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朝。目が覚めると、私の真横でテレーゼさんが眠っていた。
「……なんでやねん」
まずは、ステレオタイプな感じの関西弁でツッコミを入れてみる。
しかしベッドは隙間なく真横に並べていたので、寝返りを繰り返していれば、こうなる可能性も十分にある。
もし偶然にこうなっていたのであれば、私のツッコミへのテレーゼさんの反応は『しらんがな』になるだろう。
もし偶然ではないなら――今回は温かい目で見ることにしよう。別に、何をされたっていうわけでも無いからね。
……さて。
着替えや準備の時間もあるし、そろそろテレーゼさんを起こしてあげようかな。
「テレーゼさん、朝ですよー」
「うぅ~ん、あと30分……」
30分って……長すぎだから! せめて5分とかで我慢しよ?
「そんなに寝てたら、ご飯が逃げちゃいますよー」
「……それは困りますぅ……」
そう言うと、テレーゼさんはむにゃむにゃとしながら身体を起こした。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「おや、アイナさん。どうしてうちに?」
「いえ、ここは私の家ですけど」
「そうですか、ついに嫁に来たんですね……」
……話がまるで通じていない。
完全に寝ぼけているようだ……。
「さぁさぁ、もう起きてください。
パジャマでも別に良いですけど、みんなに見られちゃいますからね」
「お母さん、別に家族しかいないならパジャマでも良いじゃないですか……」
……テレーゼさんの家族構成の位置はどこなのだろう。
寝ぼけているにしても、いまいち良く分からないぞ……?
「起きないなら、お布団ひっぺがしますよ。
――それっ!!」
なかなか話が進まないので、テレーゼさんに掛けられた布団を一気に剥がしてみる。
寒い時期ではないとはいえ、急に剥ぎ取られてしまえば寒く感じてしまうだろう。
「うひゃっ!!?
……あ、あれ? アイナさん? おはようございます」
「おはようございます。目は覚めましたか?」
「はい、ばっちりです!
最後にしあわせ家族の夢を見ていましたが、それは内緒にしておきます」
「そうですね、そうしておいてください。
それじゃ着替えて準備して、食堂にいきますよー」
「……ああ、そうでした。アイナさんのお屋敷にお泊りしているんでしたね。
起きたら朝食があるなんて、とっても素晴らしい……」
テレーゼさんはそう言いながら、ようやくベッドを下りてくれた。
「エミリアさんとルークも一緒なので、遅れたら申し訳ないですよ。急いでくださーい」
「は、はーいっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
支度を済ませて食堂に行くと、すでにエミリアさんとルークが座って待っていた。
朝食の準備もできており、給仕にはクラリスさんとミュリエルさんが当たっている。
「おはようございまーす」
「おはようございます!!」
私の挨拶を皮切りに、それぞれが朝の挨拶を交わしていく。
「それじゃテレーゼさん、昨日と同じ席へどうぞ」
「はい、ありがとうございます!
わー、朝から素敵なお食事ですね」
豪華なお料理では決してないんだけど、栄養のバランスが考えられたメニューが並べられている。
一人暮らしのテレーゼさんからすれば、立派な献立に違いない。
「お待たせしました、それでは頂きましょう」
朝食をとっていると、そういえばという感じでエミリアさんが話をしてきた。
「ところで昨晩、夜中に何かやっていましたか?」
「ああ、幽霊騒動が――いや、無かったんですけど」
「え?」
あるんだか無いんだか。えーっと……。
ちょっと中途半端に言ってしまったところに、テレーゼさんがフォローを入れてくれた。
「私の寝てた部屋で、怖い雰囲気がしたので見てもらったんです。
結局は何もなかったので、ご安心ください!」
「……というわけです」
「そうだったんですか。わたしはどうも、そういうときには寝ぼけたまま起きられないので……。
でも、今回はルークさんも仲間ですね♪」
「いえ、私も一緒に調べました……」
ルークが申し訳なさそうに言うと、エミリアさんの笑顔が見る見るうちに消えていった。
「え、えぇーっ!?
また、わたしだけ仲間外れなんですかー!?」
「だって夜中でしたし……。ルークはちょうど修練に行く時間だったので、声を掛けた感じですし……」
「むぅ……。次は何かあったら声を掛けてくださいね!
