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それから俺は愛斗先輩を落とす為に色んなことをした。
映画館でポップコーン1つだけ買って二人で分けたり、俺たちが好きな小説の朗読劇を観に行ったり。
そして月日が流れ、バレンタインの季節になった。バレンタインは女の子が男の子に想いを伝えるチャンスが生まれる重大イベント。でも、男が男にあげてもいいと思う。
だって、俺も愛斗先輩にあげるつもりだから。
手作りだと流石に重いかなって思って市販のチョコにした。でも、売り場で30分くらい悩んだのは秘密だ。
そして、2月14日。昼休みにチョコの入った袋を持って先輩の教室へ向かった。
そして教室前。愛斗先輩を呼ぶと、愛斗先輩は笑顔で出てくる。
「翔くん。どうしたの?」
「えっと…バレンタインのチョコ、貰いました?」
すぐに渡そうと思ったけど、勇気が出なかった。
「まぁ…今のところ0だけど」
愛斗先輩はそう言って苦笑いする。そして、俺の手元の袋を見て、不思議そうに聞く。
「それ、貰ったの?」
「あぁ…いや、これは…」
俺はそこで口を噤み、チョコを先輩に差し出す。
「先輩にあげたくて」
俺がそう言うと、愛斗先輩は驚いた顔をして固まる。
チョコの箱をただ、じっと見ていた。
「あ、えっと…仲良くしてくれてるお礼です!」
咄嗟にそう誤魔化してしまった。
それを聞いて愛斗先輩はニコッと笑い、チョコを受け取る。
「ありがとう」
「いえ」
二人の間に沈黙が走る。
「…翔くんは誰かから貰ったの?」
「いえ。俺は誰からも貰ってないです」
「そっか」
先輩は心做しか、安心したような顔をしたように見えた。
俺が期待しすぎているのかもしれない。それでも俺は、少しでも勇気を出してみたいと思って。
「チョコ、春人にもあげてないんですよ。先輩だけなんです」
それを聞いた愛斗先輩は何も言えずに言葉を探しているようだった。先輩を困らせてしまった。
「…じゃあ、俺もう行きますね。また!」
俺はそう言って逃げるようにその場を去った。
余計な事、言っちゃったかな。多分愛斗先輩は俺の事をただの友達としか思ってないんだと思う。
そりゃあ、そうだよね。恋は難しいな。
教室に戻ると、春人が話しかけてくる。
「チョコ、渡せた?」
「うん。渡せたよ。でも、先輩の事困らせちゃった。いつもみたいに話せばよかったのに、変な事言っちゃったから」
「変な事?」
「うん。チョコ、先輩だけって。重いよね」
「いいよ。チョコ渡せたの、すごいと思うし。俺は全然だめだからさ」
春人はそう言って苦笑いする。
「でも…」
もし今回の言葉がきっかけで先輩に距離を取られちゃったらどうしよう。
「大丈夫。翔なら大丈夫だよ。それに、俺もいるでしょ?」
春人はそう言ってニコッと笑う。
やっぱり持つべきものは親友だな。
「ありがとう。俺が沈んでたら慰めてね」
「うん。いつも翔にはお世話になってるし。いつでも俺の事頼ってよ」
「わかった。ありがとう」
春人と少し話して、気が楽になった気がする。
俺ならきっと大丈夫。俺、可愛いもんね。
それから俺は卒業式までできる限りの事はした。先輩も俺の事は嫌いでは無いと思う。多分少なくとも、好かれてはいる。きっとそうだ。
そして卒業式当日。愛斗先輩の教室で一緒に写真を撮った後。
「愛斗先輩。ちょっと話があって。人前じゃ言いづらいんですけど…」
「何か相談事?場所、移動しよっか」
「はい。ありがとうございます」
「うん。じゃあ行こっか」
