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「まずいことになった」
何がまずいのか、5人にはわからない。でも大我の強張った表情に、みんなの顔も引き締まる。
「……前警視総監…、つまり俺の祖父が」
唇を歪め、言葉を絞り出した。
「行方不明になったらしい。しかも、警視庁のトップしか知らない文書がなくなってるって」
水を打ったような静寂が広がった。
「……電話は誰から?」
小さく問うたのは高地だ。
「親父…現警視総監。昨日、じいちゃん家に帰ってきてないと思ったんだよ。どうせ飲みに行ってるんじゃないかって」
そう言った大我は、悔しそうに拳を握りしめた。
「…文書っていうのは」
北斗の声に、ゆっくりと顔を上げる。5人が見たことがないほど苦々しい顔をしていた。
「俺も知らない。でも、数十年前に起きた警察署の横領事件を記録した文章全てって。当時はまだ全部紙ベースだからな」
「え、おうりょー⁉︎」
驚いてジェシーが声を上げる。
「ああ。都内の署にいた巡査長が、警察の金を横領して私的に使ったとか。だけど本庁がもみ消して、不起訴になったって。ずいぶん前に親父から聞いたな」
「でもそれが、なんで前警視総監の失踪と関係があるんですか?」
樹が訊くが、大我は「さあ」と首をひねる。
「とりあえず、この班で捜査を進めてくれって言われたけど…。ひとまず身内の俺と親父でやる。みんなは今の事件に集中して」
京本班は、都内で起きた強盗殺人事件を担当しているのだった。犯人は凶器を持ったまま逃走していて、見つかっていない。
「わかりました。じゃあ、世間に公表はしないんですね」
慎太郎の声にうなずいた。
「なるべく穏便にしなきゃいけねぇな…」
大我がつぶやいたあとは、重苦しい沈黙が部屋を占拠する。それを突然蹴散らしたのは、軽快なメロディーだった。
「だあぁ、すいません。誰だろ、あっマミーだ。……Hello?」
ポケットからスマホを取り出したジェシーが、扉から出て行く。5人は呆れて笑うことしかできなかった。
「…しょうがねーやつだ。さ、聞き込みでも行ってくるわ」
高地が椅子の背に掛けていたジャケットを羽織り、「大我、行こう」と指名。2人が去って行ったドアの向こうでは「あっ俺も行きたいです!」という声のあとに、「仕事中はマナーモード。いい加減覚えて」といさめる声。
「……事の重さわかってんのかな」
樹が苦笑した。北斗も同様。「こっちの上役のことは知らなさそうだしな」
「にしても、なんでジェシーさんってFBIから来たんですか?」
問いかけた慎太郎に、振り返る。
「なんとか研修プロジェクトとかいうのらしい。いわば交換留学って感じじゃないかな」
へえ、とうなずいてもう一つ疑問を呈す。
「…どっちの人なんですか?」
「ハーフなんだって」と樹が笑う。「出身はここで、就職先があっち。来たときに言ってた」
だからか、と慎太郎は妙に納得した。日本語こそ流暢だが、時々アメリカの癖を感じていた。
「まぁ…、たまにはあいつを見習って気楽にいこうぜ。とりあえず今やってる事件を片付けなきゃ」
北斗が言って、3人は同時に部屋を後にした。
続く