わたしもそろそろ、寂しくて死んでしまいそうです!」
……ウサギかな?
しかしそこまで言うのであれば、次に何かあったときは声を掛けさせて頂こう。
眠っている人をわざわざ起こすのも、何だか申し訳ないけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食のあと、テレーゼさんと食堂に残って今日の予定を立てることにした。
「はぁ……。それにしても昨晩はご迷惑をお掛けしました。
なんとも情けない限りです……」
「いえいえ、気にし始めたら気になっちゃうものですよ」
ちなみにルーク曰く、天井裏に何かがあるらしいのは確かなんだよね。
でも無駄に不安を煽る必要は無いし、テレーゼさんには黙っておくことにしよう。
「それでですね。今日なんですが、お昼くらいに帰ろうかなって思います」
「あ、結構早いですね。昼食はどうしますか?」
「2食も頂いてしまいましたので、さすがに申し訳ないかと……。
ですので、昼食は食べないで帰りますね」
「別に気にしないで大丈夫ですけど……。
でもそうすると、時間があまりありませんね」
「え? もしかして、どこか案内してくれる予定とかがあったんですか?」
「はい。以前にお屋敷の中を見たがっていたから、一通り案内しようかと思っていたんです」
「本当ですか!? それじゃ、見れるところは全部見ていきます!」
「いやいや、次回にまわしても良いですよ?」
1回で全部終わらせる必要は無い。
小分けにして楽しんでもらえれば、何回でも泊まりに来る理由ができるのだ。
「……それじゃ、今日は1箇所だけリクエストします!
そこは帰り際に寄りたいので、そのときまでは秘密にさせてください♪」
「え? うーん、分かりました。
それじゃ余裕を持って11時くらいにお屋敷を出て……。あ、お屋敷は出ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です!」
となると、思い当たる場所は工房かお店か庭か、そこら辺しか無いけど――
……まぁ、あとになれば分かるし、それまでは良いか。
「――そうだ。テレーゼさんにお話しておくことがあるんです」
「私、また何かやっちゃいましたか……!?」
「いえ、そうでは無くて……。あのシェリルさんの件なんですが」
「シェリルちゃんっ!? 何か分かったんですか!?」
その名前を聞くと、テレーゼさんは食い付き気味に話してきた。
「ちょっと具体的には言えないんですが……実は、会ってきたんです。
そのときは元気な方……ヴィオラさんだったんですけど」
「えぇ……!? 元気にしていましたか!?」
「はい。えぇっと……今はある貴族様のところでお世話になっているんです。
外出が出来ないとかはありますけど、立派な部屋ももらって、シェリルさん共々なんとかやっている……って感じでした」
……しかし、それは最近のことだ。
しばらく前までは、グランベル公爵から酷い目に遭わせられていたけど……今ここで、それを言う必要は無い。
「そっか、そっかぁ……。
ひとまず……、はい! 安心、安心しました……っ!」
テレーゼさんは涙をぼろぼろと零しながら、何とか声を振り絞って言った。
ずいぶん会っていない幼馴染のことを、彼女なりにとても心配していたのだろう。
……この世界では、死別も珍しくないのだから。
「大変でしたね……。
ちなみにテレーゼさんが錬金術師ギルドの受付嬢をしているって教えたら、大笑いしていましたよ」
「……えっ?
えぇーっ!!?」
「バーバラさんが服屋で働いているのは、予想通りだって言っていました」
「む、むむむぅ……。今度会ったら、文句を言ってあげます!!」
今度会ったら――
……その願いは叶うのか、どうなのか。叶うにしても、いつになるかは分からない。
でも……私もできる限り、彼女たちが会うことが出来るように努力をしていこう。
「――あんまり多くのことを言えなくてすいません。
でも、再会してもらえるように私も頑張りますので、待っていてくださいね」
「は、はい! ありがとうございますぅ。……うぅーっ」
再び涙を零し始めるテレーゼさん。
しかし、私が頑張るのはテレーゼさんだけのためではない。
ヴィオラさんもシェリルさんも、可能であれば狭い部屋から助けてあげたいのだ。
誰かのために誰かの自由が奪われるなんて、それはとっても悲しいことなのだから。