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バサバサ、という音で4人が一斉に振り向いた。発する元は、樹が左腕に抱えていた書類が床に落ちたことだった。
「大丈夫ですか、田中さん」
慎太郎が拾い上げ、渡す。
「サンキュ、慎太郎」
北斗より一足先に退院した樹は、仕事に復帰したが報告書の作成に追われていた。まだギプスのままの右手は使えないので、パソコンで作業している。
「ったく、印刷するのとかめんどいんだけど。俺利き手封印されてんだぜ?」
「パソコン使えるだけマシだろ」と高地に言いくるめられ、「さーせん」と首を引っ込める。
「そういえば、摘発はできるんですか? ほかの構成員の罪状も調べりゃ山ほど出てくるでしょ」
ジェシーが訊いて、大我が答える。
「それは四課に任せるしかない。俺らはなんも聞いてない」
「せっかく花形のー課が協力してやったっていうのに、手柄全部ぶんどっていきやがった…」
再びつぶやいたのは樹だ。
「まあまあ、事務所割ったっていうのはすごいだろ。ね、俺らは俺らの仕事に集中するだけ」
高地がまたなだめる。
「早くもっと面白い事件起きないかなぁ」
大我の一言で、口の減らなかった3人が静まり返る。
「……何てったってここは警視庁なんですから、すぐ来ますよ」
慎太郎だけがいつものようにニコニコと笑っていた。
そのときはまだ、あんな事件が降りかかってくるなんて思いもしなかった——。
ー週間後。
北斗も無事退院し、ようやく京本班は全員のメンバーが揃った。しかしあるのは事務作業のみ。
現場作業派のジェシーや樹、大我はずっと文句を言っている。
「今日ずっと調書なんだけど。ほんっとに飽きてきた」
主任の愚痴に取り合う班員は、今のところ誰もいなかった。
「…やっぱり事件があったほうが張り合いがあるな」
そこで、やっと高地が口を開く。「大我うるさい。集中できない」
上司と言えど毒舌な彼に、黙々と手を動かす北斗と慎太郎も笑みをこぼす。
「あと事件起きたあとは絶対調書作んないといけないから。何年警察やってんの」
「そうだった…」
がっくりと項垂れたところで、大我の卓上に置いてあるスマホが鳴った。反射的に腕を伸ばして取る。
「はい、ー課の京本です。……え、総監? …ああ、前の総監が。……はあ⁉」
普段の大我からは聞かない声を聞き、5人が一斉に振り向く。そのとき、北斗が「いっ…!」と声を上げてコルセットをつけた胸を押さえた。
しかし当の主任は気づくことなく、ただでさえ白い顔を青白くさせて電話を握りしめている。
「……わかりました。それをうちが担当…。それは僕個人ではできないんですか。……当たり前ですよね。はい。じゃああすの捜査会議で。…はい」
スマホを耳から離すと、脱力したように椅子に座り込んだ。
「何があったんですか」
ジェシーが訊くが、すぐに口を開かない。やがて意を決したように5人を見据える。
「まずいことになった」
続く