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20 - アリスと加奈、真奈のその後語り・ふたりめ

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2024年07月12日

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「やふーっ!」

 そんな意味の解らない叫び声とともに、真奈はばふっと勢いよく、アリスのベッドに飛び込んだ。

「ちょっと! ホコリが舞うからそんなことしないでよ、真奈!」

 私がたしなめると、それを見ていたアリスが、

「まぁまぁ、そんなに怒らないであげて」

 と優しく私に声をかけた。

 アリスが予定していたよりも少し早く魔女集会から帰ってきた夕暮れ過ぎ。

 今にも泣きだしそうな顔でうちに来た真奈は、ろくに説明もしないまま「とにかく着いて来て!」とアリスの腕を引っ張り連れて行ってしまった。

 私は何が何だかわからないまま置き去りにされ、夕飯の準備をしながらふたりが戻ってくるのを待っていた。

 真奈は私の妹である真帆の娘で、アリスの事を魔法の先生、あるいは師匠と呼んで懐いている。実は真帆も真奈も魔法使い――つまり魔女であり、母親である真帆から魔法を習えばよいものを、真奈は「アリスさんがいい!」と言って聞かず、こうして度々アリスのもとを訪れてはアリスから魔法のいろはを学んでいた。

 ちなみに、私にも魔法の素養はあるらしい。私と真帆の母も、そして祖母も、さらに言えば曾祖母も、うちは代々魔女の血筋だったそうだ。アリス曰く、私にも真帆や真奈と同じような魔力の色を感じるという。とはいえ、私自身、子供のころから魔法というものにまるで魅力を感じていなかった。実家が魔法を売る店を営んでいるというのに、私はそんな実家のことにすら興味を持たず、普通に学校を卒業して、普通に就職して、今もこうして普通に(?)仕事に行ったり家事をしたり、そんななんて事のない日常を送っているというわけだ。

 実家の魔法屋を継いだのは妹の真帆で、その娘である真奈もまた真帆に似て魔法に対する好奇心は旺盛だった。

「また真奈が勝手に魔法道具を持ち出してイタズラばかりしているんです。何度注意しても聞かなくって…… いったい、どうしたら良いんでしょう……」

 とたまに愚痴をこぼす真帆だったが、私はその度にこう返していた。

「そんなの、真帆だって一緒だったでしょ? おばあちゃんにかけてた迷惑が、今度は自分に返ってきてるんだよ。まぁ、おばあちゃんの苦労を考えながら頑張りな、お母さん」

 だからだろう、真帆も真奈が「アリスさんから魔法を習いたい」と言い出した時、反対はしなかった。むしろアリスさんなら安心だろうと、ほっと胸を撫でおろしていたくらいだ。

 私はそんな真帆に、

「あんたね、自分の子供の面倒くらい、ちゃんと自分で見なさいよ」

 と言ってやったのだが、

「まぁまぁ、私は大丈夫だから」

 そうアリスに言われては、それ以上何も言い返せなかった。

 以来、真奈はこうしてうちの家に入り浸っているというわけだ。

 特に今日はアリスと一緒に帰ってきたときにはすでに辺りは真っ暗になっており、

「明日は学校お休みだし、今日は泊っていくね!」

 嬉々として言い出した真奈に私は、

「何なら家まで送ってあげるけど?」

 あえて意地悪く言ってやったのだが、それに対して真奈はアリスの腕にしがみつきながら、

「いい! 今日はアリスさんと一緒に寝るの!」

 アリスも嬉しそうに「あら、あら、あら」なんていうものだから、結局こうして三人、一緒にいるというわけだ。

 全く、真奈を見ていると真帆の子供だった頃を彷彿とさせて、なんだか無性に心配になってくる。精神衛生上、正直あまりよろしくはない。と言って、別に真奈が嫌いというわけじゃない。真奈は真帆に似て可愛らしいし、大切な姪っ子だ。だからこそ、真帆の時と同じようにどこか過保護になってしまい、まるで口うるさい母親のように注意をせずにはいられなかった。