そう言って愛斗先輩は歩き出す。一緒に来ていた春人に一言言ったあと、俺は愛斗先輩について行った。
俺たちは屋上に出て、2人向き合う。
「話ってなに?」
「えっと…」
すぐに言おうと思っていたのに、なぜだか言い出せない。もしも振られてしまったら、二度と俺たちは会えなくなるかもしれない。だから。
「…短い間でしたけど、愛斗先輩と過ごした1年はすこい楽しかったです」
「やめてよ。なんか寂しいじゃん。別に卒業してからも会えばいいでしょ?」
愛斗先輩はそう言ってニコッと笑う。
「…そうですね」
俺はそう言って笑い返す。
「先輩が卒業するの、寂しいです。もっと早く仲良くなりたかったな」
無意識にそう言葉が出た。
「そんなに寂しいんだ。翔くんって俺の事大好きなんだね」
「好きですよ。すごく」
少し勇気を出してそう言った。
「本当?嬉しいな」
愛斗先輩はそう言って照れたように笑う。
違う。そういう意味じゃない。俺は先輩の事、恋愛的な意味で好きだから。
「…愛斗先輩が俺の事可愛いって言ってくれるの、すごい嬉しいんです。愛斗先輩の前だと可愛いを全力で出せますし」
「まぁ、それは本当に翔くんが可愛いからね」
そう言って愛斗先輩はニコッと笑う。
また、可愛いって言ってくれた。俺はもっと愛斗先輩に可愛いって言って欲しい。これからもずっとそばに居て欲しい。そのためには勇気を出さなきゃいけないんだ。
「…愛斗先輩」
「なに?」
そう言ってニコッと笑う先輩を見て、俺は深呼吸をする。
大丈夫。俺なら大丈夫。俺頑張ったし、大丈夫だよね。
俺は愛斗先輩の目をまっすぐ見て言う。
「…俺、愛斗先輩の事が好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
二人の間に沈黙が走る。
愛斗先輩は目を伏せて、少しした後言う。
「…ごめん。俺、翔くんの事そういう目で見てないから」
時間が一瞬、止まった気がした。
俺、振られたんだ。愛斗先輩は俺の事、ただの友達としか思ってなかった。先輩は俺とは違うんだ。
「あ…そうですよね。すみません。変な事言って」
「ううん。大丈夫だよ。大人になったら治る”病気”だから」
「えっ…?」
───今、なんて言った?”病気”?
胸がぎゅっと苦しくなった。先輩は俺の事、”病気”だと思ってるんだ。先輩から見た俺は変なんだ。
「…すみません。俺、もう行きますね。じゃあ」
俺はそう言ってニコッと笑った後、逃げるようにその場を去った。
愛斗先輩の前で初めて無理をして笑った。
愛斗先輩はもし振ったとしても、俺のこの気持ちを理解してくれると思ってた。なのに、先輩はさっき俺のこの気持ちを”病気”だって言った。俺は愛斗先輩といない方がいいんだ。
目に涙が滲んだ。でも、必死に我慢して教室に戻った。
教室では春人が待っていた。少し寂しそうな顔をした春人が。春人は俺に気付くと、慌てて俺の元へ駆け寄る。
「翔、大丈夫?」
「…振られちゃった」
「…そっか。俺も、勇気出せなかった。せっかく翔が背中押してくれたのにごめんね」
「いいよ。お互い慰め合おうよ。寂しい物同士」
「よし。翔。カラオケ行こ。失恋ソングでも歌おうよ」
「…うん。そうする」
そして俺たちはその後、カラオケに向かった。
失恋ソングを泣きながら歌ってお互いを慰め合う。
そして、俺が歌っていると、春人が机に置いてある俺のスマホを見て言う。
「翔。電話」
「え?誰から?」
「…愛斗先輩」
「えっ…?」
マイクを握ったまま、俺は動けなかった。
心臓がキュッと苦しくなる。
部屋の中にはBGMと電話のコールだけが鳴り響いていた。