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「今他にそういう相手いないし」
「あっ、そう、なんだ」
そっか。
今特にそういう特定の相手いないんだ。
「ってかさ。ここ会社じゃないし」
「うん。わかってるよ」
「だからさ。その呼び方やめない?」
「呼び方?」
「今はプライベートなんだし、下の名前で呼んでよ」
「いや、でももう早瀬くんのが慣れてるし」
実際、改めて下の名前で呼ぶのが照れて呼びにくい。
「ダメ。ドキドキし合う関係なんだし、そこはちゃんとそっちも呼ばないと」
えっ、どっちがドキドキ?
って向こうがドキドキするはずないか。
私だけ更にドキドキさせたいってヤツね。
「慣れないな~」
「慣れなくても仕事じゃなければ呼ぶのが条件ね」
「何その条件」
なぜかそここだわるんだな。
なんか納得いかないけど、呼ぶまでずっと言いそうだしな。
「わかった。で、コーヒーはブラックでいい?樹くん」
「ブラックで。ってか、そこ、”くん”いらないから。樹ね」
うっ、そこはくん付けで自然に呼ぼうと思ったのに。
「くん付けでいいじゃん。会社では早瀬くんなんだし」
「会社ではそれでいい。でも会社以外ではちゃんと違いつけないと。呼び捨てで」
絶対そこ譲らないな。
違いつける意味もよくわかんないけど・・・。
とりあえずあんま呼ばないようにして、雰囲気や流れで挑んでみるか。
「ハイ。ブラック」
「どうも」
入れたコーヒーを早瀬くんに出して、再び料理再開。
「今までさ~こうやって彼氏に手料理作ってあげたの?」
するとコーヒーを飲みながら尋ねられる。
「あぁ。うん。たまにね」
「へ~」
「忙しい人だったからそんなしょっちゅうではなかったけど」
「へ~」
聞いたくせに薄い反応。
「オレなら嬉しくて無理やり時間作ってでも手料理食べたいけど」
「えっ?早瀬くんそんなタイプなの?意外」
「樹ね」
「あっ・・」
つい呼び慣れた言い方で呼んでしまう。
「オレ、なんだと思ってんの?そんないい加減な男に見える?」
確かに、イメージだけで勝手にそう思ってるだけなのかも。
遊んでるって勝手に思ってるだけで、どんな恋愛してきたのか全然知らないし。
「見えたっていうか、勝手にそう思ってた・・」
「オレの何も知らないのに?」
「だよね。出会い方と噂で出来上がったイメージ・・?」
「噂やイメージなんて誰かが勝手に作り上げたモノなのに。それがホントのオレとどれだけ一致してるかなんてわかんないよね」
確かにそこに本来の姿があるかどうかは実際はわからないけど・・。
「てか透子は逆にあの出会いは運命的だとは思わないワケ?」
「それこそ意外!またそんなこというタイプなんだ」
なんかイメージ違うことばっか言ってビックリ。
「出会い方なんて、一つの単なるきっかけなだけ。要はオレが実際どんな男なのかが肝心だと思わない?」
「まぁ、確かに・・」
「実際、オレが想像通りの悪い男なのか、そうじゃないのか。・・・どう思う?」
答えに困る質問を投げかけられる。
実際、今の私はどう思ってるんだろう。
きっとホントに悪い男だと感じているなら。
多分こんな関係そもそも始めていないような気がする。
最初に出会った時から、この人の纏う雰囲気や言葉に魅力を感じていたのは事実で。
それが悪い男なのか、そうじゃないのかということ以上に、どんな人物なのかを知りたかったのかもしれない。
「どう答えるのが正解?」
まだ自分的に答えが出なくて逆に聞き返してみる。
「さぁ?それは自分でじっくり確かめるしかないね」
そしてやっぱりこの人はそうやって曖昧にして答えをくれない。
「じゃあ、ホントに悪い男なら追い返さないと」
だから私も今は答えを出さない。
「じゃあ、今日はどちらのオレか楽しんで♪」
そしてまた上手く逃げる彼。
結局噂やイメージだけでなく、元々秘密めいた雰囲気を持っているこの人は、きっとなかなか本当の自分やすべてを見せない人。
それを遊び感覚で楽しんでいるのか、それとももっと違う真実を隠しているからなのか。
だからきっと私も本気にならず楽しむしかない関係なのかもしれない。