テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹岸視点
都内某所のコンビニ。時刻は深夜。
客足はまばらどころか、店内にいるのは僕――鷹岸優斗(たかぎし ゆうと)だけだった。棚の商品を整える作業もとっくに終わり、完全に手持ち無沙汰だ。接客業のプライドで、どうにか欠伸を噛み殺す。
(暇だなぁ……)
~~♪~~♫
入店音とともに手動ドアが開き、僕はハッとして声を張り上げた。
「いらっしゃいませ!」
入ってきたのは、小柄で細身の僕から見れば、見るからに体育会系のガタイが良い男だった。眼光が鋭く、いかにも堅物といった強面。その威圧的な佇まいに、内心ビクビクしてしまう。
(もしかして、警察関係者か……?)
男は通い慣れた素振りで迷いなく棚へ向かい、商品を手に取った。
レジに運ばれてきたのは、醤油味のカップラーメンとコンソメ味のポテトチップス。わざわざ深夜に買うのがこれ? というツッコミは心の中に留め、バーコードをスキャンしていく。
いつも通りセルフレジでの会計を促した、その時だった。
『ねえ……ちょっといいかしら?』
不意に鼓膜を揺らした女性の声。
会計中の客の背後から聞こえたその声に、僕はただ「客の声」として無意識に応答していた。
「はい。どうしました?」
――そして、血の気が引いた。
僕が視線を向けた方向には、誰もいない。コンビニのガラス窓に映るのも、目の前の大柄な男一人だけ。
「しまった」と思ったが、もう遅い。
小さい頃からずっとそうだった。生きている人間の声と、死者の声。僕の耳には、その二つの区別がまったくつかない。どちらも同じように、生々しく聴こえてしまうのだ。
学生時代は「嘘つき」といじめられ、教師からは腫れ物扱いされ、挙げ句の果てには父親から激しい虐待を受けた。社会人になってからは、この能力を必死に隠して生きてきたはずなのに。
(また、ここにいられなくなる……)
全身の血が引き、指先一つ動かせない。絶望に支配されかけた僕の耳に、男の低い声が飛び込んできた。
「君……死者が視えるのか?」
目の前の男が、カッと目を見開いて僕を凝視していた。どこか期待を孕んだような、食い気味の問い。わけが分からず、不気味さのあまり僕は即座に否定した。
「視えません」
嘘は言っていない。僕には死者の姿を肉眼で捉えることはできない。一方的に声を聴き取れるだけだ。
「じゃあ、死者の声が聴こえるのか?」
店内には、僕と彼しかいない。それなのに、さっきの女性の声に反応してしまった以上、もう言い逃れはできなかった。
誤麻化してやり過ごす方が利口だったかもしれない。だが、男の向けた瞳があまりにも切実に、何かに縋るように揺れていたから。
嘘をつくのは簡単だが、今の彼を拒絶するのは不誠実な気がした。僕は何も言わず、コクリと一度だけ、小さく首を縦に振った。
「俺は登坂湊(とさか みなと)だ。頼む、俺の捜査に協力してくれ」
唐突すぎる申し出だった。
驚く僕を前に、男――湊は静かに明かした。彼にも死者に関わる特殊能力があり、声は聴こえないが、その姿を「視る」ことができるのだと。
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
自分と同じように、死者の存在に振り回されている人間が、他にもいた。世界中で自分だけが孤独に呪われていると思っていたのに。
「そんなこと急に言われても困ります。それに……確実に役立つかどうかも保証できませんよ」
なんとか声を絞り出す。生きている人間と同じで、死者だって嘘をつく。生前に嘘つきだった人間は、死んでからも平気で騙してくる。死者の言葉を鵜呑みにするのは危険なのだ。
すると、彼の後ろについていた「何か」が、今度は僕の方へとすり寄ってくる気配がした。カウンターを挟んで僕の目の前に回り込み、僕の顔を覗き込むようにして、再び声を響かせる。
『お願いだから断らないで。私、家に帰りたいの!』
再び響いた彼女の悲痛な訴えに、言葉が詰まる。
この力を使えば、嫌でも死者と深く関わることになる。今までずっと避けてきた道だ。誰かに期待されることも、必要とされることにも、僕は慣れていない。
(どうしよう……)
協力すれば、僕の平穏な日常が壊れるのは目に見えている。それでも、ここでまた背を向けて逃げ出すのは、何かが違う気がした。
頭の中でひたすら押し問答が続く。情けないほど答えが出ない。なのに、目の前の湊も、見えない彼女も、僕を急かすことはしなかった。
「……その前に」
ようやく絞り出せた声は、弱々しく掠れていた。
「事件の概要を……聞いてもいいですか?」
自分が一歩を踏み出そうとしている確かな予感が、その一言には籠もっていた。
大神 瑠愛 .
コメント
5件
うわあああ第1話からめっちゃ引き込まれた!!😭💕 鷹岸くんの「死者の声が聴こえる」能力、しかも生きてる人の声と区別つかないって設定がもう切なすぎる…いじめられたり父親から虐待された過去も重くて、でもそんな彼が登坂さんの「視える」能力と出会う展開、運命感じちゃうよ…!! 「事件の概要を聞いてもいいですか?」の最後の一言、震えた。彼が一歩踏み出す決意した瞬間、一緒にドキドキしたよ…!続きが気になりすぎる!!🌸