足を見ていた。

アリィ「…特に何ともないけど…」

そう言いながらアリィは左足をまじまじと見る。

アリィ「…もしかして右足?」

アリィは右足を見る。

アリィ「え待って嘘!?」

アリィは右足を見てようやく気付く。右足に巻いていた布が破れており、貫通するように火傷した右足に血を流している切り傷があるのを。

アリィ「全然気付かなかった…自覚したらちょと痛い…。傷は包帯を巻けばいいけど…布が破れちゃったのはショック…はぁ…。」

アリィが落ち込んでいるとガチャっと扉か開かれる。

アリィ「あ…終わった?」

傾「一先ずはな。のっぽは寝てろ。」

ノア「うん。」

傾はアリィの手に握られている布に気付く。

傾「流石にようやく気づいたか。 」

アリィ「よく見てたね…私が怪我してるの。自分でも気付かなかったのに…」

ノア「匂いで気づいた。血の匂いは分かりやすい。」

アリィ「…多分だけど、この村に急いで来たのは、私の血の匂いに釣られてる猛獣が居たからだよね?」

傾「それもある。が、もう1つある。 」

アリィ「もう1つ?」

傾「これがお前らのとこに戻るのが遅くなった理由だ。」

そう言い、傾は大きな風呂敷をアリィに突きつける。

アリィは大人しく受け取り、風呂敷を慣れない手つきで開ける。

アリィ「…服?」

傾「これからはその服を着て動け。それと顔隠し用の面だ。」

アリィ「因みになんのお面?」

傾「祭りじゃないんだが?狐だ。」

アリィ「服に顔隠し…てことはイドゥン教が他にも居るの?」

傾「直接見た訳じゃないが、会話内容からしてイドゥン教で間違いない。テオスを連れて行った奴らとは特に面識は無さそうだ。経験上、奴らは少人数のチームでそれぞれの任務にあたることが多い。」

アリィ「分かった。…ところでこれどう着ればいいの?」

傾「…誤魔化すことばかり意識していたな。のっぽ、やっぱり起きろ。」

ノア「ん〜?」

傾「お前は外見からして、記憶のナントカだろう。着付の方法は分かるか?」

ノア「分かるけど…なんでボクに?君だって着物着てるんだし、着付の仕方分かるでしょ?わざわざボクを起こす理由なんて…」

傾「俺はガキの体を見るのが不快だ、以上。」

ノア「……あぁそういうこと…。」

ノアは何かを察したのか1人納得する。

ノア「アリィおいで。着方教えてあげる。」

アリィ「うん。」

ノア「…あれこれ丈が短いね?珍しい…。」

傾「それは俺が手を加えた。女の着物の性質上、元丈では歩くのが遅くなる。」

ノア「…サラッと凄いこと言ってたけど、もしかしてなんでも出来たりする?」

傾「家事全般、戦闘はできる。…思い返してみると出来なかったことはあまりなかったな。 」

アリィ「それは凄いと思うけど…出来なかったことが余計気になる…。」

傾「面白い話じゃない。部屋は1部屋しか取ってないのか?」

アリィ「うん。今までそれで事足りてたし…もう1部屋取った方がよかった?」

傾「…お前は…危機管理能力を身につけることを推奨する。俺は今からもう1部屋を取る。」

そう言い、傾は部屋を出る。

アリィ「ねぇノア。」

ノア「なに?」

アリィ「…私ってそんな危なっかしい?」

ノア「そうでもないと思うけど…傾って、もしかしたら言い方がキツイだけで、案外優しいかもよ。」

アリィ「アレが?ちょっとありえないかな…。」

ノア「そっかぁ…。」

アリィ「待ってごめん、今の動作もう1回やって。」

ノア「難しいよね。」

アリィ「うん…。あそうだ。もしかしたら名前がバレてる可能性もあるし…偽名にした方がいいかな。」

ノア「そっか。アリィって悪魔として指名手配受けてるもんね。うん、イドゥン教なら名前を知っていてもおかしくないね。」

アリィ「そう。…ちょっと癪だけど後でケイに聞いてみる。」

ノア「今考えないの?」

アリィ「この服を着てるトスク国の人達と同じような名前にしないといけないから。じゃないと違和感感じちゃうし…」

ノア「確かに…。ボクも後で見た目を変えないと。」

アリィ「傾はノアの分までは服を用意してないみたいだから、後で買いに行こう。 」

ノア「必要ないよ。傾が用意しなかったのはわざとだね。」

アリィ「…え、嫌がらせ?」

ノア「あはは、違う違う。前にアカネ君の件で、再現魔法のこと教えたでしょ?」

ノアは声を落とし、アリィにそう聞く。

アリィ「うん。」

ノア「あれって例外を除いてやっぱりボク限定なんだけど…外見にも使えるんだよ。」

そう言いながらノアだった目の前の人物は、アリィへと姿を変える。

アリィの姿をしたノア「ほらね。…実はポルポルとしての姿も、この魔法が関係してたりする…」

アリィ「何それすごい…!!」

ノア「…まさかそこまでキラキラした目で見られるとは…。まぁ当たり前だけど見たことあるヒトにしか無理だね。にしても…」

(傾はボクの魔法のこと、外見のことを知っていた。外見は有名だから分かるにしても、魔法のことはフェニックスしか知らない。そこまで分かるなら普通はフェニックスなら性別もわかるはず…でもボクのこと、女性だと思ってた。 )

