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体育が終わり、気づけば俺(というか川瀬以外の全員)は汗だくだった。
流石に洗って返そうとは思っていたが、にしても人の服を自分の汗で濡らす罪悪感は存外大きなものだった。
(もうクリーニングにでも出そうかな……)
そんなことを考えていると、同じく汗を垂らし息せき切る悠が抱きついてきた。
「優光ー!!!お前ちょっとは手加減しろよなー!」
「ごめんごめん、、ってあっちぃよ!!!」
一人で立っているだけでも暑いのに、密着されたらもう熱気がすごい。蒸される小籠包の気持ちがわかった気がした。
「つーかさ、お前それいつ返すの?」
「いやそこなんだよなぁ。明日から1週間休みだし」
そう。うちの高校は毎年5月半ばに1週間ほどの自宅学習期間が設けられるのだ。よりによって明日からその期間に入る。
(2人が1週間後でもいいなら良いんだけど、、、一応聞いてみるか)
そう思って俺は近くにいた川瀬の元に走った。
「川瀬ー!あのさ、これ(半ズボン)返すの1週間後でも大丈夫?」
「全然いいよ〜、あ、てかゆう来週どっか空いてる?」
「よかったー….ん?うん空いてるけど…」
川瀬はいつの間にか俺のことを「ゆう」と呼ぶことにしたらしい。(“優”光からだろう。)
…そういえば宇野のことも「かげ」って呼んでたな。
「ないす〜!!さっきさ、俺と奏とかげで来週ゆうも誘って遊園地行こって話してたんだよね〜」
いや待て待て待て。なんで俺がそのメンツに含まれているのだろう。3人の横に並んで歩くのを想像するだけで、周りから比較され嘲笑される光景が浮かぶ。
「ま、まじで言ってる…?」
「まじまじ!」
「なんで俺?」
「うーん….なんていうか、俺ら3人とも、なーんか周りから一線引かれてんじゃん?」
…..それはまあ、見ててわかる。他の生徒たちは皆、3人と仲良くなりたいという思いはもちろんあるが、どうしてもその一般人離れしたルックスに対してアイドル視してしまうのだろう。
そう考えると、この3人は確かに人気者だが、”友達”と呼べる相手は少ないのかもしれない。
「うーん…まぁ、うん。」
「だからさ、変に遠慮せずにふつーに接してくれるゆうが新鮮で、もっと仲良くなりたいな〜って俺たちなりに考えたんだけど….やっぱだめ?」
川瀬は首を少し傾けて、困り眉でそう言った。
川瀬にこんなふうに言われて断れる人間がいるだろうか。何より俺自身、仲良くなりたいと誰かから真っ直ぐ言われるのは初めてのことで、純粋に嬉しかった。
「だめじゃない。….3人が良いなら、よろしく…?」
「よっしゃー!!!じゃ、LINE繋ご!グループ作っとくから!」
OKした途端さっきまでのしおらしさは何だったのかというほどグイグイ来る。
すると少し遠くにいた倉井と宇野が入ってきた。
「奏、かげ!ゆう来れるって!」
川瀬が俺とLINEを交換したばかりのスマホをかざしてVサインをすると、先にリアクションしたのは倉井の方だった。
「優光、ほんとか?」
「え、うん全然。俺でいいなら。」
「そっか」
言葉は淡白だが、柔らかく笑うその表情にはとてつもない安心感があった。倉井の周りは比較的穏やかに時間が過ぎ去っているような、そんな感じがする。
するとダボダボのジャージの裾を宇野が少し引っ張った。
「来橋、ほ、ほんとにいいの?」
「もー何回聞くんだって笑笑、全然いいし嬉しいよ」
目を見開き段違いで驚いていそうな宇野が面白くて、返事をしながら笑みが零れてしまう。
「….よかった」
宇野はまた少し口角を上げて、心底嬉しそうに、噛み締めるように俺を見つめた。
(……あ。これ、あの時と同じだ。)
2週間前のあの日。俺と宇野が初めて話した日。
同じクラスだとわかったときの、あの表情と重なった。
「宇野さ、そっちのがいいよ。」
考える間もなく口が勝手に動いていた。
「…え?」
当たり前に困惑する宇野に、俺は続けて言った。
「いや、なんていうか……宇野も笑うんだなー…みたいな?あいやごめん俺きもいこと言ったかも、まぁでもなんていうか…笑顔が優しくて、俺好きだよ」
もはや自分が何を言ってるかも分からなかったが、黙りこくる訳にはいかないのでべらべらと言葉を紡いだ。
すると宇野はまた少し目を見開いて、今度は手で顔を覆いしゃがみ込んだ。
「え?え?!ごめん俺そんなキモかった!?」
あまりのキモさに急激に体調を崩したのかと思い全身の血の気が引く。
すると川瀬がケタケタ笑いながら、
「あーあゆうやっちゃったね〜」と茶化してきた。
それに便乗して倉井も、「おう、これはやったな」とニヤついた。
肩を組んで笑う2人が今は悪魔に見えた。
「えっちょ、ど、どうしよう?!」
とりあえず俺はしゃがんで宇野の顔を覗き込んだ。
どこを悪くしたのか分からなかったので、とりあえず背中をさすって恐る恐る聞く。
「ご、ごめん宇野まじでごめん。保健室いく…?」
すると宇野は背中をさする俺の腕を引っ張り、顔をちかづけた。
「…….そういうの、俺以外にやらないで」
「え?そ、そういうのって….てか体調は…!!」
至近距離にある国宝級の顔面に激しく動揺しながら言葉を捻り出した。
「体調は悪くない….むしろ嬉しくて….顔緩んでるのみられたくなかっただけ….。ていうか来橋…他の人にもこんな距離許すの?」
少し顔を赤くして眉をひそめて言ってきた。
そう言われてみれば。どうしてここまで近づかれて少しも不快感がないのだろう。人との距離が近い自覚はあるが、吐息がかかるほど近づいたのはこれが初めてな気がする。
「いやここまではねえよ!!宇野が初めてだし俺もよくわかんないし!!!!」
勢いに任せて言うと、宇野はまた嬉しそうに微笑んだ。
「….うん、他の奴はダメだよ、危ないから。」
「お….おう….?」
「も〜、俺たちのこと見えてる?いちゃつきすぎ〜」
どうしたらいいか分からず硬直していると、川瀬が割って入ってきた。正直とても助かった。
倉井が俺と宇野を立たせ、川瀬が宇野にデコピンした。
「っ…..」
「かげ飛ばしすぎ、ゆう完全にパンクしてるから」
腰に手を当て、呆れた表情をする川瀬に宇野は素直に頷いた。
チャイムが鳴る時間も迫っていたので、俺たちは急いで着替えて教室に戻った。
そして学校が終わり家へ帰ると、すぐにスマホに2通の通知が届いた。
『RUKAがあなたをグループに追加しました』
『影人、奏があなたを友達追加しました』
その通知を見た途端、今までの出来事が現実味を帯びてきた。
(あの3人と仲良くなれて、だんだん気まずさもなくなって、遊びに誘われて….)
そう思い返している間も忙しなく溜まり続けるグループの通知に、思わず吹き出した。
「なんか、楽しみだな」
気づくと俺はそう呟いていた。