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朔弥「」
ルシアン『』
人間【】
人喰《》
人喰の住処で暮らすようになって、どれだけ経っただろう。
最初は怖かった洞窟も、今では逆に安心するようになっていた。
みんな大きくて、怖そうな牙をもっているのに、どうしてか優しい。
ある日、僕は洞窟の外で木の実を探していた。
人喰に教えてもらったように、背の低い木を指でそっと押して、赤い実を取ろうと手を伸ばした時だった。
『…それはダメだ。』
急に背中のすぐ後ろから声がして、僕はビクッと跳ねた。
「ルシアン…驚かさないでよ…。」
振り返るとルシアンは細い目で僕を見下ろしていた。
手には、僕がさっき取ろうとしていたものより少し明るい赤色の実が一つ。
『こっちは毒がない。サクヤはこれだけ取れ。』
「え……見た目はほとんど同じだよ?」
『サクヤには、まだ分からない。』
そう言って、僕の手のひらに実をのせてくれる。
「…ありがと。」
『礼はいらない。』
そういう割に、ルシアンは僕が歩き出したらずっと後ろを着いてくる。
まるで“影”みたいに。
夜になって、僕が毛皮にもぐると、洞窟の入口のところに、必ずルシアンが座っている。
ずっと、外を見張ってる。
気になって、つい声をかけてしまった。
「ルシアンって、寝てるの?」
『寝てる。サクヤが寝た後に。』
「……なんで?」
ルシアンは外を見たままだった。髪が火の光でゆらゆら照らされている。
「目を離すと、どこか行きそうだから。」
怒って訳じゃないのに、どうしようもなく“本気”の声。
自然と胸がギュッとなった。
「行かないよ。…ここ、嫌いじゃないし。」
『知ってる。でも、心配だ。』
──きっと、僕の安全のためなんだろうな。
と思った。
「…ねぇ、ルシアン。」
呼んだ瞬間、言いにくさを改めて感じた。
「名前、言いにくい…から…シアン、って呼んじゃ、ダメ…?」
ルシアンの体が少し硬直したような気がする。
──驚いてる時の癖だ。
なんて思いながらルシアンからの返事を待った。
『……好きにしろ。』
声がいつもよりほんの少しだけ高くて、なんだか照れてるみたいで、浮かれているみたいで、僕の方が戸惑ってしまったぐらい。
次の日の朝、水場で顔を洗おうとしゃがんでいたら、不意に手首を掴まれた。
「ひゃっ…!」
『…水が増えてる。一人で来るな。』
「だ、大丈夫だよ。これくらい浅いし…。」
『関係ない。』
いつもよりちょっと強めに引き寄せられて、足元の水面に映った僕の顔は、びっくりして目が丸かった。
けど、怖くない。
「…心配しすぎじゃない?」
僕がそう言って笑うと、シアンは少しだけ眉を寄せた。
『当たり前だ。サクヤは俺の──。』
そこで言葉が止まる。
シアンは少しだけ目線を逸らして、ゆっくりと手を離した。
『…離れるな。それだけだ。』
その言い方が胸にドンと響いた。
僕は、水に映る自分の顔を見ながら言う。
「シアンって、変だよ。」
すぐ横で
『お前ほどじゃない。』
って返されて、思わず声を出して笑ってしまった。
本当に変だ。
だけど、それが嫌じゃない。
むしろ──
温かい。
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