テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,522
三文小説
2,432
「動くな!」
警察官たちの声が道路に響く。
車のドアが一斉に開けられ、犯人たちは次々と取り押さえられていく。
「被害者を保護!」
「救急隊を!」
無線が飛び交う中、一台のパトカーが現場へ滑り込んだ。
ドアが開く。
目黒と宮舘は車が止まり切る前から飛び出していた。
「あべちゃん!」
「翔太!」
二人は警察官に案内されながら、被害車両へ駆け寄る。
後部座席を見た瞬間、二人とも言葉を失った。
車内には、ぐったりとした渡辺を必死に抱きしめる阿部がいた。
阿部の足首は血で赤く染まり、左太腿には刃物が刺さったままになっている。
それでも阿部は、自分の痛みなど忘れたように渡辺を守り続けていた。
「翔太……。」
宮舘は思わず名前を呼ぶ。
救急隊員がすぐに車内へ入り、渡辺の意識を確認する。
「呼吸あります!」
「脈もあります!」
「先にこちらを搬送します!」
慎重に渡辺を担架へ乗せる。
その途中、渡辺がかすかに眉を動かした。
「……翔太!」
宮舘が駆け寄る。
渡辺は薄く目を開け、宮舘の姿を見つけると、小さく安心したように息をついた。
「……涼太。」
その一言だけ残して、再び目を閉じる。
「もう大丈夫。」
宮舘は担架の横を歩きながら、その手をそっと握った。
「俺がいる。」
「安心して。」
渡辺と宮舘を乗せた救急車のドアが閉まり、サイレンとともに走り出していく。
___________
目黒はその場から一歩も動けなかった。
目の前の光景が信じられない。
血に染まった足。
切れたアンクレット。
恐怖で震える阿部。
「あべちゃん……。」
声が震える。
救急隊員が阿部へ声を掛ける。
「今助けますからね。」
「動かないでください。」
阿部は小さく頷いた。
その時だった。
阿部がゆっくり顔を上げる。
視線の先には目黒がいた。
「……めめ。」
その一言と同時に、張り詰めていた緊張の糸が切れた。
涙があふれ出す。
「めめ……!」
阿部は震えながら目黒へ手を伸ばした。
目黒は迷わず車へ駆け寄る。
救急隊員に一言断り、阿部の手をしっかり握った。
「もう大丈夫。」
その言葉を聞いた瞬間、阿部は目黒へ抱きついた。
「怖かった……。」
声にならない嗚咽が漏れる。
「ごめん……。」
「翔太を守れなくて……。」
「俺が抵抗したから……。」
目黒は首を何度も横に振る。
「違う。」
「あべちゃんは悪くない。」
「絶対に悪くない。」
震える身体を壊れ物を扱うように抱きしめる。
「よく頑張ったね。」
「翔太くんを守ろうとしてくれたんだね。」
「ありがとう。」
阿部は目黒の胸に顔を埋めたまま泣き続けた。
目黒もまた、阿部の背中をさすりながら静かに涙を流していた。
救急隊員は二人の様子を見守り、優しく声を掛ける。
「処置を始めます。」
「ナイフは病院で安全に抜きますので、そのままで大丈夫です。」
目黒は頷き、そっと阿部から身体を離した。
「一緒に行く。」
「病院までずっと一緒だから。」
阿部は涙で濡れた目のまま、小さく頷く。
「……うん。」
「ありがとう、めめ。」
目黒は阿部の手を握り続けたまま、救急隊員とともに救急車へ乗り込んだ。
ようやく再会できた温もりを、もう二度と離さないように。
___________
救急車のサイレンが夜の街へ響く。
車内では救急隊員が慌ただしく処置を進めていた。
「血圧確認します。」
「点滴準備。」
「意識レベル良好。」
阿部は小さく震えていた。
痛みだけではない。
張り詰めていた緊張が一気にほどけ、身体の震えが止まらないのだ。
目黒は担架の横へ座り、阿部の手を強く握っていた。
「あべちゃん。」
「もう大丈夫。」
「警察が助けてくれた。」
「翔太くんも病院へ向かってる。」
「だから安心して。」
目黒は何度も何度も同じような言葉を繰り返す。
「俺がいる。」
「もう誰もあべちゃんを傷つけない。」
「大丈夫。」
「本当に大丈夫だから。」
阿部は小さく頷こうとするが、震えは止まらない。
「……めめ。」
「怖かった。」
「うん。」
「怖かったね。」
目黒は阿部の額にかかった髪を優しく払った。
「でももう終わった。」
「頑張ったね。」
「本当によく頑張った。」
その声も少し震えていた。
阿部はゆっくり目黒の顔を見る。
その瞬間、胸が締め付けられた。
目黒の顔は今まで見たことがないほど青ざめていた。
唇からも血の気が引き、握っている手もわずかに震えている。
阿部は少しだけ冷静になる。
(……めめ。)
(こんな顔。)
(初めて見た。)
目黒は必死に笑おうとしていた。
でも、その笑顔はどこかぎこちない。
阿部は震える手で目黒の手を握り返した。
「めめ。」
「ん?」
「俺……。」
「大丈夫だから。」
目黒はすぐに首を横へ振る。
「無理して喋らなくていい。」
「ちゃんと治そう。」
「それだけ考えて。」
阿部は小さく微笑んだ。
「違う。」
「俺だけじゃなくて。」
「めめも……。」
「すごく怖かったよね。」
その一言に、目黒の表情が固まる。
図星だった。
阿部が血を流している姿。
切れたアンクレット。
泣きながら抱きついてきた温もり。
それらが頭から離れない。
「……。」
目黒は言葉を失った。
阿部は優しく手を握り続ける。
「ごめんね。」
「怖い思いさせちゃった。」
「謝らないで。」
目黒はすぐに答えた。
「悪いのは犯人だ。」
「あべちゃんじゃない。」
「でも。」
「めめ。」
目黒は苦笑した。
「心配かけちゃったね。」
「俺の方こそ。」
「もっと強くならないと。」
阿部はゆっくり首を横に振る。
「強いよ。」
「めめは。」
「俺を助けに来てくれた。」
「それだけで十分。」
目黒は阿部の手をさらに強く握る。
「もう離さない。」
「絶対に。」
阿部は小さく頷いた。
その言葉を聞きながら、心の中で静かに考えていた。
(俺は大丈夫。)
(でも……。)
(めめは、この出来事をずっと引きずるかもしれない。)
(俺が怖かったように。)
(めめも同じくらい怖かった。)
阿部は目黒の震える指先をそっと包み込む。
(俺もめめを支えないと。)
(めめが一人で抱え込まないように。)
目黒の手を握ったまま目を閉じた。
離さないように。
今度は、自分が目黒の心も守れるようにと願いながら。
コメント
1件
読み終わりました……🥀 めめがあべちゃんを必死に守ろうとする姿と、逆に「めめも怖かったよね」ってあべちゃんが気づくところ、胸がぎゅっとなりました。お互いを支え合おうとする関係性が尊くて、重い空気の中に確かな温かさがある。アンクレットが切れた描写とか、細かいところまで丁寧で、すごく引き込まれました。みらさんの描く「闇の中の光」が本当に素敵です。続き、心から気になります🌙