ノア「…もしかして…」

傾「着付は終わったか?」

扉からノック音が聞こえ、次に傾の声が聞こえる。

ノア「うん。ちょうど終わったところ。」

傾「開けるぞ。」

アリィ「……凄い見るじゃん。」

傾「…今はノアの着付けか?」

アリィ「いや自分でやった。やれないとダメだし…」

傾「なら問題ないな。部屋のことだが、左隣の部屋が取れた。俺はそこで寝る。」

アリィ「ずっと気になってたんだけど…ケイって羽織取ったりしないの?」

ノア「あ、それボクも気になってた。」

傾「いやのっぽは普通気付く…いや。お前相当な数の記憶を…」

ノア「まぁそうだね。」

傾「道理で…」

アリィ「羽織のことは話さないの?」

傾「面倒事に巻き込まれたくなければ、知らない方がいい。」

アリィ「十分巻き込まれてるし、今更。それとも、ただの趣味? 」

傾「こんな窮屈な趣味があってたまるか。」

アリィ(やむを得ず羽織を被ってるってこと…?もしかして…)

アリィ「…獣人?」

傾「あぁそうだ。俺はこの国の生まれで、兎の獣人だ。これがどういう意味か分からないほど、流石に馬鹿じゃないだろ?…出来ればこんな国2度は御免だったがな。」

アリィ「兎の…」

ノア「…アリィ、意味は…」

アリィ「獣人の話は有名だから分かるよ。」

傾「オマケに俺には擬態毛ぎたいもうがない。故に外せん。 」

ノア「擬態毛がないだなんて珍しいね。ボク初めて見たかも。」

傾「…だろうな。」

これは私自身が経験した話じゃない。お母さんから聞いた話だ。昔、獣人は酷い差別を受けていたらしい。差別理由はよくある話。自分達と違うから。その差別をほとんど無くしたのは、かつてのセヌス国王らしい。それでも全ての嫌悪感を無くせるわけじゃない。現に今でもトスク国は酷い差別が続いている。だからかいつからか、獣人達は擬態毛と呼ばれる毛が生えるようになった。かつての天敵であった人間と同じような顔周りや腕などに生える肌色の毛だ。

アリィ(…しかもケイはトスク国の生まれと兎を付け足した。)

兎の獣人は繁殖能力の高さから色欲魔と揶揄される。女性ならまだ価値はあるが、男性となればろくな扱いを受けない。この国から出られるわけが本来ない。

アリィ「…何でそんなリスクを背負ってまで…」

傾「それが『鴉』の命令だからだ。で、他に聞きたいことはあるか?今は気分がいいから答えてやる。」

アリィ「あ、そうだ。偽名のことなんだけど…」

傾「あぁなるほど。」

傾はアリィの一言で何かを察する。

傾「適当に杏とかでいいんじゃないか。珍しい名前でもない。」

アリィ「じゃあアンって名乗るようにするよ。」

ノア「ボクも聞きたいことがあって。」

傾「なんだ?」

ノア「ボクらアヴィニア人は君達フェニックスにあらゆる資料を今まで渡してきた。その中にはボクのことも含まれていたはずなんだけど…君はボクのことを1部しか知らなかった。もしかしてなんだけど…間違えて捨てちゃった?」

傾「…いや、そんな大事なもの普通は間違えて、捨てるようなとこに置かないだろ。」

ノア「…そうなの?」

アリィ「…前科あるでしょノア。」

ノア「……。 」

アリィの冷たい目線からノアは目をそらす。

傾「詳しいことは『鴉』しか知らない。俺達は話に聞いただけでその場にいた訳じゃないが…昔『鴉』が1番の新人だった頃、フェニックスの拠点にイドゥン教の襲撃があったらしい。その時の戦で、多くの資料は焼け落ちてしまったらしい。同時に他の当時のフェニックスメンバーも。ところで俺が知らないのっぽの情報とはなんだ?」

ノア「ボク性別ない。」

傾「そうか。」

アリィ「意外とあっさりしてる。」

傾「…お前達はそんなことまで、わざわざ記録されるのか??」

アリィ「あ全然納得いってなかった。」

ノア「そうだよー。」

傾「うわ…。」

ノア「くだらない記録も案外役に立ったりするから!」

アリィ「くだらないって言っちゃってるよ…。」

傾「哀れな奴…。」

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