「で、今日は何をやらかしたの、真奈」

 訊ねると、真奈はどこかムスッとした表情で、

「……勝手に魔法を使って、失敗したの」

「また?」

「だって、直せると思ったんだもん!」

「真帆にもアリスにも言われてるでしょ? まだ人前で魔法を使うには早いって。真奈はまだ修行中なんだから」

「わかってるよ!」

 と真奈は大きく答えて、それから小さな声で、

「だって……人が困ってるの見たら、助けてあげたいって思うでしょ?」

 そう答えた真奈は、まったく嘘を言っているようには見えなくて。

「――なるほど」

 私はため息とともに、横になっていたベッドから立ち上がり、すぐ隣のベッドで仰向けに寝転がる真奈の頭をくしゃくしゃしてやる。

「なになに? やめてよ! せっかくアリスさんに梳かしてもらったのに!」

「良い子だな、お前は! 誉めてやろう! ほれほれ! よしよしよしよし!」

「もう! やめてってば! 犬じゃないんだから!」

 はははっと笑って、私は真奈から手を放して、自分のベッドに腰かけた。

 やってしまったことはどうあれ、その動機が『困っていたから助けてあげたかった』というのであれば、これ以上怒るわけにもいかないだろう。たぶん、アリスもそれなりに注意しているはずだ。真奈のそういう良いところは伸ばしてあげないといけない、私は常々そう思っていた。

「アリスさん! もう一回! もう一回髪梳かして!」

「はい、はい」

 にこにこしながら、アリスは真奈の髪を再び梳かし始めた。

 こうしてふたり並んでいると、どことなく姉妹に見えてくる。それくらい、アリスの見た目は幼かった。とても仲の良い姉妹。わがままな妹の面倒を見ている、心優しいお姉ちゃん、そんな感じだろうか。私と真帆の関係とはまるで違う。私はどうしても口うるさく言ってしまう方だから、とてもアリスみたいにはできなかった。こんなお淑やかなお姉ちゃんになってみたかったなぁ。

「はい、できました」

「ありがとう!」

 真奈は言って、アリスの体にすりすり顔をうずめる。

 やれやれ、真奈もまだまだお子ちゃまだなぁ。

 さて。

「そろそろ電気消すよ?」

「はい」

「は~い」

 ピッ、とリモコンの消灯ボタンを押し、部屋の中が真っ暗になる。

「あ! 小さいの! 小さいのは点けてて!」

「え? 小さいの?」

「オレンジ色の! 小さいの!」

「あぁ、はいはい」

 もう一度ピッとリモコンを操作して、オレンジ色の常夜灯を点灯させる。

 それから私はちょっと馬鹿にするように、

「真奈、まだ暗いのが怖いの?」

「……怖くないもん」

「じゃぁ、点けなくても大丈夫じゃない?」

「……」

「消していい?」

「…………ダメ」

「加奈、意地悪しないであげて」

 アリスに叱られて、私は大人しく「はい」と答えて謝った。

 さすがにちょっと大人げなかったか。反省。

 まぁ、どのみちいつも常夜灯は点けっぱなしで寝ているんだけれども。

 それからしばらくして、先に真奈が眠りに就いたのか、穏やかな寝息が聞こえてくる。なんとなく寝ている真奈の顔を覗き込むと、子供らしい可愛い顔ですうすう胸を上下させていた。

 子供というのは、こうして大人しく寝ていると無性に可愛く見えるのはどうしてだろうか。その寝顔も、真奈が生まれたころとほとんど変わっていなかった。あの、赤ちゃんの頃と同じような顔をしているのだ。この寝顔も、真奈が成長していくのに従って大人っぽくなっていくんだろうな、と思うと、なんだかちょっと寂しい気がした。

 時が経つのは本当に早い。この歳になると、その感覚はより一層増していた。

 あっという間に時間は過ぎていって、姿かたちも変わっていって――

「……どうしたの?」

 まだ寝ていなかったアリスがぼんやりと瞼を開き、そう訊ねてくる。

「ううん。真奈の寝顔、可愛いなって」

「ふふっ、そうね」

 アリスも上半身を軽く起こして、私と同じように真奈の顔を覗き込んだ。

 その姿は、まるで聖母のように美しくて。

「――おやすみ、アリス」

「おやすみなさい、加奈」

 どちらともなく手を重ね合わせて、私たちはほほ笑んだ。

 どんなに時が経とうとも、決して変わらないものもあるはずだ、そう思いながら。

 ふたりめ・了

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